呪殺における「真の名」の掟

@HasumiChouji

呪殺における「真の名」の掟

「カラワジ・イキツ・キマト・ワヒオサ・ハノクキョウ・ミツオ・レシモオイ……呪われよ‼ カチク・ツテバン・ダクリノノロイ・オウケミクニク・ルクシミ・クタルバ……呪われよ‼」

 俺は、魔法陣の前で呪文を唱えた……。

 許さん……奴だけは絶対に許さん……。

 そして……。

「ほう……ここは……懐しいな。この国の者に呼び出されるのは……四十年ぶりか……」

 魔法陣の中に現われた悪魔は、そう言った。

「さて、人間よ、何が願いだ?」

「は……はい……。古賀信一郎と云う人間を殺していただきたいのですが……」

 俺は……俺をコキ使うだけコキ使いながら、半年分のアシスタント料を払っていない、あの漫画家の本名を口にした。

「そやつは……何者だ?」

「えっと……漫画家で……」

「何? 漫画家? ならば……我にとって、その者の『真の名』は人間が『ペンネーム』と呼ぶモノだ」

 えっ? どう云う事だ? まぁ、いいや。

「『杉海いせじ』です」

「なるほど……では、その者の漫画が載っている雑誌を我に見せよ」

「えっと……」

「そやつを殺すのに必要だ。早く見せよ」

「は……はい……」

 そして、悪魔は俺が渡した漫画雑誌のページをめくり……。

「おい、最近は『○○先生にお便りを送ろう』と云う名目で、漫画家の住所が雑誌に載ってはおらんのか?」

「あの……いつの時代の話ですか?」

「だから、この国の者に呼び出されたのは四十年ぶりだと言ったであろう。困ったものだ。住所が判らなければ、殺しに行けぬではないか。すまんが、我とはやり方が違う同業者を当たってくれ」

「えっ?」

 そうして悪魔の姿は、段々と薄れてゆき……。

「ま……待って下さい。ヤツの住所なら……」

 だが……俺の声は悪魔に届かなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呪殺における「真の名」の掟 @HasumiChouji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