第2話〜新たな勇者探し〜

「本当に申し訳ない。まさか鍵がかかったままだとは思わなんだ。許してくれ」

そう言って王様は頭を下げた。

「いや、まぁ出られたからいいんだけどさ」

勇者が牢屋に捕まってから数刻後、見回りに訪れた兵士に事情を説明し、どうにか牢屋から脱出することができた。

「そう言ってもらえると助かる。言い訳になってしまうが、新しい勇者探しにワシも焦ってしまったのでな」

「新しい勇者ねぇ」

王様の言葉に勇者は少し溜め息を零す。


そもそも15年経ったとはいえ、本人としてはまだまだ現役のつもりである。

確かにあの頃と比べると体力は少し落ちたかもしれないが、冷静さと経験はかなり増えた。

若い者が皆素晴らしいとは限らないのである。


「うむ。既に国民や冒険者に魔王軍復活の報は知らせてある。更に腕によりのある者も集まるよう指示しておいた。その中から新たな勇者一行を探してみようと思う」


良い案を浮かんだら誰の案であれ迷わず直ぐに行動に移す。

こういったところは昔と全く変わっていないのである。


(だからこそ、アルムガード国からは悪い噂を聞かないんだよなぁ)

素晴らしい王がいる国は、国民も焦る必要がないのだ。


「けどさ、新しい勇者を探すって、具体的にどうすんの?」

「ううむ......それなのだが......」

「......?」

王様の言葉待つ勇者だったが、王様は溜め息混じりに頭を抱えた。

「......恥ずかしい事に、まだ決めておらんのだ」


何も考えていなかったのである。

(直ぐに行動するのはいい事だとは思うけど、もうちょっと考えてくれよ、王様)

勇者は「はぁ〜」と溜め息を吐く。


「仕方ない、俺もこっそり様子を伺う。そんでいい感じの魔力を持ったやつとか、器用そうなやつをリストアップしてみるよ」


仕方ないと言いつつも、何やかんやお人好しなのである。


「おお!済まぬ。先程手は借りぬと言っておきながら、やはりワシ一人ではどうにもならぬのぅ」

「1人で出来ることなんてたかが知れてる。助け合えるならその方がいいに決まってるさ」

1人で冒険は出来るが、安全に、無傷でとなると話は別だ。

それぞれの得意な事をその人に任せればいいのである。


「......うむ。そうじゃな。お主の言う通りじゃ」

どうやら納得してくれたようだ。

「さて、そうと決まればお主にも勇者探しを手伝ってもらう。明日、日が登り出した頃に城へ訪れてくれ。門番にも伝えておこう」

「あいよ。助かる」

門番に話が通してあるのならば、また捕まる事もないだろう。


「城の近くに宿を取らせる。そこで休息を取るといい」

「サンキュー王様」

勇者は王様に別れを告げ、告げられた宿屋に向かって足早に歩いて行った。




「......寝過ごした」

勇者が目覚めたのは、既に日が天高く登った後だった。

それも馬小屋で。


勇者はガシガシと頭を掻く。

「......流石に王様の命令を無視するのはやべぇよな」

焦っているのかいないのか、勇者は座り直して考え込む。

「うーん...まずどうしてこうなったか考えてみよう」

そんなことより早く王様の元へ向かえ。


「確か宿屋に向かう途中、美味そうな匂いがしてきたんだよな...」

勇者は昨日の記憶を思い出しながらうーんうーんと唸っている。

「そうだ。酒場で初めて酒を飲んだんだよな。それが意外と美味くて、そんで気づいたら......」

馬小屋にいたと。


「......まぁ、遅れちまったもんは仕方ないか」

よいしょっと勇者は立ち上がり、尻についた藁を手で払う。


「とりあえず、城へ向かうか」

勇者は悪びれた様子もなく、馬小屋からゆっくりと城へ向かって歩いていく。

っとその時...


「あっ!」

どん!っと後ろから何かがぶつかってきた。


「っと。なんだ?」

後ろを振り向くと、ボロボロの服を着た14歳程の少年が尻餅を突いていた。

「痛てて......あっ!す、すみません!」

少年は慌てて起き上がり頭を下げる。

「ああいや、気にすんな。こっちも周りを見てなかったからな」

勇者は少年に頭を上げるよう促す。


(それにしてもこいつ、いくら寝起きとはいえ、よく俺に気づかれずにぶつかってこれたな)

いくら酒に溺れ、寝ぼけていたとしても、一応は勇者と呼ばれていたのだ。

そんな勇者が気配に気づかないとなると...

