猫(長毛種)に転生したので現代社会を生きる人達の癒しになります

長崎ヤンデレ彼女

第1話

 吾輩は猫である。名前はまだない。

 どこで生まれたかはっきりとわかる。だって転生したんだもの。


 前世はブラックな企業に就職してしまいそのまま過労死してしまった。

 死ぬ間際に来世は自由気ままに生きたいと思ったけど気づいたら猫になっていた。


 ふーん、ええやん。

 猫ええやん。


 猫といえば自由、睡眠、かわいいの三拍子揃った唯我独尊的存在。

 勝ったな。


 今世は勝ち組じゃー!

 兄弟姉妹よ、勝鬨を上げよー!

 ……あぷ、舐めないでください今世のお母さん。くすぐったいです。


 そんな感じで吾輩は猫になった。



 ◇



 ごろにゃーん。ご飯はまだかえー。

 あ、やっぱ眠いから後にするわー。


 猫になって早数ヶ月、すっかり猫商売が板についていた。

 まあ本当の猫ならご飯を出されたらすぐに飛びつくだろうけど。

 そこは元人間の精神でうまくやっている。


 この缶詰美味ッ!


 鼻孔をくすぐるご飯をむしゃむしゃしながら幸せを噛みしめる。

 昼寝と夜寝を満喫し、高級そうなご馳走をたらふくたいらげる。

 うーん、猫最高。

 いや、この家最高。飼い主様万歳だ。


 野良猫だとこんな贅沢できないだろうしほんとよかった。

 しかもそこらにいる雑種じゃなくてちゃんとした品種っぽいし。


 われ長毛種ぞ?


 食後の毛繕いを終えて誰に憚れることもなく謎マウントをとる。

 さあ人間よ、撫でるがよい。

 住人に擦り寄り催促する。


 あ……尻尾の付け根はらめ……気持ちよくなっちゃう……。


 お尻を高く上げてビクンビクンさせられた。

 ダメっ! お嫁にも行ってないのに好きになっちゃう!


 このあと滅茶苦茶撫でられた。



 ◇



 ごろごろにゃーん。

 猫に転生して一年近く経った。

 体の成長もほぼほぼ終わり成猫になる頃だ。


 生まれたての頃は兄弟姉妹がいっぱい居たが、何匹はどこかへ引き取られ、残りはそのまま家に住んでいる。

 私は居残り組だ。


 窓際にあるキャットタワーから外を眺める。

 人がゴミのようだ。


 いやまあそれはさすがに言い過ぎか。

 でも結構な高層マンションに私は住んでいるらしい。

 ビル群が建ち並んでいるし東京かなとは思っていたが会話から察するにマジで東京みたいだ。

 毎日高級ご飯を恵んで貰っているしここの住人……夫婦はリッチブルジョワピーポーのようだ。


 ご夫婦は美男美女のリア充で爆発させたくなるがそしたらこの快適な生活も吹き飛んでしまう。

 さあ、我慢してやってるんだ、撫でたまえ。


 帰宅した奥様にただいまの撫でを要求するため玄関でお出迎えする。

 ここの夫婦は子どもを欲しがっているが中々コウノトリが来てくれないらしい。

 不妊治療もしているようだが成果はまだ出ていない。


 前に一度ケンカまではいかないが二人の雰囲気が悪くなったときに膝に乗ってニャオニャオ鳴いたらいい感じになったことがある。

 私を撫でながら子どもはいないけどこの子達がいると言って仲直りしてくれた。

 どうやら私たちを飼っているのは子どもの代わりとしているところもあるらしい。


 いつも大層なご馳走をいただいているのだ。それくらいはやってあげねば。

 玄関で奥様が笑いかけながら手を伸ばしてきた。


「聞いてミーシャ! 私妊娠したの!」


 そう言いながら私を高い高いしてから抱きしめた。

 はい、吾輩はミーシャである。

 って今は名前なんかどうでもいい!

 おめでとう! よかったね!


「ミャーオ」

「ふふ、ありがとう」


 お祝いとして鳴きながら顔を舐めてみた。犬みたいに。

 普段は唾液とかが汚いかなとあまり舐めないが今日は特別だ。

 そのまま揺られていたら奥様が私に顔を押し付けてきた。


 あ……あまり私を吸わないで……変な気分になっちゃう……。


 その夜旦那様からも「パパになるぞー!」と抱き上げられ滅茶苦茶吸われた。



 後日、妊娠祝いとして豪勢な料理が振る舞われ私たちもその恩恵にあずかった。

 あ、待て! そのカニは私のだ! お前のはそっちの皿にあるだろう!


