第3話 初めて話した日
ダンス部、剣道部、茶道部、舞踊、写真部など
それぞれのサークルの性格や雰囲気が手に取るように分かる新入部員募集中と書かれたパネル
綺麗に並べられたパネルを眺めてはいるが細かい内容まではほぼ読んでいない
きっと隣にいる2人もそんな感じで眺めているだろうと思い、「どこのサークルにするか決めた?」と問いかけてみる
「決めた決めた。写真部に入部するつもり」ともえが答え、
その上に覆い被さるように「私も!今度写真部に入部届出しにいこうよ」とひなも答えた
意気のあった掛け合いを始める2人
「2人とも写真部に行くの~? どこに行こうかな、、、」
写真部に興味のなかった私は二人の話を聞き、少し心が動きそうになった
そんな私に追い討ちをかけるように「一緒に入部しようよ!」と言ってくる
「ん~写真部はいいかな、他のところの見学行ってくるよ」
「そっか~残念」
本当は一緒に入りたかったけど、友達という存在に引っ張られてサークルに入部するのは良くないと思ったから断った
2人は写真部に入部し、私は写真に興味がなかったので別のサークルへ入部した
2人との出会いはそれぞれ違った
大学では友達を作らなくてもいいかなと思っていた私には予想外な事で
だけど今思えば、とてもラッキーな事だった
入学式の日に何気なく座った席
その隣に「ここいいですか?」と長い前髪をかきあげるように後ろに結んだ女の子が顔色を伺うように聞いてきた
白い肌にほんのり色ついたピンク色の頬が暖かさを感じさせる
それが柊萌奈
あの頃を思い出すとぎこちなかった2人の空気が今ではくすぐったいものに感じる
その後、新入生説明会で萌奈と座っていた後ろに村上陽菜が座っていた
初めて会った時、お姉さんのような女の子だと思った陽菜は今ではアニメ愛を全開に出し、とにかくよく話す子で全く印象が異なる
二人は私にとって大切な友達
「どこ座る?」
「その列、誰も座ってないよ」
「そこにするか」
入学して最初の授業、慣れない椅子とテーブルに腰を下ろす
木でできた椅子はひんやりしてて、体が少し固くなる気がした
「結構人いるね」
「みんな同級生かな?」
授業に参加するのはこの日が初めてで、緊張のせいか辺りを見渡す
「おはよう」
聞きなれない複数人の声が左通路側の方から聞こえ、その声に反応して
今まで別々の方向を向いていた私たちの顔が一斉に左側を向いた。
そこには見慣れない顔の男の人が3人、こちらを見ていた
「先輩、おはようございます」
誰だろうと考えている時、隣にいた萌奈が席を立って挨拶をしていた。
「おはようございます。先輩たちもこの授業履修してるんですか?」
と続けて陽菜も挨拶をし、私を抜いた5人は楽しそうに立ち話をしている
楽しそうに話す2人を見て、少し寂しさを感じた
ひと段落話が終わると先輩たちは私たちの1列前の席に移動した
席に着いた先輩たちを確認し「あの先輩たち、いつ仲良くなったの?」と小さい声で問いかけてみる
「写真部の先輩だよ!先輩なのに気さくですごく話しやすいの」と陽菜が答え、
「先輩がいるなんて、テストの時心強いわ」と萌奈は笑顔を見せた
「いいな〜、私はまだ仲良い先輩いないのに」
「大丈夫、そのうちできるって」と二人して慰めてくれる
笑顔でうん!と頷いた後、2人の顔から視線を外し、前を向く
その時、さっきまで話をしていた先輩3人のうち1人と目が合った
目が合ったとたん、驚きで鼓動がトクンと動く
「その服、なんで『みゅうじっく』って書いてあるの?」
突然、その先輩は眉間に少ししわを寄せ、微笑みながら尋ねてきた
「えっ」といきなりの質問に戸惑いを隠せない
さっきはよく見てなかったから分からなかったがその先輩は普通より上に位置する顔だった
だから余計に目を合わせるのが恥ずかしくて、緊張してしまう
「確かになんでみゅうじっくなの?」
隣にいた萌奈も不思議そうに、だけど笑いながら尋ねてくるので
先輩から二人の方へ視線をずらす
急に先輩に話しかけられたので緊張で固まっていたが萌奈が会話に入ってきてくれたため少し緊張が和らいだ
これが人見知りの困ったところだ
笑顔で受け流そうと思ったもののみんな私の返事をまだかまだかと待っている
本当に困った
「こ、これは、、、」
と戸惑いながら、先輩にも二人にも聞こえる声でこの服の胸元にみゅうじっくという文字が入っている理由を説明した
説明した後のみんなは「へぇ~」という反応で頑張って説明したのにもかかわらず、あまり関心を向けていないような反応で説明した意味はあったのかと心の中で感じた
「2人は写真部に入部してるけど、入部してないよね?」
バさって切り落とされるように別の話題を出してくる先輩
その質問は私に向けられていて、隣にいる二人は先輩と私の顔を交互に見ている
質問がやけに多いなと思いつつも、誰かが私に話しかけてくれるという事が少し嬉しくて心が浮かれてしまいそうだった
「そうなんですよ。」と言うと「入部しないの?」と帰ってくる次の質問
「今のところ考えてないです」
笑い交じりに返答しているとタイミングが悪いのか良いのか鳴り出す授業始まりのチャイム
「そっか。」と言って前を向く先輩にほっとしている自分
だけど、もう少し話していたかったと思っている自分
手を握ると手汗をかいていてことに気づき、焦って手をぬぐった
「先輩、ことなにだけ話しかけてたね」
私たちにしか聞こえないような声でいたずらっぽく言ってくる陽菜
「やっぱりかわいい子に話しかけちゃうよね~」
その隣でむすっとしたような顔で教科書を開き始める萌奈
「そんなことないよ」
私は幣全を装いつつ、そう言い放ったがさっきの会話を思い出す
確かに二人ではなく私にばかり話を振ってきたのはどうしてだろうと先輩の背中を見つめながらふと思った
嫌いになれない @Makuro321
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