第2話 カレーとお金
生きている上で私達は様々な人に出会う
その中で印象が悪かった、性格が正反対だった、気が合わなかったなどという理由で仲良くならなかった人と
久々に会ったら趣味の合う人だった、たまたま同じ場所にいて話してみたらそんなに印象の悪い人ではなかったなど最初は仲良くならないと思っていた人となんらかのきっかけにより友達になるなんて事は少なくないはず
私の場合
そのきっかけがカレーとお金だった
誰もいない大学の食堂は朝早いせいか電気がついていなくて、少し暗かった
「なんだ、誰もいないじゃん」
入り口から左の窓側に行き一番端にある椅子に腰掛け、リュックからノートと筆箱、イヤホンを取り出す
スマホの画面を開き、慣れた手つきで音楽アプリを開いた
最近作ったお気に入りのプレイリスト
イヤホンを耳にさすとゆっくりなテンポの洋楽が流れ始めた
右手にシャーペンを持ち、今日の講義の予習を始めようとした、その時、イヤホンから流れる小さい音量の洋楽に混じり、足音が聞こえた
その足音に反応し、ノートに向けていた視線を上にあげると、目の前に私の苦手な先輩が立っていた
「あれ、他の人はまだ来てないの?」
イヤホンを外しながら、「まだ来てないですよ」と答える
「ことなちゃん、こんなに早く来てるんだ」
「は、はい、、そうなんです」
私と先輩しかいないこの空間がとても不慣れに感じ、この後どう会話しようかと頭の中がグルグル回り出す
先輩の名前は神田亮
私の一つ年上で大学2年生
高身長で女性から好かれやすい外見をしており、いつも爽やかな笑顔を振りまく
そんな彼は当然、先輩や後輩に好かれ
女性からも一目置かれている存在
いつも大人数の中心にいた先輩の姿を度々見ていた私は大人数が苦手な自分とは無縁な存在なんだと感じていた
「あのさ、お願いがあるんだけど、、、」と
少し困った顔をする先輩
困った顔でするお願いとはどんな事か
とても不安な思いがよぎるが、そんな不安は先輩の一言で吹っ飛んで行くことになる
「今日グリーンカレー食べたくて
でも俺、車の中に財布忘れて来ちゃってさ
後3分くらいで授業始まっちゃうんだよ」
と淡々と自分の置かれている状況を話し始めたと思ったら、最後には「だから、お金貸してくれない?」と言葉に合わないくらい満面の笑みを浮かべていた
その最後の一言を聞いた瞬間、
私は笑ってしまった
グリーンカレーのために必死に説明する先輩と今まで見たことのなかった面白い先輩の姿に
それと同時に今まで感じでいた不慣れな空間が少し軽くなった気がした
「いいですよ」と答えると「ありがとう」とまた満面の笑みを浮かべる
私が今まで感じていた先輩のイメージはカレーとお金によって、ガラッと変わってしまった
「後で絶対返すから!ありがとう」と私の渡したお金を手に持って走っていく
その後ろ姿が消えるまで見続けなかったが
さっきまでのやりとりを思い出して、また笑ってしまう
「やっぱり、苦手だ」とボソッと呟いた
先輩の笑顔を思い返すと心臓がドキドキする
私にとって先輩は正反対な存在であり
関わることが苦手な存在だった
理由はそれだけではない
爽やかそうにみえる外見と笑うと子犬のような笑顔
先輩という存在は一瞬たりとも気を抜いてしまえば「私、好きかもしれない」と思い込ませる力を持っている
だけど、先輩にとっては当たり前のことで
全く誰かに好意を寄せているわけではない
異性に対して勘違いをしやすい私は
初めて出会ってすぐ、そういう存在だと解釈した
だから、なるべく先輩の言葉や言動に感情移入しないよう、先輩から距離を置くようになっていた
そう思い始めたのは初めて会った日
あの瞬間、少しでも彼に恋をしそうになっていた
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