 兄弟姉妹によるいつにも増した激しい戦いが繰り広げられた。

 カニは前世でも好物だったのでがんばったが健闘虚しくあまり食べられなかった。

 というかもっと味わって食べなよ。そして私にも味わわせてくれ……。


 顔をしわくちゃにしてとぼとぼと歩く。

 ご夫婦はまだ食事を堪能している。

 奥様の横で悲壮感を漂わせながら鳴き声をあげた。


「あら? もう食べ終わったの?」

「にゃあ……」


 ちゃうねん、ほとんど食べられたんねん。

 だからもっと食わせてくれにゃー。

 そう思い食事時ながら膝にジャンプする。


「きゃ!」


 カニのためなら私はなんだってしてやる。三回まわってワンと鳴けばいいのか!?

 視線を食卓のカニに向けながら奥様のたわわな胸にすりすりしておねだりする。


「もう、そんなに食べたいの?」

「普段おとなしいミーシャがそこまでするんだ、少しあげたら?」

「そうね、食事中に来るなんてよほど気に入ったのかしら」


 旦那様の素晴らしいフォローのおかげで目の前にカニがぶら下がってきた。

 ノータイムでガブリと噛みつく。

 うーん! カニの豊潤な味が口いっぱいに広がるー!


 奥様の膝の上でカニを目一杯楽しむ。

 少しといいつつ足一本分くれるなんて天使だ。


「すごい食いつきだね。見てて面白いよ」

「ふふ、ほんとね」


 普通の猫ならかっぱらって床で食べるだろうがそこは元人間。

 床や服を汚さないよう気をつけていますとも。

 あっという間に一本食べ終わってしまい口元を軽く毛繕いする。


「ほら、食べ終わったならもうどいて? 私も食べたいのよ?」


 奥様から注意されてしまった。

 でも微笑みながら撫でてくれてるし満更でもないようだ。


「ミーシャ、こっちにきたらもう一本あげるよ」


 にゃんですと!

 一瞬で奥様の膝から旦那様の膝に鞍替えした。


「……ミーシャって言葉がわかっているような行動を時折するよね」

「あなたもそう思う? この子賢いわよね」


 そんなことよりカニをよこしなさい。さあ。

 旦那様をジーッと見つめていると「冗談のつもりだったのになあ……」と言いつつ一本ぶら下げてくれた。

 今度もノータイムで齧りつこうとしたら寸前でヒョイと躱される。


 おのれ人間め! 猫様をからかうとは何事か!


 頭上のカニを追うため二本足で立ちながら悪態をつく。

 その後も何回か遊ばれたが堪忍袋の緒が切れてお腹に猫パンチをお見舞いした。


 カニ美味しかったです。



 ◇



 よし、狙いを定めて……ジャンプ!

 ぐべ、また失敗した。


 現在私は玄関で扉と格闘している。

 取っ手を掴むまではなんとかなるがそのまま押すのが難しい。


 カニを食べてからというもの外に行きたい欲求が強まりついに実行に移しているのだ。

 それもう一度ジャーンプ!


 ──ガチャ


 開いた!

 おっと、閉まる前にもっと押して体を滑り込ませて……。

 ふぅ、第一関門突破。

 次はエレベーターだ。

 ジャンピングネコパーンチ!


 ──ポーン、下へ参ります


 うむ、ごくろう。

 エレベーターに乗り込み一階のボタンを確認する。

 もう一回ジャンピングネコパーンチ!

 ふ、またつまらぬものを押してしまった。


 ──ポーン、二階です


 ……押し間違えたんじゃにゃいよ?

 きっと誰かが乗って来るんだよ。


 ……ドアの前には誰もいなかった。

 ちくせう、階段で行くからいいもん。


 一階に降りると広いエントランスホールに出た。ピッカピカだ。

 いいなー、こんな高級マンションに住んでみたいわー。

 あ、私住んでるんだった。前世の夢叶っちゃったわ。


 尻尾をピンとたててウキウキで正面玄関から出る。

 部屋番号も覚えたしなんなら誰かと一緒に入れば大丈夫だろう。猫だし。

 では行ってきますにゃ。



 コンクリート熱ッ!


