第45話 依頼の始まり




副長カインから依頼という形の沙汰が下されたユートは、里外れにある門の前へとやってきていた。

カインによる依頼の説明を受けた後、休息する時間すら与えられず依頼へ向かうよう送り出されてきたのだ。



「今回は同行できないが…修行を終えダークエルフとなった暁には、必ず駆けつけよう。

なぁに、明日にでもダークエルフになれるさ!」



自信満々に言い切るルルとはしばしの別れとなった。

どのような方法でダークエルフとなるのかは分からないが、一朝一夕で成せられるものではないだろう。

はじまりの村から離れたこの地でルルとも別れた今、今回の冒険は見知った仲魔の力を借りる事はできないのだ。



「事は一刻を争う。依頼を早く達成できれば追加の報酬を出す、とカイン様は仰せだ。

しっかりと頼むぞ」



ルルと別れたユートを里の外へと続く門まで案内してくれたエルフは真剣な眼差しで言うと、小走りで戻って行ってしまった。


ここまで案内してくれた彼女には見覚えがあった。

牢に囚われたユートを裁きの場へと連れ出したエルフだ。

ルルのような見習いと、カインのようなハイエルフの間に挟まれた中間管理職のエルフ。


そんなに急ぐのであれば裁判ごっこなどせずに早く話を進めれば良かったのではないか…と不満はあるが、胃の辺りを抑えた渋い顔のエルフに免じて、ぐっと飲み込む事にする。


ここでユートは依頼への同行者兼お目付役と合流する手筈となっていた。


メルトとの戦いで武器を失い、アイテムすらろくに持っていないユートだが、その同行者が依頼攻略に必要なアイテムも準備してくれるらしい。

里中を駆け回ってアイテムを補充しているので、合流には少し時間がかかるであろうとの事だった。


同行者が現れるまで待つしかないユートは、手持ち無沙汰に辺りを見回すほか無かった。



ハインの里は水上に浮かぶ木造の集落だ。

小さな湖を渡るように行政や居住といった各区画が橋で繋がれ、里内で機能が完結できるつくりとなっている。

これは火災が起きた際に橋を落として延焼を防ぎ、立地を活かした消化活動をしやすくする狙いがあるのだ、と胃痛持ちのエルフが説明してくれていた。


元々は陸上の樹木の上に拠点を構えていたエルフ達だが…どういうわけかエルフの集落は火災に遭いやすく、よほど古い里でなければ水上式に切り替わっているらしい。


ユートが現在腰を下ろしている門前の区画は、湖の端……エルフの霊薬が置かれている洞窟へと続く道にある。

外部との入り口になる場所だが、門番はおろか人通りが無い静かな場所であった。



(お目付役どころか、人ひとり居ないな…)



ユートは立ち上がり、外部へと続く門を眺める。

ここに来るまでに見てきた家屋もそうだが、門の造りも立派なものだ。

大人5人分はあろう高さのそれに、細部まで彫り込まれた意匠。

扉も分厚くそう簡単に破られるものではないだろう。


しかし、門の開閉はどうするのだろうか。

見たところ開閉に繋がる装置など無いが…魔法の力で行うのであろうか。


そっと手を当て力を入れるユートだが、扉はびくともしない。



「その門はニンゲンさんには開けられないよ。

わたち達エルフじゃないとね!」



快活な声と共に、扉に手を当てていたユートの隣にダン!と添えられる張り手。


その衝撃を受け、バキバキと木をしならせながら扉が押し開かれていく。

魔法の力などではない、純粋な力による開閉方式。



「遅くなってごめんね!

一杯準備ちて来たから、はりきって行こうね」



ふう、と片手で門扉を開け放ち、彼女はそう言った。

ユートの同行者兼お目付役となるエルフとは、まさか……。



「ユートさん…でいいんだよね?

わたちの事はマーガレットって呼んでね」



ドズン!ともりもりに膨れた荷物袋が、木の床に打ち付けられるように降ろされる。

この冒険に必要なアイテムが収納されているであろう、人ひとり収納できそうな大袋だ。

その袋から覗く山のような数の杖、杖、杖……。



「この任務はぜーったいちっぱいできないからね!

アイテムをたっくさんかき集めてきたんだ。

ユートさんの分もあるよ!」



彼女は満面の笑みでユートの手を掴み、ブンブンと豪快な握手を繰り出している。

激しく揺さぶられる体に目眩を覚えるユートだが、原因はそれだけではないだろう。


カインの語ったハインの里の特記戦力──『杖使い』のマーガレットとの楽しい冒険が始まろうとしていた。




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魔物娘と不思議な冒険 ねこがみ @nekogamicat

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