第43話 『計画』

パイソンはロケットボートの計器類をチェックしていた。

しかしどこにも異常は無い。

無線の不調は多少起こったが、とりあえず今のところ無事に機能している。

接続ドッキング装置も確認するが、こちらにも異常は無さそうだ。

自動燃料補給ロケットは、既に発射され、あと数十分後には接続ドッキングをしなくてはならない。

訓練でもたった一度しか試したことはなく、半ばぶっつけ本番のような感じだが、勝つためにはこの方法しかなかった。

リリアンとの約束を守らなければとの思いも強かったが、最後のレース、後悔なく終わるためにもやるだけのことはやりたかった。それでダメだったのなら、諦めもつくだろう。


「やれるだけやってやろう。絶対に勝つんだ」


だが、パイソンの思考とリンクするかのように、リリアンから個人無線が入る。


「ねえ、あなた。ガニメデからなんのロケットを打ち上げたの?」


リリアンが不安そうに訊ねてきた。

恐らくテレビからの情報を見たのだろう。


「自動燃料補給ロケットだ。これを使えば、ガニメデへのピットインをしなくて済む」


「ピットインをしないですって?それって危険なことでしかないわ。どうしてそんな・・・」


「大丈夫だよ。この自動燃料補給ロケットを接続ドッキングする作戦ってのは、次世代の作戦プランになるものなんだ。だけど何も危険ではないよ。訓練でも一度も失敗したことはない作戦だからね」


一回しか訓練したことはなかったが、リリアンを心配させないよう、このように言い回す。


「そんな作戦聞いたことなかったけど、どうして教えてくれなかったの?」


「極秘プランだったからね。社内でも知っているのは、ごく数人だけだったんだ」


「そんな極秘プランなのに、あなたいつ訓練をしていたの?極秘だったのなら、本当はそんなに訓練出来てないんじゃない?」


パイソンはリリアンの考察に驚いた。

図星をつかれたパイソンは、急いで言葉を考える。


「確かに通常の訓練よりも、訓練回数は少なかったがしっかりと準備は出来ているよ。それに約束したじゃないか。危険なことはしないとね」


「もう心配でしかないの。あなた、レース後半になるほどリスキーなことをしかねないんだもの。計器は正常?少しでも異常があれば、ガニメデへピットインして」


「何回も言わせるなって。ちゃんと分かってるよ、リリアン。危険なことはしないとね。それよりミートパイの準備は進んでいるかい?」


リリアンの気を紛らわせようと、パイソンは話題を変える。

だがリリアンは納得していないようだ。


「ミートパイの準備はしてるわよ。だけど、約束を反故ほごにして自分勝手なことをするのなら、一口もあげないし、うちにも上げないわ」


珍しく強い口調で言う。


「すまない、リリアン。そろそろ準備をしなくては。また木星をスイングバイしたらまた連絡するよ」


パイソンは珍しく自分から無線を切ると、ひとつ深呼吸をした。

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