3,バラク


 かの方の改名宣言からしばらくの月日が経った。かの方はバラクとして、男装をし、使いの者どもに対しても男主人らしく振る舞うようになった。王を間近に見ていたからか、かの方の在り方はこちらがすぐに慣れてしまうほどだった。しかし、そうではない者たちもいた。


 姫君を軸にもう一度国を興そうと野望をあらわにした同僚がいた。かの方を姫君として守らんとした兵士がいた。一度かの方の元を離れたにも関わらず、郷愁を覚えて戻ってきた召使がいた。


 それらの全てをかの方は斬り伏せた。かつて剣術で見せた戦う仕方ではなく、確実に一撃で殺す仕方で。「バラク」として生きるために。二度と姫などと言う立場に閉じ込められて、その中で何もできずにただ残される目に会わないように。生まれただけで戦に巻き込まれ、何もできずに責任のみ負うような真似をさせないために。目の前のかつての味方に、「ならばお前は私の敵だ」と言い捨てて。


 そうして、生き死にに関わらず一人二人と人が消えていき、私はといえば。


 私はといえば、そう、その姿に見惚れてしまっていた。かの方は、美しかった。尊ぶべきものだった。そのことに日々、改めて気付かされた。斬ると決めたものを一瞬のうちに斬る躊躇いのなさ、その判断の素早さには思わずため息が漏れるほど。「生命力」と言ってもいいのかもしれないが、私には「美しい、野生ある殺意」とでも言ったほうが適しているように思えた。


 なんて美しい人だろう。生きるために、こんなにも。そう心の中では思いながら、身体の方はすぐに後始末に入る。かの方は決して後ろを振り返らないから、私が片付けをしなければかつて同僚だったものどもは捨て置かれるだけだった。それでもよかったのかもしれない。下手に埋めて弔うよりは、獣たちに食われ啄まれて跡形もなく消え去った方が、かの方にとっては。


 それでも私が彼らを弔ったのは、仲間として最低限、ここまでかの方についてきた事を讃えたかったからだった。


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