食糧問題
高黄森哉
新しい活用法
「今よりも深刻に、食糧問題が加速していく」
玲奈は、高台にある公園から、遠くの都会の夜景を眺めながら呟いた。ここは2300年の未来。人類の人口爆発は留まることを知らず、遂に総人口三百億人時代を迎えた、そんな未来。三百億人の内のたった二人は、そこからまびろだした大問題の解決を、任せられていた。
食糧が圧倒的に足りていない。作れど作れど、消費が上回ってしまう。コオロギも試した、
「どうして旧日本政府は、少子化のままにしておかなかったんでしょうかね」
玲奈の隣に立って、風に吹かれていた佐山は、過去の人間に疑問を投げかけた。そうだった、日本政府はおおよそ二百年前に、少子化対策に乗り出していた。計画はうまく行き、ことは順調に進んだが、うまく運び過ぎた。人口グラフは、当初の予定を大きく外れ、気が付いたらブレーキを踏める状況を脱していた。そもそも人権が叫ばれる世の中で増やすのは簡単であれど、減らすのは不可能だった。当時、解決に乗り出そうとした人はいたが、優生学と結びつき腐敗したので、そのアプローチは現在、タブーになっている。
「資本主義は成長し続けることを前提にしてたからね。旧政府の考え方も致し方なし」
資本主義が悪いわけではない。だが歴史から見て、ほんのちょっとの期間だけ、成功した主義思想を、狂信していた昔の人は愚かとしか言いようがない。そして変革を恐れ、保守に走ったのだから、崩壊するのは順当だった。
現代日本では、スーパーコンピュータを用いた政治が展開されていた。国民は、掲げられた政策を採用するかしないかの二択を迫られる。一見すると選択の自由が与えられているが、本質的には民衆の意見は存在しなかった。それでも、ことはうまく運んでいる。
ただ問題点として、倫理回路を埋め込まれているので人口問題に対応できていないでいる。それに引き算の政策ではなく、足し算の政策が人々に支持されることを、データは知っているのだ。
「さて、どうするか。佐山君」
佐山は、再び食糧の廃棄問題を思い出していた。食糧廃棄は昔ほど深刻ではないが、まだ使えていない資源が多く残っていることを佐山は知っていた。それは、倫理回路を埋め込まれた演算装置では弾き出せない、合理的で機械的な案だった。その思い付きは、あまりにも状況が切迫してるため、人間を機械より機械にしてしまったことを示唆していた。
「玲奈さん。廃棄物を活用出来たら解決するのではないでしょうか。今まで無視されてきた、ぴったり人ひとり分の淡白質をね」
「それは、つまり人か」
人より優れた食べ物は存在しない。人は人に必要な栄養素を含んでいる。ろ過装置こそ有害だが、ほとんどは無毒である。六十キロのほとんどは過食部位に割り当てられている。
「病気はどうする」
「加熱すれば大丈夫でしょう」
ウイルスは構造が壊れてしまうだろうし、異常プリオンなんてタンパク質そのものなんだから、熱に弱いはずだ。しかも彼等は稀で、どこにでも存在するわけでない。そして、加熱して死なない病原菌は別の処理を通せば死滅すると、佐山は楽観的に考えていた
「倫理的じゃないし、未知の病気が流行りそうだから却下だ。それに埋葬は人類の発明だぞ。そこから宗教が生まれたのかもしれない。その案は、間接的に人間の文明を否定する行為だ」
「低級層の奴らに文化なんてありませんよ。知ってるでしょう。それに僕達の利益になれれば彼等も幸せだ」
佐山は下層の人間を馬鹿にしていた。その差別意識を隠そうともしなかった。玲奈はそんな佐山を理解できなかった。玲奈はたしなめようと、こう言った。佐山の選民意識を否定しようと、こう言った。
「君もまったく、人を食ったような話をするのか」
食糧問題 高黄森哉 @kamikawa2001
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