相手の瞳を見つめると、過去や未来が視えると言ってやってきた須見と言う男。
精神病症状が疑われる彼に、鞠内(まりうち)心療内科クリニックの院長である喬之介(きょうのすけ)は箱庭療法を提案する。
箱庭療法とは、小さな空間に心の赴くままにオブジェを配置していくことによって、己の中の声と向き合う心理療法の一つ。
須見が形作る箱庭を読み解くうちに、喬之介の心にも思いがけない声が響き始める。小さなきっかけは、やがて大きな違和感を生み、その謎を追い求めていくことになるのだ。
互いにシンクロし合う患者と医師の様子は、現実の社会でも大なり小なり私たちの身の上に起こっていることです。誰かの言動によって、過去の出来事を思い出したり、未来予想図が変化したり、心の奥深くが変容したり。
他人と自分。別の個体であるとわかっていても、精神の深いところでは繋がり影響を与え合っていることを思い出させてくれると共に、それがもたらすものは、決して明るい感情ばかりでなく、己の頭が隠蔽していた暗い感情さえも白日の下にさらされてしまう恐怖が、じわじわと迫ってくる物語です。
作者様が真摯に向き合って紡がれた骨太な物語。
みなさんも堪能してみてください。お勧めです!
鞠内喬之介は、鞠内心療内科クリニックの院長である。
そこに訪れた患者・須見という男性が受診した事により、喬之介の日常に変化が……。
須見さんが抱えている問題は、特定の人をよく見ると、その相手の過去や未来までもが頭の中で再生されてしまうというもの。
突然の変調に苦しむ須見さんへ、喬之介さんは『箱庭療法』を勧めます。
箱庭療法とは?と思われましたら、是非ご一読を。
箱庭療法の様子が丁寧に描かれていますので読み応えがあり、徐々に変化する箱庭から目が離せなくなりますよ。
もしかすると、その世界に迷い込み、自分はいったい何を見ているのだろうと、恐怖を抱くかもしれません。
それぐらい、いつの間にか箱庭に心が惹き寄せられます。
そして喬之介さん自身の変化もまた、謎が多いのです。
誰しも、その人だけの癖や考え方があったりしますが、それにはちゃんと意味があります。
しかし同時に、自分でも気付かない、忘れ去ってしまった何かが潜んでいる事も。
それらが解き明かされていく様子に心苦しくなりながらも、彼の進む先を知りたくなる作品です。
人間が生き続けるとはどういう事なのか。
その為には、自分の体もどのように自身を生かしてくるのか。
不思議な体験と共にさまざまな心に触れる作品です。
是非皆様も、こちらの世界にゆったりと浸ってみて下さいね。