「二人きりのクリスマス」

 ――クリスマスがやってきた。


 俺は今、華子さんと一緒に家族や男女で賑わう街中を一緒に歩いている。

 今日の華子さんは、白いニットにカーキのタイトスカート、上にはベージュのダッフルコートを着ており、すっかり冬仕様になった今日の華子さんもふわふわ可愛かった。



「太郎くん! 見て! 大きなツリーよ!」


 そんな華子さんは、街中に設置された巨大ツリーを指さしながら、子供のようにはしゃいでいた。

 こんなに美人だけれど、中身はどこか子供っぽいところがある華子さんは、綺麗さ可愛さを併せ持ち、そんな特別とも言える華子さんにしかない魅力に溢れている。



「綺麗だね。そうだ、一緒に記念撮影でもしとく?」

「いいわね! 撮りましょう!」


 満面の笑みで喜ぶ華子さんを優しく抱き寄せて、俺は他の人達がやっているのと同じように、ツリーを背景にスマホで自撮りをした。

 我ながら、中々に踏み込んだ行為をしてしまったのだが、もうそんな事に恥ずかしがっている自分は卒業したのだ。


 しかし、こうして俺と華子さんが一緒にツーショット写真を撮るだけでも、周囲からの視線を集めてしまっている事に気が付く。


 みんな華子さんという、特別な美少女の姿に思わず見惚れてしまっているといった様子だった――。



「太郎くん! 送って送って!」

「うん、今送るよ」


 だが、そんな周囲の視線なんて全く気にしていない様子の華子さんは、今撮った写真を無邪気に欲しがるのであった。

 だから俺は、そんな無邪気な華子さんに思わず笑ってしまいながらも、今一緒に撮った写真を華子さん宛てに送信した。



「はい、どうぞ!」

「ありがとうっ! うん、上手に撮れてるわね! 早速素敵なクリスマスプレゼント貰っちゃったわ!」


 そう言って、今送った写真を早速自分のスマホの待ち受け画像に設定している華子さん。

 そんな華子さんが可愛くて嬉しくて、俺はやっぱり自然と笑ってしまうのであった。


 こうして、ただクリスマスの街並みを二人で歩いているだけでも、華子さんと一緒ならその全てがキラキラと輝いて見えるのであった。



 ◇



 街の売店でチキン、それから小さめのクリスマスケーキを買ってきた俺達は、華子さんの家で一緒に食べる事にした。


 相変らず物が少なくて広い部屋だけれど、俺が一緒にいる事が嬉しいのだろう、華子さんは本当にずっと幸せそうにしてくれていた。



「ねぇ太郎くん、わたしは今思っていることがあるの」

「ん? どうしたの?」


 食事も終え、二人でのんびりしているところ、華子さんが突然身を乗り出しながらそんな事を言ってきた。



「太郎くん、わたしは今とても幸せよ」

「……そっか、うん、俺もだよ」


 頬を赤らめながら微笑む華子さんの言葉に、俺も微笑み返しながら答える。

 俺は華子さんと一緒にいられるだけで、こんなにも幸せでいっぱいなのだから――。


 ずっと自分に自信がなく、ずっと陰キャだった俺を見つけてくれたのが華子さんだった。

 だからこそ、今度は俺が華子さんの事を絶対に幸せにしてあげたいと思っていたからこそ、華子さんの口から幸せだと言って貰えた事が嬉しかった。



「なら良かったわ。……わたしね、太郎くんの事を独り占めしちゃって、本当に良かったのかなと思ったの」


 恥ずかしそうに、少し困り顔で話す華子さん。

 そんな華子さんを前にした俺は、考えるより先に華子さんの事を抱きしめていた――。



「それはこっちのセリフだよ。華子さんは本当に可愛くて輝いていて、俺なんかには勿体無いぐらい素敵な女の子だから」

「――ふふ、太郎くんは大きな勘違いしてるわ」

「勘違い?」

「うん、もしわたしが輝いて見えるなら、それは太郎くんがいつも隣に居てくれるからだよ。太郎くんが一緒だから、わたしはこんなにも今幸せだと思えるのだもの」


 俺がいるから幸せ、か――。


 うん、その気持ちはよく分かる。だって俺も、全く同じ気持ちだから――。



「じゃあ俺は、ずっと隣でそんな輝く華子さんを見ていたい、かな」

「ええ、それは素敵な事ね。それじゃあわたしは、ふふ、そんな太郎くんに飽きられないように頑張らないとだね」

「飽きるわけないけどね」

「……駄目よ、そういうのは言葉だけじゃ伝わらないわ」

「……そっか、じゃあ」


 そんな言葉では伝わらないと言う華子さんの唇に、俺はそっと自分の唇を重ねた――。



「……これからは、こうしてもっと態度でも示して行こうと思うんだけど、いいかな?」

「……うん、駄目じゃないわ」


 華子さんは顔を真っ赤にしながらも、そう言ってニッコリと微笑んでくれた。



「……大好き」


 そしてそのまま、今度は華子さんの方からその柔らかい唇を重ねてきた――。



「……素敵なクリスマスね」

「……うん、ちょっと幸せ過ぎて罰が当たりそう」

「それは可笑しいわ。だって、幸せなのは素敵な事よ?」

「はは、そうだね。じゃあ、感謝しないとだね」


 こうして俺達は、時間が許される限り二人で一緒に寄り添いながら、静かなクリスマスを過ごした。


 場所や催しなんて、何もなくてもいい。

 ただこうして、隣に華子さんが居てくれるだけでこんなにも幸せで溢れているのだから――。



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初めて失恋した陰キャな俺だけど、人生本気出すことにした こりんさん@コミカライズ2巻5/9発売 @korinsan

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