 都心からはやや外れているが前世で暮らしていた場所と比べると十分都会のコンクリートジャングルだ。

 この季節でこれだと夏は出歩けそうにない。今のうちに楽しんでおこう。


 すれ違う人の視線を感じながらぶらぶら街を歩く。

 野良猫がいるだけでも目で追ってしまうのに、高貴そうな品種の猫が街中をうろついていたらそりゃそうなるだろう。


 かわいい、綺麗、ネコ様だ、と私を褒め称える声を猫耳が捉える。

 迷子や脱走といった言葉も聞こえるがそんなの知らんにゃ。


 少し疲れたので屋根があるバス停のベンチに座ってみる。

 バスを待っていた人が驚いていたが隣に腰掛け背中を撫でてきた。

 うむ、お主なかなか良い撫でをするではないか。

 ほれ、褒美にお腹を撫でさせてやろう。


 ごろんと転がりお腹をさらす。

 疲れた顔をしたスーツ姿の女性だったが今は顔をほころばせお腹を撫で撫でしてくれる。


「綺麗なネコちゃんですね。飼い猫ですか?」


 喉をゴロゴロ鳴らしていると別の女性が話しかけてきた。


「いえ、どこからか来てここに座ったんです。私も飼い猫かと思ったんですがそれらしい人もいなくて……」

「じゃあちゃんとした品種っぽいですし迷子ですかね?」


 あたしゃれっきとした飼い猫だよ。あと迷子じゃないよ。見くびるんじゃない!

 あ……二人で攻めるのはらめ……外なのに気持ちよくなっちゃう……!


「あ、すみません。私このバスなのでお先に失礼しますね」

「あ、はい。えーとありがとうございました?」


 お互い何とも言えない表情をしながらあとからきた女性がバスに乗って行った。

 SNSとかで私のことを探した方がいいかとか話してたしそろそろ動こうかね。

 背中を持ち上げるようにして伸びをしたあとぴょんとベンチから降りた。


「あ……行っちゃうの?」


 そんな声が聞こえたが私は振り返らずに尻尾を振って返事をした。


 猫は自由気ままなんだ。あんたもスーツと一緒に責任なんか脱いじまって自由に生きな。幸せに暮らせよ。

 アスファルトがタイヤを切りつける音を背景に悠々と歩き出した。


 さてどうしようかね。

 カッコつけて歩いてはいるが実は内心ビクビクしている部分がある。

 だって猫の視線って低いんだもん。

 TOKYOだから人通りも多いし踏み潰されるんじゃないかと怖いのだ。


 ヒヤヒヤしながら道の端の方を歩いていると猫に会った。

 あらやだイケメン……!

