カフェーの夜

もう

愛してるからと言ったって

沈む陽は還らないわ


理想に殉じて何になる

その言葉で

世界が救えたかと

言ってやる


アンタのセリフで救えるものは

三文芝居の舞台の上と

相場は決まって

いるのよホント


ああ、何でなの

もう、どうしてかしら

軽薄短小

お粗末すぎて

返す言葉もありゃしない


小学校からやり直せたら

アナタとの出会いもやり直せるの

まっさらな

シーツのように漂白して

キレイさっぱりもう一度から

出直す覚悟で

サヨウナラ


それでよかったのか

それがよかったのよ

なんでそんな言葉でごまかすの

どんな言葉で満足するの

かみ合わないなら

すり合わせてよ


文士の知恵はそんなもの

ペンしか知らない紙の上

真っ白だからできること


消しゴムかけりゃ変わるというの

鉛筆の覚悟とはそんなもの

やり直せたらとアンタは言うわ

書き直せるアンタの言葉で

ヒトの心は動かない


アタシはお金で転ぶのよ

お金持ちなら大歓迎

カフェーの女給の当たり前すら

言ってもあなたは分からない

世間知らずとは言わせない


知っててアタシを求めてる

その厚かましさが癪(しゃく)なのよ

癇(かん)に障るわ

その向こう見ず


ずうずうしいから言わせてもらうの

いけしゃあしゃあと笑っているわ

アナタのホンネが恐ろしい

世間は騙すというけれど

騙されるのがおんなの世界

アンタはそれを知っている


騙されてあげるのがおんなの情け

初心な小娘も知っている

だから女は狂うのよ


恋わずらいと人は言う

そうよアタシはビョーキだわ

アナタに治せるこの病

アナタのそんな懐で温めてほしいの

アタシの手

アタシの指をほぐして欲しい

そうしたら


そうすればワタシはもっと優しくなれる

そういうとアナタはずっと愛してくれる


ウソをついても分かるのよ

アンタはわたしに惚れている


そうアタシに言わせたいのね

ズルいヒト

アンタは懐当てにしてるだけ

財布のひもを緩ませて、また

ほかの女に貢ぐのよ


知ってるって

痴れ者のアナタ

痴れ者のアタシ

何の救いもありゃしない


でも笑えるわ

可笑しいからじゃない

うれしい素振りと仕草のアタシ

コクテールを頂戴な

酔ってしまえば


アナタの言葉も愛しくなるわ

アナタはステキなお客様


ネオンの灯りが揺れている

潤んだ瞳が濡れている

暗がりに猫が歩いてる

濡れた路地


夜の匂いが濃くなって

銀座のカフェーは更けてゆく

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おんなの小話 真砂 郭 @masa_78656

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