「正義の反対は悪ではなく別の正義」なら「悪の反対は正義ではなく別の悪」

「正義の反対は悪ではなく別の正義」なら「悪の反対は正義ではなく別の悪」

「おい……お前ら……。三十数年前、私の計画を『気が長過ぎる』と言って批判していたな……」

　ようやく、この日が来た。

　ヤツらが……正確にはヤツらの先代か先々代が、あっさり我等が首領を倒してから、我が組織は三人の上級幹部による合議制により運営されてきた。

　しかし、それも今日で終る。

「ふ……ふざけるな。あの時、あんな計画が巧く行くと思う奴が居た筈が無い。頭のおかしいお前を除いてなっ‼」

「そうだ、そうだ‼ 今の基準で過去を裁くなッ‼ お前は『正義の味方』かッ？」

「残念だが……結果が全てだよ。中級・下級幹部の諸君も、１人残らず私のシン首領就任に賛同している。そして、私（﹅）の組織には、無能な幹部など不要だ。我が前任者が死んでから三十年以上、無駄飯を食ってきたツケを清算してもらおう。君達の命でな」

　私の計画は、ようやく実を結び……我等が敵は消え……そして、別の「正義の味方」が現われる事も有るまい。

　例え、現われたとしても、奴等が守ろうとする人間どもが、奴等に石を投げる筈だ。

「よし、罪人どもにも冥途の土産ぐらいくれてやろう。人間どもの『ネットニュース』とやらを表示しろ」

「Ｗｙｙｙｙｙｙ……」

　私が命令を下すと、戦闘員達は一斉に返事をして大型モニタに人間達が使っている「動画サイト」とやらを表示し……。

「おい、待て、『罪人』とはどう云う意味だ？」

「これから処刑される奴等が『罪人』でなくて何だと言うのだ？」

　長い道程（みちのり）だった。

　特撮やアニメの脚本家や監督。漫画家。インターネットとやらが普及して以降は「ネット論客」とやら。そして政治家や政治評論家。

　私と私の作戦に賛同する部下達は、それらの者達を拉致・脳改造し続け……ある概念を広めた。

　それは「正義は危険」「正義は暴走する」「正義の反対は悪ではなく別の正義」。

　たしかに、我（﹅）々（﹅）「悪（﹅）の（﹅）組（﹅）織（﹅）」と（﹅）、そ（﹅）の（﹅）敵（﹅）対（﹅）者（﹅）で（﹅）あ（﹅）る（﹅）「正（﹅）義（﹅）の（﹅）味（﹅）方（﹅）」が（﹅）、も（﹅）し（﹅）、存（﹅）在（﹅）し（﹅）て（﹅）い（﹅）な（﹅）か（﹅）っ（﹅）た（﹅）な（﹅）ら（﹅）ば（﹅）、風変わりだが、穏当で社会に害を及ぼす事もない思想で終っただろう。

　だが、正（﹅）義（﹅）と（﹅）悪（﹅）が（﹅）戦（﹅）い（﹅）続（﹅）け（﹅）な（﹅）い（﹅）世（﹅）界（﹅）な（﹅）ど（﹅）有（﹅）り（﹅）得（﹅）な（﹅）い（﹅）。それこそが「現実」だ。

『関東を中心に活動していた「正義の味方」である「鬼面ソルジャーズ」とその支援団体は、昨今の市民や与党政治家からの批判を受け、活動停止と解散を決定しました』

「Ｗｙｙｙｙｙｙ……」

「Ｗｙｙｙｙｙｙ……」

「Ｗｙｙｙｙｙｙ……」

「Ｗｙｙｙｙｙｙ……」

　人間のアナウンサーがそう告げると……戦闘員達は喜びの声をあげた。

『正義なんて、もうダサいですよ』

『「正義の味方」の方が「悪の組織」より凶悪ですよ。どう考えても』

『「正義の味方」が居るから「悪の組織」が生まれるんじゃないですか？』

　都内の駅前の通行人達へのインタビューも、私の作戦が巧く言っている事を示していた。

『では、ネット論客で、吹田市立大学サイババメディア・センター講師が副業の奇築（きちく）諂（おもね）さんと中継が繋がっています。奇築さん、今回の件について、どう思われますか？』

『私は、かねてより「正義の味方」どもの暴走をネット上で訴えかけてきましたが……ようやく、奴等も市民の声を受け入たようですが……まだ、「正義」は「正義」であるだけで危険です』

　あれ？ こんなヤツ、脳改造してたっけ？

『今回、関東で活動している「鬼面ソルジャーズ」のみならず関西で活動している「熊野六天狗」や九州で活動している『河童十銃士』も解散を決定しましたが……』

　はあっ？ 待て、「天狗」だの「河童」だの、そんな奴等、知らんぞ。

『「正義の味方」達が地下に潜って活動を続けないように、一刻も早く逮捕・処刑を……』

　何か……私の予想外の事が起きている。

　そう思った瞬間、私は元同僚達の為に作った処刑装置のボタンを押していた。

　ニュースで報じられている内容は……２人の元同僚の絶叫でかき消された。

　国会では与党主導で「正義の味方」禁止法が制定された。

　問題は……日本中どころか……世界中に、私が知らない「正義の味方」「悪の組織」が山程有った事だ……。

　「正義の味方」同士は互いに存在を知っており……以前から協力・連携をしていたらしいが、「悪の組織」の多くは他の「悪の組織」の存在を知らず……当然ながら「悪」の本質からして複数の「悪の組織」の共存は不可能だった。

　そして、「正義の味方」の空白地帯と化した日本は……。

「では、契約通り、本日から君達『鬼類誅戮護国崇神団』は、我々『ヘルファイア・クラブ』の下部組織となってもらう」

　「正義の味方」が一般人達により粛清されたこの国に……次々と「黒船」が押し寄せた。

　アジア、南北両アメリカ大陸、中東、ヨーロッパ、アフリカ……聞いた事もない島国からも……。

　日本に元から有った「悪の組織」は、外国から来た「悪の組織」に太刀打ち出来ず……生き残る為に他所者（よそもの）どものいずれかに膝を屈っするしか無かった。

　しかし……外国の「悪の組織」は、どうなっているんだ？

　一国の元大統領が「悪の組織」の首領だなどと……。

「さて、無能な元首領に対して言い渡す事が有る。You’re Fired‼」

　あち……おい……待て……英語の「You’re Fired」って「馘だ」って意味じゃなくて……文字通りの……熱い熱い熱い熱い熱い熱い……誰か……助け……うぎゃあああああッ‼