 ガラスを隔てたショーケースに気品のあるイケメン猫がいる。

 どうやらペットショップのようだ。


 カッコいいわー。


 推しに向ける眼差しで見つめていると彼がこちらに気づき立ち上がった。

 え、でか。

 横に載っている品種を見るとメインクーンと書いてあった。

 ……たしか世界最大の猫だったよね。


 人間から見てもでかいのに猫目線だとさらにでかい。

 少しキュンとしてたけどあれに押し付けられると思うとちょっと遠慮したい。

 やはり推しは推しだから推しなのだ。


「見て、お見合いしてるよ」

「ね、どっちも高貴な感じでお似合いだね」


 ライブの観客席にいる感覚で推しを堪能していたらいつの間にかちょっとした人だかりができていた。

 カメラを向けてる人もいて恥ずかしい。

 待ってくれ、私もそっち側なんだ。


 居た堪れない気持ちになりそそくさとその場をあとにした。

 ……また後で来よう。


 小走りで探検していると駅の近くにやってきた。

 喉も渇いてきたしちょっと寄ってみよう。

 駅に併設されているトイレに入り洗面台に登る。


 えーと、センサーがこの辺だからこの位置に顔をやって……。

 むむむ、飲みづらい。

 手や顔の位置を調整するがうまく飲めない。

 どうしようかとペシペシ蛇口を叩いていたら二人組の女子高生が入ってきた。


「え、ネコ? かわいー!」

「ほんとだ! 一人でどうしたのかな? 迷子?」


 きゃーきゃー言いつつ顔や体をわしゃわしゃ撫でてくる。

 その間も蛇口をペシペシして水を要求する私。


「もしかして水が飲みたいの?」

「ニャー」

「うんだって」


 私の真意に気づき水を出してくれた。

 でも顔を斜めにしなきゃでやはり飲みづらい。

 四苦八苦していると一人が手をお椀のようにして水を汲んでくれた。


「はいどーぞ。こっちの方が飲みやすいでしょ?」

「あ、ずるい。私にもやらせて」


 好意に甘えペロペロと水を飲む。

 手だと水が溢れていくので代わりばんこで水を差し出してくれた。


 うぷ、もう満杯です。

 二人は手から水がなくなったあとのザラザラ舐めがお気に召したらしく何度も舐めさせようとしてきた。

 お礼も兼ねてやってあげたが口周りが疲れたよ……。


 ──ピッ……ピッ……


 改札機の上で香箱になり通る人を見送る。

 ここいいね。

 立ち止まると他の人に迷惑だからか一撫でして去っていく人がほとんどだ。

 こんなところに猫がいるなんて普通じゃないから驚く人もいて楽しい。

 あとお腹があったかい。


 気分が良くなってきたので少し寝ようかな……。


 ◇


 はっ! 今何時!?

 近くにあった時計を確認する。

 ……まだ一時間も経ってないね。


 一眠りしたおかげで疲れもとれた。

 立ち上がって背中を伸ばす。

 うーん気持ちいいー。

 このまま毛繕いもしちゃお。


「え、あのネコ本物だったんだ」

「置物かと思ってた」


 なんかそんな声が聞こえてくる。

 失礼な、私は生きてますとも。

 あと毛繕い中は触るでない。シャー。


 身だしなみを整え上半身だけ起こしてちょこんと座る。

 さて、このあとはどうしよう。

 まあ今日のところは帰ろうかな。十分満喫したし。

 そう思い改札機から降りようとしたら私に目もくれず横を通り過ぎて行った人がいた。


 ──あの人は危ない。助けなきゃ。


 生気を失くしたような顔をし今にも消えてなくなりそうな雰囲気の女性だった。

 過労死した私にはわかる。あれは寸前の状態だ。


 すぐに飛び降り女性のあとを追う。

 追いついた先でニャーニャー鳴くが気づく素振りがない。

 蹴られるのを覚悟で絡みつくが足取りは機械のように動き続けて止まらない。


 焦燥感がどんどん大きくなるうちに駅のホームに着いてしまった。

 この位置はダメ! 数歩も進まないうちに落ちてしまう!


 プラットホームの最前列に立ち止まりピクリとも動かない。

 女性の前足に登るようにしてしがみつく。

 ともすれば私が落ちてしまいそうだが必死に声をあげる。


 ──まもなく1番線を電車が通過します……


 女性がピクリと反応し電車がくる方向に視線を向ける。

 私もその方向を見るとネコの視力がしっかりと電車を捉えた。


 ええいままよ!

 その場でジャンプし女性の体をよじ登って顔にダイブした。


「わぷ」


 そんな声をあげて女性は尻餅をついた。

 一瞬の間を置いてお腹に手が滑り込んできて私を持ち上げる。


「……ねこ?」

「ミャーオ」


 ──ゴーーー、ガタンゴトン、ガタンゴトン……


「あ……わたし……そんなつもりなかったのに……」


 うん、わかるよ。ふっとそんな考えが降りてきちゃうんだよね。

 大丈夫、もう大丈夫だよ。


 ぼろぼろと涙を流す顔を舐めて慰める。

 舐めるたびに私を抱く力が強くなっていった。


「大丈夫ですか?」


 一人と一匹が抱きしめあっていると親切そうな声が響いてきた。

 ……て旦那様やないかい。


「あ、すみませ……大丈夫で……す。いまどきます」

「大丈夫そうに見えませんよ? なにかありましたか?」


 くぅ、手を差し伸べながら気遣うなんてなんだこのイケメンは。

 その手引っ掻いてやろうか。

 ……冗談だよ?


