第1話〜魔王復活〜

ーーーアルムガード大陸。


この大陸ではエルフ、ドワーフ、人間が住んでおり、平和な日々を過ごしていた。

しかし突如として現れた魔王と名乗る竜の尾を持つ亜人に侵略され、人々は恐怖のどん底に沈んでいた。


だがその魔王は勇者と呼ばれる人間達に倒された。


勇者達は5人のパーティを組んでおり、彼等は伝説の冒険者として歴史に名を残した。




魔王を討伐してから15年、あの伝説の勇者達は今何をしているのだろうか?




ある者は国の名誉魔導士として選ばれ、またある者は流浪の野伏として活躍していたと噂に聞く。

教会で祈りを捧げるエルフの神官も、そんな伝説のパーティの1人だとも聞いた覚えがある。

その教会にちょくちょく現れるドワーフの老人もそうなのだろうか?




では肝心の勇者は?

魔王を倒した勇者は一体何処に?






ーーーとある山の小屋。

「...ぐっ...う〜〜〜ん...」


魔王を倒した勇者は、布団の中で惰眠を貪っていた。


身体付きは引き締まっているが、もう既に日も昇っているのに、むにゃむにゃと寝言を言っているこの青年が、本当に勇者だったのだろうか?

この姿を見ただけでは誰も信じないだろう。


......それから数時間後。

「くぅぁぁぁ...よく寝た」

勇者と呼ばれた30歳程の青年は伸びをしてようやく起き出した。

普通の一般人なら既に起きて仕事をしているところだろう。

このような人と違うところが勇者と呼ばれた由縁なのだろうか?


ぐうぅぅぅ......


「腹減ったな......昨日の残りはっと......」

勇者は台所の方に行き、ガサゴソと食べれそうな物を探している。

だが何も見つからなかったのか、溜め息を吐きながら戻ってきた。

「昨日ので食いきっちまったか......。しょうがねぇ、何か狩ってくるか」

勇者は頭をポリポリ掻きながら扉に立てかけてある剣を手に外へ向かう。


「さーてと、手頃な獲物が見つかりますかねぇ」

勇者は肩に剣を乗せて山の中に入って行った。




ザシュッ!

「ビヒィィン!」

「ふぅ...手こずらせやがって...」

勇者は仕留めた獲物を木に吊るし、慣れた手つきで血抜きを行う。

血が全て流れ出たのを確認すると、獲物を川に運び、内臓を取り出して水で洗いだした。

「よし......後はこいつを家で保存すりゃ...」

洗い終わった内臓と血抜き済みの獲物を抱えようとした時、上流の方からおびただしい量の血液が流れてきた。


「......なんだぁ?」

勇者は訝しそうに眉を潜める。


上流からはゆっくりと鎧を着込んだ兵士達が流れてきた。

兵士達の身体はところどころ穴が空いている。

恐らく魔法攻撃を受け空いた穴だろう。


「対魔力の付いた鎧を着て来なかったのかねぇ」

一般人からすれば恐ろしい光景なのだが、勇者は溜め息を吐きながら兵士達を川辺に上げる。

倒れ伏した兵士達を土に埋めようとしているのだろう。

なんだかんだ言って優しいのである。

「川が汚れたまんまだと魚も住み着かなくなるからなぁ。食料が無くなるのはまずい」

前言撤回。

自分の事しか考えていなかった。


「ん?」

兵士達を川から引き上げた勇者は鎧に付いた紋章を見て眉を潜める。


「この紋章...確かアルムガード王国のしるしじゃなかったか?」

鎧に付いた紋章は大きな翼をはためかせている鳥の姿が描かれている。


「うん間違いない。......って事は、この兵士達はアルムガード城から来たって事か?」

勇者は顎に手を当て考える。


(考えてみれば、城の兵士がこんな山奥にいるなんておかしいだろ......兵士ってのは王様を守るためにいるもんだろ?なのに、わざわざ俺の家の近くにいたって事は......)


