これ、みたらし団子じゃないじゃん!

椎名富比路@ツクールゲーム原案コン大賞

みたらし団子を買ってほしい

「え、これみたらし団子じゃないじゃーん」

 

「職場の屋上でお月見するぞ」とカナタ先輩に言われて、オレはみたらし団子をちゃんと買ってきたのだが。


「いやいや! これね、ちゃーんと『みたらし団子』なんですよ」


「うそだ。葛餡がかかってない! みたらしてないじゃん!」


 スカートを履いた足をバタバタさせながら、カナタ先輩はストロング系ハイボールの空き缶をオレに投げつけた。


 みたらしてないって意味がわからないんだが……。


「ユーマ使えなーい。自分でコンビに行って買ってくればよかった」


 ストロングが入っているせいか、圧がやや強めだ。


「まあまあ、騙されたと思って食ってみてくださいよ」


 俺が箱を差し出すと、ふてくされつつもカナタ先輩は団子を爪楊枝で刺してパクリ。


 すぐに、オレの言葉を理解した。

 

「あー! 中に餡が入ってるのか!」


「そうなんですよ。これね、大阪で見つけたんですよ」


 こちらにも系列店がオープンしたというので、買ってきたのである。


 営業先でお得意さんにあげたところ、たいそう喜ばれた。


「うまいでしょ?」


「うん。めっちゃうまい。服が汚れないってうれしい!」


 お互い営業なので、スーツが汚れると大変だ。

 みたらしで服を汚したくはなかった。


「でもなあ。やぱり餡がかかってる方も食べたいなー」


「そーですか?」


 語り始める前に、カナタ先輩はストロングを一気に煽る。

 まるで燃料補給みたいに。


「うえーい。だってさ、タレがあたしのスカートにボトって落ちるじゃん。もしくはヒザ?」


 不衛生ですね。 


「そんでさぁ、あんたに『なめろ』って言ってさ、舐めさせるの」


 妄想が爆発していますね。

 

「幸いな、今は月しか見てないじゃん。屋上で乳繰り合ってもさ」

「は、はあ」

「お前、そこまで考えろや!」


 また、ストロング缶が飛ぶ。


「あたしが考えた最強のシチュを台無しにすんなや! せっかくの満月だ。月がガン見しているところになぁ、くたびれたOLと営業社畜がくんずほぐれつよ! わかってんの!?」

「そういわれてもなぁ」



 あんた、酒が抜けたら全部忘れるじゃん。


「みたらしくらいトロトロの恋がしたいわけよ! わかる? いわゆるワンナイトラブ?」

「そうですか。では先輩は、オレの考えはわからないです?」

「なにが?」


 

「中に入ってるの、餡だけだと思ってんスか?」


 団子に爪楊枝を刺し、カナタ先輩に食べさせる。


「なにお前、酔ってんの?」

「酔ってますよ。ココに来る前、景気づけにひと缶開けてきたんで」


 珍しく、カナタ先輩がたじろぐ。


「ほら、お目当てのワンナイトラブですよ。それとももう一晩ほしいです?」

「いやいやお前そういうのに食いつかないってわかってるからジョークを言えるわけで」

「先輩にとっては、ジョークだったんですか? 今までのアプローチは?」

「……いえ」

 

 

 オレはフニャフニャになったカナタ先輩を、月に見せつけてやった。

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