 近くのベンチにエスコートされ落ち着くまで待つ。

 途中で「ちょっと待っててください」と言って消えたと思ったら飲み物を買ってきた。

 このイケメンめ、隙がないな。


「……ありがとうございます」

「いえ、お気になさらず」


 爽やかな笑顔で言いつつ蓋をパキッと開けて手渡した。

 そこまでされたらという感じで女性が口をつける。

 喉が渇いていたのかそのまま二口三口と進み一息つく。


「かわいいネコちゃんですね。うちで飼っているネコにそっくりだ」


 飲み物を飲んで落ち着いたところで旦那様が話しかけてきた。

 いやーほんとそっくりですよね。私もそう思います。


「……えっと、この子私が飼っているんじゃないんです」

「そうなんですか? そんなに懐いてますしてっきりお宅の子かと思いました」

「はい、でも命の恩人です。今も私を救ってくれました」


 そこまで話したところで通知音が鳴り出した。

 女性がカバンからスマホを取り出し確認すると顔を青ざめさせていく。


「……どうかしましたか?」

「い……え……あ、の」


 声にならない声だ。

 ただならぬ様子とみた旦那様が「失礼ですが見てもよろしいですか?」と聞きゆっくりとスマホを取る。

 しばしスクロールまでして確認しているとポチポチとタップしだした。


「状況はある程度理解しました。勝手ながらあなたの父親を騙って仕事は休むよう伝えたのでとりあえずは安心してください」


 ああ、やはり仕事関連が原因か。

 過労死した身としてはやるせない。


「……でも、そんなことしたらわたし」


 俯いて体を強張らせている。

 おそらく洗脳まがいのことをされているのだろう。

 責任感の強そうな子だしやめる決心もつかないのかな……。


「うーん……あ、すみません、この資料見せてもらっていいですか?」

「え? あ、はい。どうぞ」


 カバンから覗いていた資料を旦那様がめくっていく。

 うん、これなら、とか呟いて最後まで目を通していった。

 というか読むのはや! ちゃんと読んだの!?


「よくまとまっていてわかりやすいですね。お一人で作成したのですか?」

「……はい、他の人はみんなやめてしまって」

「すごいですね。よければうちの会社に来ませんか?」

「え?」

「にゃ?」


 ポカーンとした顔が二つ並ぶ。

 涼しい顔をした人は胸ポケットを探り名刺を差し出してきた。


「うちの会社ようやく軌道に乗ってきたので人を増やそうとしていたんですよ。同業のようですし即戦力になりますよ」


 ──あ、うちはホワイトですよ。と続けて白い歯を見せてきた。


「え、この会社最近力をつけてきたところの……って社長さんですか!?」

「ええ、あなたさえよければ……いえ、絶対にうちに来てください」


 そのあと軽く労働条件について話し始め、今の会社の退職方法やしばらく休んだ方がいいなどのアドバイスがされた。

 最後には連絡先も交換して後日改めてということになった。

 話が進むうちに女性も少し元気が出てきたようでよかったよかった。


「ありがとうございました。退職したら連絡してみます」

「早く退職しないとこちらから連絡しますからね」


 そう言って笑顔で旦那様が去っていった。

 思わぬ展開になったがこの人が救われて何よりだ。

 さて、私もお暇しようかね。


「あ……ありがとうネコちゃん!」


 また死にたくなったら言ってくれ、女性へのアフターサービスは万全なんだ。幸せに暮らせよ。

 パクリじゃない、オマージュなんだと尻尾を振って返事をした。


 ◇


 ──ポーン、上へ参ります


「……やっぱりミーシャ? ミーシャだよね?」

「ミャ゛」


 エレベーターに一人と一匹が並ぶ。

 旦那様がしゃがんでこちらを見てくるが私は視線を合わせない。

 ミーシャ? あいつならその辺でペンギンと遊んでたよ。


「……たしかカニがまだ残ってたはずだけど食べる?」

「にゃにゃにゅ」


 旦那様にすりすりして媚を売る。

 私にカニの話題を出したんだ。冗談では済まされんぞ!


「ほんとにミーシャなのか……。外に出て何をしてたんだい? というかどうやって出たの?」

「ニャー」

「はは、聞いたって答えてくれるわけないか。でもあの人を救うなんて偉いな、よくやったぞ」


 そう言って私をわしゃわしゃ撫でてくれた。

 うむ、私がんばったのである。

 だからカニを──


「カニはまた今度な。残りがあるってのは冗談だから」

「ニャ゛ーー!」

「いて、痛いってミーシャ。ちゃんと買ってくるから」


 猫パンチを繰り出して抗議していると部屋の階に到着した。

 ほら行くよといって私を抱き抱える。


 ──ガチャ


「ただいまー。ほらミーシャも」


 ミャー!


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猫(長毛種)に転生したので現代社会を生きる人達の癒しになります 長崎ヤンデレ彼女 @lain1111

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