第28話 ターニングポイント

 私は考えた。これは良くないのではないか、と。もしこの状態が続けば今後オタ道を極めんとする私の障害になりうるのではないか、と。


 ここは所謂いわゆるターニングポイントだ。良く考えて最善の道を選択しなければならない。彼らが来てからの、彼らと過ごす日常について。


  それは午前6時30分朝の起床と共に始まる。


 「あなた、おはようございます」


「おはようございます、今日もご立派様です」 


  目を覚ますと毎日のようにツクよんとウズメ嬢が半裸で私の布団に入り込み、一緒に眠っている。 


  始めはドッキリか、と驚き慌てて混乱して取り敢えずカメラを探したりもしながらも、万が一にももし間違いがあった場合には責任を取る覚悟までしたものだ。

 その時は結局、直ぐに未遂と判明したので逆に未婚の年頃の女子がなんてふしだらなと注意もしたものだ。


 が、それが何日も続くと最近では私もすっかりと夜明けの添い寝プレイに慣れてしまい、全くと言って良いほどに動じることは無くなった。

 2人に抱きつかれた格好でまったりと起床までのわずかな時間を微睡(まどろ)んでいるとお約束かの様に声をかけてくる者がいる。


 「また、裸で一緒に寝ている監督のエッチ」 


「だから大人は嫌いなの。いやらしいの。不潔なの」 


  スノウとフォルが大声を出しながら元気一杯に部屋に入っては騒ぎ出す。


 スノオとフォルは私達を無理やり起こすと「ご飯ができているよ(の)」と、ツクよんとウズメ嬢を無理くり引っ張って部屋の外へと連れ出して行く。


 ちなみにフォルのさん付けは少し前から止めていた。本人から私だけ距離を感じるの、と訴えがあったためだ。


 

 私は起き上がり布団を片づけるとパジャマを着替えて、歯を磨き顔を洗う。綺麗になってすっきりとすると自然にお腹も空いてくるもので食堂に向かう足は早くなってしまう。

 食堂の部屋を戸を開けると、淹れたての珈琲の良い香りと美味しそうな出来立ての朝食の香りが私を迎えてくれる。


 足早にテーブルの席に着くと毎日違う女装した伊勢子が私の分の朝食を配膳してくれる。

 今日の伊勢子は割烹着を来た若女将さん。朝食メニューは白いご飯に味噌汁、鮭の焼き魚に納豆おしんこという素晴らしい朝食の王道だった。


 何故に高天原の会長を勤める伊勢子が毎日毎食炊事をしてくれているのかは謎だが、彼の料理は何を食べてもとても美味しいので私はすごく満足をしている。 


 朝食はみんなで食べる事と決めているので時間になると家の外を清掃している出雲さんもやって来る。いつも竹箒を手に髭の強面が掃除をしている姿はご近所様でも有名らしく、子供達からはれれれの髭おじさんと親しみを込めて呼ばれているそうだ。


  私、伊勢子、スノオ、ツクよん、出雲さん、ウズメ嬢、そしてフォル。朝食の場は賑やかでお互い思い思いにご飯を頂く。味わい楽しみながら食べる者、一生懸命に私に世話を焼く者、大盛のご飯を書き込むように食べる者、不敵な視線を私に送る者、新聞を読みながら食べる者、熱い視線を私に送るもの、美味しいの、美味しいのとご飯を幸せそうに食べる者と様々である。


 楽しいご飯を食べ終えるとお仕事の時間だ。お店はまだ内装工事が終わっていないため開店はしていない。私と出雲さんが工事を担当し、フォルが厨房用品の管理清掃、伊勢子が調理の研究、スノオと嬢が数年の時を経てテレビの前でビリー隊長の指導を受けている。


 あーでもない、こーでもないと私も割と楽しみながら毎日作業を行っている。


  午後5時には仕事を終える。そう私は残業はしない主義だ。絶対に嫌だからだ。時間にピタッと仕事を終えるとお風呂の時間だ。


 我が家のお風呂は特製で十坪ほどの総ヒノキ製、半分が浴槽で半分が洗い場となっている。

 お風呂の湯は日替わりで各温泉地から温泉の湯を転移させる仕組みになっていて、毎日違った世界中の湯に入り、一杯飲みながら疲れを洗い流すことが、私の大きな楽しみとなっている。

 お風呂と言えば毎日の女子とのラッキースケベ的なお約束もあるが、生おっぱい以外は朝の展開とそんなに変わらないため割愛させていただきたい。


 

 家族団らんと呼べばしっくりくるのであろう、優しく緩やかに過ぎていく時間。笑いながら話をして、一杯やりながらご飯を食べ、テレビを見て眠くなったら寝る生活。ストレスフリーの一般的には幸せな時間と言えるものなのだろう。


  流されるままに身を任せる心地の良い生活。これはこれで充実している。

 が、ちょっと待てと、温かい布団に入り私は自分自身に声を潜めて強く訴える。


  私はアニメや漫画やゲームやラノベやプラモやフィギアやコスプレ、最近ではエロゲすらこよなく愛するオタク貴族、オタ王ではなかったのか? 


 私は本日をもって10日と4時間ほどオタ道の外の世界で生きている。


 こんなことで私は良いのか?あの世界からここに来る時の決死の覚悟は何処に行ってしまったのか。


  温かい布団の中で考える。私はまた少し変わり始めているようだ。オタ道にすべてを捧げるつもりでいたのだが、ここにきて今の生活も悪くないと思ってもいる。


  私はやはり良く考えて最善の道を選択しなければならない。時間が掛かっても良い。彼らが来てからの、彼らと過ごす暖かい日常について。


 


 


 


 


 


 


 


 


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神様!オタにハマって地球に降臨   虹まぐろ @aoao527man

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