ジャージ狩り〜生徒たちは得物を駆使してジャージを脱がし合う〜
神通百力
ジャージ狩り〜生徒たちは得物を駆使してジャージを脱がし合う〜
校庭には
一大イベントの『ジャージ狩り』は二学期に入ってから最初に行われる行事である。ルールは簡単で、相手のジャージ――ズボンの方だ――を脱がせばいいだけだ。脱がされた時点で失格となり、校庭に設けられた脱落ゾーンで終了まで待機する。その間、下着を曝け出した状態で過ごさねばならず、生徒の間では『
フィールドは校舎全体であり、全生徒が参加する。といっても一学年に十人しかおらず、全生徒合わせても三十人しかいない。クラスも一つだけだ。
この日だけは得物を使用することが許可されている。各生徒は己の得物を駆使し、ジャージを脱がすのだ。多くのジャージを脱がした生徒の優勝である。
校長が校内放送で開始を告げ、『ジャージ狩り』が始まった。
☆☆
「二年一組、香水の
女子生徒――田中はジャージリストとしての名乗りをあげた。ジャージリストとはジャージを身にまとい、己の得物を駆使する者を指す。田中の得物はその名の通り香水である。
「二年一組、ハリセンの藏木」
藏木もジャージリストとして名乗ると、右手に持ったハリセンをパシッと鳴らした。その名の通り、ハリセンのジャージリストだ。全生徒がジャージリストとしての名乗りを持っている。
先に動いたのは田中だった。ポケットから香水を取り出すと、藏木に向かって吹きかけた。すかさず藏木はハリセンを全力で横に振った。ハリセンが起こした風によって香水は散り、余計に臭いが充満した。吐き気を催すかのような臭いだった。
藏木はハリセンをうちわのように動かし、香水を田中の方へ追いやった。すると田中は身をかがめて走り出した。あっという間に藏木の目の前まで来ると、数種類の香水を同時に吹きかけた。香水が混ざり合い、ドブのような臭いが空間を支配した。度を越えた臭いに藏木は吐きそうになった。
たまらず藏木が鼻を押さえた瞬間、田中が吐いた。吐瀉物が廊下にぶちまけられる。朝に食べたと思われるカレーらしき具材が吐瀉物の中に含まれていた。あるいはシチューの具材かもしれない。
「てめえが吐いてどうするよ。ちょっとズボンにかかったじゃねえか」
藏木はそう言いながら、田中から離れた。
田中は苦しそうに呻きながら、ゆっくりとズボンを脱いだ。純白のパンツがあらわになった。
「こ……これを受け取って……わ……私の分まで頑張って」
田中は藏木の元にズボンを放り投げると、力尽きたかのように目を閉じた。
「た、田中!」
藏木は叫ぶと、田中の元に駆け寄った。泣きながら田中の体に縋りついた。その手はゆっくりと田中の尻を撫でた。
「……さりげなく尻を触らないでくれる?」
「す、すまん、つい出来心で」
藏木は田中の尻を触ったまま、頭を下げて謝った。すると校内放送が流れ、田中のリタイアを告げた。
「藏木君、頑張ってね」
田中は立ち上がると、去り際にそう言い残し、階段を降りていった。
藏木は田中のズボンを肩にかけると、廊下を進んだ。
☆☆
「三年一組、ピアノ線の佐々木」
「三年一組、水鉄砲の鈴木」
鈴木は名乗るや否や両手に携えた水鉄砲を空中に向かって発射した。
佐々木は不敵な笑みを浮かべると、指を動かした。その瞬間、鈴木は右の頬に衝撃を感じた。水鉄砲を指に引っ掛けると、頬に当たった何かを掴んだ。それは
佐々木はあらかじめ仕掛けを用意し、鈴木が窓の側を通ったタイミングで黒板消しに巻き付けたピアノ線を引っ張ったのだ。
鈴木は反撃しようとしたが、時すでに遅く、佐々木はズボンに手をかけていた。佐々木は笑うと、一気にズボンを下ろした。――パンツも一緒に。
「てめえ、何パンツまで下ろしてんだよ!」
おいなりさんがあらわになった鈴木は顔を真っ赤にして叫んだ。
「そんな汚らしいものを見せるんじゃない!」
佐々木も顔を真っ赤にして叫ぶと、鈴木の股間を思いっきり蹴り上げた。直で蹴りを食らい、鈴木は呻きながらその場に蹲った。
「……てめえが脱がしたんだろうが!」
鈴木は佐々木を睨みつけた。次の瞬間、校内放送が流れ、鈴木のリタイアを告げた。
「負けてしまったものは仕方ない。佐々木、頑張れよ」
「ああ、鈴木の分まで頑張るよ」
佐々木は鈴木のズボンを肩にかけると、廊下を進んだ。鈴木は佐々木を見送ると、パンツを穿いてから階段を降りていった。
☆☆
「一年一組、セクシーダイナマイトの山口」
「一年一組、ブーメランの加藤」
加藤は名乗り終えると同時にブーメランを投げようとしたが、タイミングを計っていたかのように山口がジャージのファスナーを下ろした。ジャージの隙間から谷間が見え、加藤は喉を鳴らした。山口の得物は自身の体だった。一年生らしからぬセクシーなボディで相手を誘惑し、ジャージを狩るのだ。