(それなりの才能......もしくはそういう事をしなければならない仕事に就いてるってとこか)

勇者はぶつかった事よりも、ぶつかれた少年の技術に少し興味を持った。


「あっ!いけない!急いでお城へ向かわないと!本当にすみませんでした!」

だが少年はぺこりともう一度頭を下げると、城の方へ向かって慌てて駆け出した。


「あっ」

もう少し話をしようと少年を呼び止めようとしたが、少年が城に向かっていったので勇者は手を止めた。

「......まぁいいか。城に向かってるってことは、あいつも新しい勇者になろうとしてるって事だろうし...」

だが王様は日が登る前に人々を集めると言っていた。

今から行って間に合うのだろうか?


「......さて、俺もそろそろ向かうか」

勇者はもう一度頭をガリガリ掻きながら、歩いて城に向かって行った。

いや走れよ。


 


「では次!職業と得技を述べよ!」

城に着くと、壇上に上げられた冒険者が兵士に得意分野を聞かれていた。

王様は兵士の後ろに用意された椅子に座って話を聞いている。


アルムガード国は平和の多い国だったが、未だに読み書きができる人間はそう多くない。

兵士は一人一人の職と特技をメモに書き込んでいるみたいだが、これ程の人数を相手にしていれば、相当時間が掛かっただろう。

(大変だなぁ)

そんな事を思いながら、勇者は王様のいる壇上近くに行き、冒険者の話を聞きに行く。


「よし次!職業と特技を述べよ!」

「おう!俺の職業は僧侶だ!特技は肉弾戦だな!文字もある程度なら読めるぜ!」

僧侶とは似ても似つかない2m程の身長をした、ガチムチの人間が壇上に上がっていた。

あんなナリをしているのに、文字も読めるとは大した者だが、あんな僧侶には祈られたくはないものである。


「成程...よし、次!職業と特技を述べよ!」


そうして次々と壇上に冒険者が上っていく。

遅れてきた身でありながら、これほどの人物が勇者になろうとしているようだ。

(正直、勇者になったところでいい事なんて一つもないんだがなぁ)

勇者は溜め息を吐きながら、その様子を腕組みしながら見ていた。


「よし、次!職業と特技を述べよ!」

「は、はい!」

(ん?あいつは...さっきぶつかってきた少年か?)

ボロボロの服を着た少年は、ガチガチに緊張しながら壇上に上がった。


「ぼ、僕の職業は、えっと...斥候です!特技は...け、気配を隠すのが得意です!」

斥候とは、いわゆる盗賊や密偵のような役回りで、主に隠密行動や偵察能力に優れた職業だ。

誰にでもできそうな事だが、いざやって見るとこれがなかなか難しい。


(内のパーティでは野伏が担当してたっけ)

アイツは今頃元気にやっているだろうか?

勇者は昔の仲間を思い出す。


「成程...よし、次!職業と特技を述べよ!」


少年は未だにガチガチのまま壇上を降り、次の人物が壇上に上がった。


勇者は欠伸をしながら壇上に上がっていく冒険者の話を聞き続けた。

いや欠伸は隠せよ。




「......うむ!どうやらこれで全員のようだな!」

壇上に上がる者が居なくなり、全ての冒険者の紹介が終わったところで王様が椅子から腰をあげ冒険者達に話しかける。


「皆の者、ご苦労だった!新たな勇者に関しては今日の情報を元にワシが決めていく!国外から来た冒険者も暫くはこの国に滞在して欲しい!費用は全て我が国が受けよう!今日は集まってもらい本当に感謝する!」

王様が頭を下げると国内の冒険者は大きな拍手をあげる。

それに釣られ国外から来た冒険者もパチパチと手を叩く。


勇者はその様子を見ながらゆっくりと広場から離れていった。




「悪い王様。少し遅れた」

改めて王室に足を運んだ勇者は取り敢えず遅れた事を王様に謝った。

「おお!勇者よ!一体何処におったのじゃ!?今朝方宿に兵を向かわせたが、誰も居ないと聞いて気が気ではなかったぞ!」

どうやら要らぬ心配を与えてしまったようだ。

「いやそれについてはまぁ、色々あって...」

勇者はコホンと咳払いをして誤魔化す。


「とにかく、冒険者の話は途中から聞いてたから、そこの兵士が書き溜めたリストを見せてくれ」

勇者は今日の冒険者が話していた内容を書き溜めたリストを持っている兵士をピッと指さす。

「......どうしますか?王様?」

兵士は王様に見せるべきかどうか聞いた。

「勇者が見たがっているのだ。渡してやりなさい」

「......はっ」

兵士は王に頭を下げ、此方にリストアップした紙を渡そうと近づいた。

「ん」

手を伸ばして紙を受け取ろうとする勇者に対し、兵士はそのまま無言で立ち塞がる。

「ん?」

一向にリストを渡さない兵士に勇者は首を傾げる。

なんだ?

