最終話 判決

 2008年(平成20年)4月18日に東京都江東区の新築マンションで女性が神隠しのように忽然と消え、姉から捜索願いが出される。後に殺人・死体損壊遺棄が発覚したバラバラ殺人事件。完全犯罪か、とも注目された。

 最上階の自室の玄関に少量の血痕が残っていた他、マンションに設置された監視カメラの記録に、被害者女性がマンション建物から外出した形跡がないことから、「神隠し事件」として、マスメディア各社がトップニュースで報じた。また、同マンションは当時3分の1近くが空室であり、被害者女性宅の両隣は空室だった。警視庁は、マンション住民全員から事情聴取、任意での指紋採取、家宅捜索を行った。事件発生から約1ヶ月後の同年5月25日、被害者女性宅の二部屋隣に住む派遣社員の男が住居侵入容疑で逮捕された。


第一審

 2009年(平成21年)1月13日に東京地方裁判所(平田喜市裁判長)で初公判が開かれた。石破俊博は起訴事実を認めた。公判のなかで、事件の全貌や、俊博の陵辱を好む性癖や若く太っていない女性を無差別に狙った、強姦、性的暴行、婦女暴行目的の犯行であったことが明らかにされた。

 この裁判は、裁判員制度のモデルケースとしても注目され、検察側は証拠として被害者女性の遺体の一部である骨片49個、すべて5cm角程度に切り刻まれた肉片172個を65インチのモニターに表示させた。裁判員制度に選ばれた一般人の中にはその残虐性を直視出来ず、悲鳴を上げる者、嘔吐する者、怯えから辞退を申し出る者など、裁判員制度における進行方法を考えさせるものとなった。


 2009年1月26日に開かれた第6回公判で検察官の論告求刑・弁護人の最終弁論が行われて結審し、東京地検は被告人石破俊博に死刑を求刑した。

 地検は、論告でわいせつ目的略取という身勝手な動機、完全犯罪を目論んだ徹底した罪証隠滅工作、部屋の血液反応という物証が提示されるまで犯行を否認したこと、1983年に最高裁が死刑適用基準(通称「永山基準」)を示して以降、殺人の前科がない加害者に対し死刑が確定した被害者1人の殺人事件3件の例を提示した。

 弁護側は、最終弁論で、前科がないことや逮捕後は犯行を供述して謝罪していることや下半身に大やけどを負った過去の生い立ちなどを提示して死刑回避を求めた。


 2009年2月18日に判決公判が開かれ、東京地裁刑事第3部(平田喜市裁判長)は被告人石破俊博に無期懲役の判決を言い渡した。東京地裁は判決理由で「性奴隷にしようとして拉致し、事件の発覚を防ぐには被害者の存在自体を消してしまうしかないと考えた自己中心的で卑劣な犯行で、酌量の余地はない」と厳しく指弾したが、「死刑選択には相当強い悪質性が認められることが必要となるが、この殺害では執拗な攻撃を加えたものではなく、残虐極まりないとまではいえない」「自ら罪を悔いており、死刑は重すぎる」と結論付けた。同月25日、東京地検は量刑不服として東京高等裁判所へ控訴した。


控訴審

 2009年6月11日に東京高裁(山岡雅裁判長)で控訴審初公判が開かれた。検察官(東京高等検察庁)は控訴趣意書で、死刑求刑に対して無期懲役とした一審判決を、

「犯行は類を見ないほど凶悪で危険極まりない。一審の刑は軽すぎる」として、改めて死刑を求めた。一方、弁護人は「殺害された被害者が1人の同種事案と比較しても死刑には値せず、無期懲役が最も適切」と主張し、控訴審は第2回公判(7月16日)で結審した。

 2009年9月10日に控訴審判決公判が開かれ、東京高裁(山岡雅裁判長)は第一審判決を支持し、検察官の控訴を棄却する判決を言い渡した。

 東京高裁は、「殺害方法は無慈悲かつ残虐で、原判決が『極めて残虐とまでは言えない』としたのは相当ではない」と指摘した上で、「殺害は身勝手極まりなく、死体損壊は人間の尊厳を無視する他に類を見ないおぞましい犯行だ」と判示した。しかし、その一方で「検察官の『被害者を拉致した状態で殺害に着手せざるを得ない状況だった』という主張は早計で、殺害の計画性は認められない」「前科などもなく、自らの罪を悔いて謝罪の態度を示し、矯正の可能性がある」として、永山基準や、被害者が1人でも死刑となった過去の事案との違いを指摘し、「極刑がやむを得ないとまでは言えない」と結論づけた。

 東京高検は「憲法違反や判例違反などの明確な上告理由がない」と上告を断念し、被告人側も上告期限内(同月24日まで)に上告しなかったため、同月25日付で無期懲役が確定した。

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残酷な神隠し 龍玄 @amuro117ryugen

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