谷間に心をかき乱され、加藤は手の力が抜けてしまった。勢いなく解き放たれたブーメランは弧を描くように、山口の谷間に落ちた。山口はニヤリと笑うと、ブーメランを自分の谷間に挟み、ゆっくりと加藤に近づいていく。
加藤は我慢できなくなり、両手を盛大に広げると、山口の豊満な胸に飛び込んだ。山口は慌てることなく冷静に加藤の顔面に自分の胸を押し当てた。加藤は顔を真っ赤にしながらも、無我夢中で顔を山口の胸に押し当てる。
「……もうそろそろかな?」
山口が呟いた瞬間、加藤は急に苦しくなったが、すぐにその理由に気付いた。鼻と口が山口の胸で塞がれて息が出来なくなったのだ。しかし、そんなことはどうでも良く、加藤は欲望のままに山口の胸を揉み始めた。
「息ができないはずなのに、よくもまあ、バカみたいに胸を揉めるね。普通なら引き離すところだよ。本当、男子ってバカだよね」
山口はそう言いながらも、加藤を引き離そうとはしなかった。気絶するまで待つつもりなのだろうと加藤は推測した。加藤は胸を堪能しながらも徐々に意識が朦朧としていき、ついに気絶した。
「あんたはここでリタイアだけど、私の胸を揉めて満足でしょ?」
山口は言いながら加藤のズボンを脱がした。ズボンを肩にかけた瞬間、校内放送が流れ、加藤のリタイアを告げた。
廊下を進もうとした時、誰かが階段を駆け上がってくる音に気付いて山口は足を止めた。階段を見ると、上がってきたのは先生だった。先生は気絶した加藤を担ぎ上げると、階段を降りていった。
それを横目で確認しながら山口は廊下を進んだ。
☆☆
校庭の一角に設けられた脱落ゾーンには数名のジャージリストが下着姿で待機していた。ジャージリストたちは顔を真っ赤にしつつも、モニターをしっかりと観ていた。その中でもひと際、顔が赤くなっていたのは田中だった。ジャージリストの父親たちが田中の下着に釘付けになっていたからだ。それに気づいた妻たちが夫の頭を叩いた。
「……お父さん方を見惚れさせるなんて私って罪な女よね」
「いや、お前に見惚れてるんじゃなく、純白のパンツが見たいだけだろ」
鈴木が呆れ気味に言ったことに田中は腹を立て、股間を思いっきり蹴り飛ばした。いくら先輩でも許せなかった。呻きながら蹲った鈴木の腕を田中は両足で挟んで締め上げた。鈴木は悲鳴を上げ、田中のパンツに突っ伏した。
「クサッ! お前、パンツにウン……」
「違います! 多分、吐瀉物ですよ。ジャージの隙間から中に入り込んだのかも」
田中がそう言った瞬間、ジャージリストたちは逃げるかのように脱落ゾーンの隅に移動した。
「俺を置いていかないでくれ! 吐瀉物の側は嫌だ!」
田中に関節技を決められたままの鈴木は涙目で叫んだ。ジャージリストたちは悔しそうな表情を浮かべると、鈴木の墓を砂で造り始めた。その作業を眺めていた鈴木は悟りを開いたかのような表情を浮かべた。
「吐瀉物に殺されるのもありかもな」
「女の子を吐瀉物扱いしないでくれませんか?」
田中は鈴木を睨みつけると、ようやく腕を離した。鈴木は腕をさすりながら、脱落ゾーンの隅に移動する。ジャージリストたちは歓喜の声を上げ、鈴木と熱い抱擁を交わした。
「何で死地に赴いた仲間と再会したみたいな雰囲気を醸し出しているのよ」
田中は呆れつつも、優し気な表情で鈴木たちを見て微笑んだ。
☆☆
藏木は東校舎から西校舎の一階に移動した。辺りを見渡しながら廊下を進み、二階に上がろうとして足を止めた。階段にピアノ線が張り巡らされていた。この近くに佐々木がいるということに他ならない。踊り場の窓から差し込んだ日差しのおかげでピアノ線に気付くことができた。
藏木はハリセンでピアノ線を薙ぎ払いながら階段を上がっていく。踊り場にたどり着き、見上げると佐々木が二階から見下ろすように立っていた。
「三年一組、ピアノ線の佐々木」
「二年一組、ハリセンの藏木」
藏木は名乗ると同時に階段を駆け上がったが、何かに足が引っ掛かって思わず動きを止めた。二段目と三段目の間にピアノ線が張られていた。すぐに身構えたが、何も起こらなかった。
藏木は疑問に思いながらも、気を引き締めて階段を駆け上がる。すると、佐々木は右腕を上げ、後ろに引いた。次の瞬間、何かが藏木の頭に落ちた。
「いたっ!」
藏木はあまりの激痛に叫び、階段に落ちた何かを見た。それは大量の
佐々木の指を見ると、ピアノ線が巻き付いていた。予めボールネットに黒板消しを入れて仕掛けを作っていたのか。入り口の部分を切ったのは黒板消しを落としやすくするためだろう。切り落とした入り口の部分をピアノ線で結び、タイミングを見計らって引っ張ったのだ。解けやすいように軽く結んでいたと思われる。先ほどのピアノ線は天井に注意が向かないようにするためのカモフラージュだったのだろう。
