song「オレ達の軌跡」

 数分後、日本チームは最後の円陣を組んでいた。全ての選手がやり切ったいい顔をしている。

 柊斗がベンチの隅に置いてあったマイクと、ギターケースからギターを取り出してきて、再び円陣の中に加わった。

 マイクを手渡された昴が話し出した。


「こんな事は特別なんだけど。

 金メダルを獲れたらやっていいよって、特別にお願いを聞いてもらえたんだ。

 沢山の応援、本当にありがとう。弟のシュウトが作って、オレがずっと励まされてきた歌をみんなで歌うから聴いてくれよ」


 ボロロン♪


 柊斗が一小節だけギターを弾いて会場を見上げた。

 一体何が起こったんだ? 

 そんな感じで静まり返っていた会場に拍手と響めきが起こり、会場はコンサート会場と化した。


 ボロロン♪ ボロロン♪

 ジャッジャッジャッジャ、ジャッジャッジャッジャ♪


 美しいギターの音色に合わせて、選手達が歌い出した。



【 ♪ 明日の事なんて、分からないよ

 誰にも

 だから今、今、今、ここなんだ

 たとえ、これが最後の一日になっても

 後悔はない

 たとえ、これが最後の一本になっても

 後悔はない


 思うようには出来なくたって

 最後まで出来る事はあるよ

 一人では出来なくたって

 一緒にやれば、ほら、出来る

 オレは一人じゃないから

 君は一人じゃないから

 さあ! この一歩を踏み出そう!


 ありがとうって思って生きる事が出来る

 その事にありがとう♪】


 昴のソロが入る。

 会場の拍手が一段と大きくなる。


 【♪ 怖いさ、怖いさ

 朝起きるのが怖い

 今日は動くのか

 夜眠るのが怖い

 明日はやって来るのか

 覚悟は出来ているけれど

 やっぱり怖いさ

 だけど後悔は無い

 オレは一人じゃないから

 大丈夫!♪】


ジャッジャッジャッジャ、ジャッジャッジャッジャ♪


 決して上手いとは言えないけれど、少し恥ずかしげに歌う声は、スポーツ選手っぽくて好感が持てる。いつも突っ張っていて弱音を吐く事なんかない昴の内面を歌っているようで、聴いている人達の心に染みた。

 再び全員で歌う。


 【♪出来る事をやりきるんだ

 この人生を生ききるんだ

 やりきる、生ききる、やりきる

 生ききる、やりきる、生ききる♪】


 柊斗のソロが入る

 

 【♪ きっと

 魔法はあるよ

 絆という糸に

 一生のうちで

 一度だけ使える魔法を乗せるから

 気づいてね

 ほんの少しの力をそこに乗せればいいんだ

 七色なないろの虹が架かって

 心はゴールに届く♪】


 素人だとは思えない、まるで人気スターのコンサート会場にいるような、甘い美しい歌声が響き、会場の拍手は割れんばかりだ。

 そして全員でクライマックスを迎える。


 【♪そこに輝く奇跡

 ノーノー、違う

 それは奇跡なんかじゃなくて

 オレ達が歩んできた軌跡


 ありがとうって思って生きる事が出来る

 その事にありがとう

 ありがとう♪】


 ジャッジャッジャッジャ♪

 ボロロン♪ ボロロン♪


 

 円陣の内側を向いて歌っていた選手達が一斉に外側を向き、観客席に向かって手を振った。選手達の涙と笑顔がグチャグチャに入り混じったような顔が眩しい。

 手を上に挙げられない昴は両方の車輪に肘を乗せて、小さく両手を振っていた。涙を必死に堪えるように唇を噛んでいたが、涙は頬を伝っていた。


 その歌が、ついさっきの最後のシュート、コート上の五人が繋げたボールの軌跡を鮮やかに蘇えらせた。

 絆という糸に、柊斗が乗せた一生のうちで一度だけ使える魔法。それに気づいた昴が乗せたほんの少しの力。七色の虹が架かって、心はゴールに届いた。それは奇跡なんかじゃなくて、彼らが歩んできた軌跡。


 会場を埋め尽くした満員の観客は、総立ちだ。皆が選手達と同じように涙と笑顔がグチャグチャに入り混じったような顔をしている。

 会場はいつまでもいつまでも鳴り止まない暖かな拍手に包まれていた。


 完







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イスバス 〜オレ達の軌跡〜 風羽 @Fuko-K

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