第42話 『バンクス』
「マックスの野郎がどうやって金を返すか見ものだな。奴はどうせチェイス・ザ・ギャラクシーで、一か八か賭けているんだろうが、人生、負けが込んでる奴に、勝ち運なんか回ってこねぇだろうぜ」
取り立て屋のバンクスは、自分のオフィスでワインを飲みながら部下のコンラッドと話していた。
「仰るとおりです、ボス。今回もギャラクシーファクトリーのロックが優勝でしょうね。仮にマックスがロックに全財産賭けたとしても、単勝オッズは2.3ですからね。それではまだ返済額には届かないでしょう」
コンラッドは、オフィスの壁に掛けられた巨大テレビで、チェイス・ザ・ギャラクシーの中継画面をチラッと見ながら答えた。
「ああ。本当に笑っちまうぜ。大穴の八幡㈱に賭けた可能性はあるが、十中八九、ギャラクシーファクトリーの勝利だろう。借金返済のためにあたふたしてる人間ってのは、見ていて面白いな」
バンクスはそう言いながら、テーブルの上に置かれていたピーナツを手にすると、一粒口に放り投げた。
「しかしボス、もしマックスの奴が今回の賭けに負けて逃げ出したりしたらどうするんです?」
コンラッドがバンクスに訊ねる。
「心配無用だ。ちゃんと手は考えてある。何処かにトンズラしようとか、金を返さず自殺しようとか、そんな甘いことはさせねぇよ。金を返せねぇなら、ちゃんとケジメをつけてもらわなきゃな」
バンクスはピーナツを噛み砕きながら答えた。
「さすがボス、ちゃんと考えてあるんですね。奴には痛い目を見せてやりましょう」
コンラッドは目をギラつかせた。
「おいおい、別に俺たちは悪魔じゃないんだぜ、コンラッド。マックスの野郎がきちんと金を返せると言ってるんだから、信じてやろうじゃないか。だが金を用意出来なきゃ、その後のことは知らねぇな。まあしかし、俺は小心者だからそんなに野蛮な事は出来ないがね」
バンクスがそう言うと、コンラッドと共に大笑いをした。
「じゃあボスの代わりに、俺が奴を懲らしめても良いですか?」
コンラッドがニヤニヤしながら訊ねる。
「ああ、任せるぜ」
バンクスがワインを飲みながら言うと、急にテレビから興奮したリポーターの声が飛び込んできた。
『速報です。MWコーポレーションのピットインセクターから、ロケットのようなものが打ち上げられました。繰り返します。MWコーポレーションのピットインセクターから、ロケットのようなものが打ち上げられました』
『ロケットだって?それは一体なんの為のロケットか、情報は入っていないかい?』
地球のスタジオに居るキャスターが、ガニメデのリポーターに話しかける。
『情報はまだ発表されておりません。何か分かり次第、こちらからお伝えします』
そのやり取りをバンクスとコンラッドは、じっと聞いていた。
「ボス、もしかしたらマックスの奴、MWコーポレーションのパイソンに賭けたんじゃないですかね?単勝オッズも4.1ですし、そうすれば返済額に達しそうです」
コンラッドは考え込んだ。
「MWコーポレーションのロケットってのはなんだ?まさか、切り札みたいなものか?マックスの野郎、何か情報を握っていたのか?」
バンクスもテレビ画面を見ながら呟いた。
「まあいいさ。マックスの野郎がどうなろうと知ったこっちゃねえが、今回のチェイス・ザ・ギャラクシーは、なにかと面白いな。久しぶりにハラハラさせられるぜ」
バンクスはワインを飲み干すと、笑いながら言った。
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