佐々木はゆっくりと階段を降りて藏木に近づいていく。藏木は頭のダメージが大きく、すぐに立てなかった。少しでも時間を稼ごうと黒板消しを投げようとした。しかし、指に痛みが走って慌てて手を引いた。黒板消しからピアノ線が突き出ていた。
「相手に武器を与えるような仕掛けをするはずがないだろう。ちょっと考えれば細工してあることは分かるだろうに」
佐々木は呆れたように藏木を見た。藏木は両手をあげ、降参のポーズを取った。佐々木は藏木を二階まで引っ張ると、ズボンに手をかけて一気に下ろした。
「……なんか、パンツ湿ってない?」
「黒板消しが頭に当たった時、ちょっとチビりました」
「藏木君……漏らしたんだ」
「漏らしてません! ちょっとチビっただけです!」
「人はそれを漏らしたと言うんだよ」
佐々木はそう言いながら、藏木から離れた。すると校内放送が流れて藏木のリタイアを告げた。
「佐々木先輩、頑張ってください」
「ありがとう、藏木君」
佐々木は笑うと、藏木が持っていた田中のズボンも肩にかけて廊下を進んだ。藏木は階段を降りると、脱落ゾーンに向かった。
☆☆
山口は東校舎一階の廊下を警戒しながら歩いていた。すると前方から佐々木が歩いてくるのが見えた。
「三年一組、ピアノ線の佐々木」
「一年一組、セクシーダイナマイトの山口」
山口は名乗りながら、後ろに下がった。相手が同性ではセクシーボディを
「……山口さんって本当にセクシーだね。羨ましいよ」
佐々木はほんのりと頬を染めて山口をじっと見つめていた。その視線は山口の胸に向いている。佐々木の表情を見ていると、誘惑できるのではないかという気がした。山口は一縷の望みをかけてジャージのファスナーを下ろした。
「あっ、谷間!」
佐々木は理性を抑えるかのように、唇を噛み、山口の谷間をガン見した。勝てると確信した山口はゆっくりと佐々木に近づいていく。佐々木は鼻息を荒くした。思いの外、興奮していることに驚いたが、何よりも佐々木がレズだとは山口は知らなかった。
佐々木の目前まで来た山口はズボンに手をかけようとした。すると佐々木が手を動かすのが見え、腕に僅かな痛みを感じて思わず叫んだ。いつの間にか両腕に
「ふぅ~、捕まえた。後ろに下がった時はちょっと焦ったけど、策が成功して良かったよ」
佐々木は安堵したように息を吐いたが、山口は訳が分からなかった。佐々木が言う策とはいったい何のことだろうか?
「策って何なんですか、佐々木先輩?」
「山口さんは私がレズだと思ったから誘惑を仕掛けたんだろ?」
「えっと、そうですけど」
山口はピアノ線の痛みに顔を歪ませながらも頷いた。
「もし私が本当にレズなら学校中に噂が広まってるはずだよ。何せ生徒は私を含めてたったの三十人しかいないんだからね。けど、そんな噂は聞いたことがないだろ? ちょっと考えれば山口さんを近づかせるためにレズの振りをしていると分かるだろうに」
佐々木は呆れたようにため息をついた。山口は勝てると確信した数分前の自分を殴りたくなった。相手は三年生なのだ。甘く見てはいけなかった。
佐々木は山口のズボンを脱がすと、ピアノ線を解いた。その直後、校内放送が流れて山口のリタイアを告げる。
「佐々木先輩、頑張ってくださいね、応援してますから」
「ありがとう、山口さん」
佐々木はそう言うと、山口が所有していた加藤のズボンも肩にかけて廊下を進んだ。山口はジャージのファスナーを上げると、階段を降りていった。
☆☆
「――それでは『ジャージ狩り』の優勝者を発表したいと思います。優勝は三年一組の佐々木さん、おめでとうございます。その数はなんと十五本! 素晴らしい成績です! 佐々木さん、朝礼台に上がってきてください」
校長に名前を呼ばれ、佐々木は校庭に置かれた朝礼台をゆっくりと上がった。佐々木は山口に勝利した後、次々とジャージリストたちのズボンを奪い、最終的に十五本も手に入れた。
「優勝者の佐々木さんには私のブロマイド写真をプレゼントします!」
校長は満面の笑みで自身のブロマイド写真を渡したが、佐々木は微妙な表情で受け取った。ジャージリストたちは優勝しなくて良かったと心から思い、盛大に拍手をして佐々木の優勝を祝った。
数日後、佐々木は全生徒の机の中に校長のブロマイド写真を忍ばせ、学校中から悲鳴が上がった。
ジャージ狩り〜生徒たちは得物を駆使してジャージを脱がし合う〜 神通百力 @zintsuhyakuriki
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