脱獄を企てる囚人と刑事の物語 ~第五話~

第五話


 グリーンハイツを後にして、署へ戻る途中、霧島は車内で何度も溜め息をつく。

 

 これからどうすればいいのか?


 あれこれ考えた末、刑務所に寄って直接平沢に話を聞こうかと思い立ち、ハンドルを右へ切る。


 刑務所へと向かう中で、色々と事件のことを思い出していた。

 被害女性の名は、成島明美なりしま あけみ。年齢は80歳で、一人暮らしをしていた。

 第一発見者は、電話をしても応答しないのを不審に思い尋ねてきた娘の美子よしこ(45歳)。死因はナイフで刺されたことによる出血性ショック。凶器は刃渡り7㎝ほどの果物ナイフだ。これは、現場から500mほどにある公園のトイレのタンクで見つかった。


 当時、捜査線上には疑わしい人物が3人上がっていた。

 一人目は、当時30歳・185㎝のがっしりした男で、工事関係の仕事をしていた。

 二人目は、当時48歳の小太りの男で、保険会社の営業をしていた。

 そして、三人目が平沢だ。


 捜査をしていくとすぐに、詳細な目撃証言が出てきた。

 それは、170㎝前後のすらっとした瘦せ型の若い男が、被害者の家の近くを通るのを見たというものだ。その証言は服装なども含めて、細かいところまで特徴を捉えていた。


 平沢は172cm・54kgですらっとした瘦せ型だ。年も若く、証言の特徴にしっかりと当てはまっていた。


 そして、ナイフに残った指紋と平沢の指紋が一致したため、令状を取って家宅捜索を行い、その際に被害者の指紋付きの現金300万が押し入れの中で発見された。この二つを証拠に平沢を逮捕した。これが事件の概要である。


 捜査に深く関わっていた身として、不手際があったと思えない。ただ、目撃証言が出てきてから指紋の一致・現金の発見まで、とてもスムーズに進んだために、他の容疑者を疑う余地がなかったのは確かで、それが結果的に決めつけ捜査となってしまっていたところはあったかもしれない。


 再びあれこれと思案した末に、事件解決の端緒となった目撃証言について再度確認をすることにした。そうして証言をした当時48歳の主婦に、もう一度話を聞くべきだと考えた霧島は迷った挙げ句、刑務所に行くのを止め、来た道を引き返し主婦の住む唐氏ヶ浜からしがはまへ向かった。




<次話に続く>

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檻の中で光を求めて… 無天童子 @muten-douji

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