「どうした?早く渡してやりなさい」

王様が兵士にリストを渡すよう促す。

「いえ......まだこの男からお礼の言葉を伺っていないので」


「は?」


兵士の言葉にポカンと口を開ける。

「何を言うておる。この男は世界を救ってくれた勇者じゃぞ。失礼な態度をとってはいかん!」

兵士の態度に少し王様も声を荒げる。

そうだ。もっと言ってやれ王様。


「お言葉ですが王様。この男が世界を救ったのは既に15年も前。しかも、新たな魔王が現れたということは、もしかすると15年前に倒した筈の魔王が復活したという可能性もあります。そうでないにしても、こちらの手を借りているのならば、感謝の言葉の1つや2つはあってもいいのでは?」

うーん至極もっともな意見である。

兵士の言葉に王様も「うむむ...」と唸っている。


正直勇者からしても手を借りているという自覚はあるし、別に頭を下げる事に対して何ら問題もない。

ないはずなのだが...


「で?どうしました?感謝の言葉は?」

ピラピラとリストを揺らしながらこちらを煽ってくる態度に少々ムカッときた。


「まぁ確かに?アンタの言う通り、もしかしたら前の魔王が復活したって可能性もなくはないな。だからこそ、一刻も早く新しい勇者パーティを作り出さないといけない訳だろ?こんな小さな争いで時間を無駄にしたくない」

ぺらぺらぺらぺらとよくもまぁ口が回るものである。

別に言い訳する必要がないのに何故ここまで饒舌になっているのだろうか。

勇者の言い訳?に対し兵士は「はぁ...」と溜息を吐き出した。


「......まぁいいでしょう。貴方の言う通り、この様な些事で時間を無駄にするのは勿体ない」

兵士は持っていたリストを勇者に手渡した。

「ありがとさんっと。さて...」

お礼を言って勇者は手渡されたリストを読んでいく。

勇者も字は書けないが読む事なら出来るのだ。


「王様。ちょい筆貸して」

「筆か。よかろう。おい」

王様は兵士に筆を貸すよう促す。

「......どうぞ。お使い下さい」

今度は嫌味垂らしいことは言わず素直に貸してくれた。

最初からこうしてくれればいいのである。


勇者は借りた筆を使いリストに丸を付けていく。

「こいつとこいつ......あとこいつもだな。んであとは......よし。大体こんなもんだろ」

勇者は筆で付け加えたリストを王様に渡す。

「まだ確定とは言わないけど、とりあえずコイツらかな」

「おお!どれ」

リストを手渡された王様は興奮気味にリストを見返す。

「ふぅーむ......丸が付けられているのは5人か。ではこの者達が、新たな勇者の一員になる訳だな?」

「まぁ、そういうことだね」

それなりの能力を持っている奴らを選んだし、パーティのバランスも悪くない筈だ。

「では早速この者達を城に呼びます」

兵士は王様に一礼したあと王室から離れようとした。


「あー、ちょっと待ってくれ」

そんな兵士を勇者は呼び止める。

「......まだ何か?」

兵士はジロリと勇者を睨み付ける。

何でこの兵士は俺を見る目がこんな険しいの?

俺なんか悪いことしたかな?


「えーっと......確かにそいつらは呼んで欲しいけど、それとは別にもう1人呼んできてくれないか?」

兵士の目に威圧されながらも、勇者は伝えなければいけない事を口にする。

「もう1人?それは一体誰じゃ?」

王様も首を傾げる。

勇者が呼ぼうとしているもう1人の人物。

その人物こそ......

「新しい勇者候補さ」

勇者はニヤリと口を端を歪めた。

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先代勇者はお節介!〜魔王が復活したのでもう一度倒そうと意気込んだが既に別の勇者が!?しかも弱ぇ!〜 @ReiMIYA

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