「......俺を探しに来たって事か?」

顎から手を離し、独りごちる。


(俺がこの山に住んでいる事を知っているのは、王様と近くにいた側近、後は俺の仲間達だけだ。......恐らくだが、王様に俺の居場所を教えてもらって城に呼ぼうとしたってとこか?だが......)

勇者はちらっと倒れ伏した兵士達を見る。


(俺に会う前に何者かに殺された......ってとこか)

ふーっと深い息を吐いて、勇者は兵士達を土に埋めていく。


やがて全ての兵士達を埋め終わった後、勇者は臭いのキツくなった獲物に目を向ける。

「コイツはもう食えねぇなぁ」

血抜きは終わっていたが、内臓を肉の上に放置していた為、下の肉も恐らくダメだろう。

勇者は残念そうに獲物を土に返し、川を見つける途中に見つけた果実を懐から取り出す。


「さぁてと、一体全体どうなったかを聞きに、行きますか。アルムガード城に」

勇者はガブっと果実に噛みつき、アルムガード城に向かって歩き出した。


「酸っぺぇ!」




ーーーアルムガード城門前

「......懐かしいな」

勇者は15年前の事を思い出す。

(あの時はマジで大変だったな...。いやここまで来るのにもちょい大変だったが...)

実は来る途中道に迷って通行人にアルムガード城の場所を聞いていたのである。


「さてと......それじゃあ王様に話でも聞いてきますか」

勇者は城門前の兵士に片手を上げながら

「ご苦労さん」

と言って中に入って行った。




「王様!怪しい人物を捕らえました!」

扉を勢いよく開けた兵士は矢継ぎ早に喋りだした。

「なんじゃと!?」

玉座に座っていた王様はその言葉を聞き立ち上がる。

「一体何処で見つけたのじゃ!?」

「はっ!城門前にて捕らえました!地下牢にて捕縛しておりますが如何致しましょう!?」

「ふぅーむ...」

王様は玉座に座り考え込む。


「その者はどの様な人物だった?」

「はっ!見た目は30歳程の青年!身長は樽2つ積み上げた程(174cm)!頭髪は癖っ毛の混じった髪型をしていました!」

「......それだけならば特に捉える必要もないと思うが...」

王様は兵士の話を聞き疑問点を口に出す。

「はっ!ですがその人物は帯刀しており、王様に害をもたらすのではないかと考え強硬手段に出ました!」

過激すぎである。

王様は兵の話を聞き頭を抱える。


(やれやれ......この者は勤勉で真面目なのだが、少し直情的すぎるのが玉にきずだな...)

「如何致しましょう!?首を刎ねましょうか!?」

なんと物騒な。


「待て待て、何もそこまでする必要はない。その者に会ってみよう。確か地下牢だったな?」

王様は玉座から立ち上がる。

「危険です!王様がそこまでしなくても!」

「何心配は要らん。ワシにはお主と言う優秀な兵士がいるのだからな」

王様は兵士の来ている鎧を軽く叩く。

「お、王様!!はい!私に任せてください!必ずや王を凶刃から守らせて頂きます!」

兵士は涙を流しながら王に向かって敬礼をする。

(もう少し遊び心があると良いのだがな)

王様はその様子を見ながら少し笑い、兵士と一緒に地下牢に向かう。




ーーーアルムガード城地下牢

「お、お主は!ゆ、勇者ではないか!?」

王様は牢屋の中でムスッとした顔をした勇者を見て仰天する。

「......よぉ王様。ご機嫌麗しゅう」

あぐらをかき、頬杖をついた姿勢で勇者は牢屋の中から王様を見上げる。

「一体何故此処に!?」

「こっちが聞きてぇよ。俺はただ兵士に挨拶して、あんたに会いに来ただけだってのに......」

帯刀してあんな挨拶をしたら捕まるのも無理ないだろう。

「貴様!王に向かって何と口の聞き方だ!私が首を落としてやる!」

兵士は剣を抜き、勇者に向ける。

「ちょいちょい、王様。コイツなんなの?」

勇者は剣を抜いた兵士を指差しながら王様に問いかける。

「すまん。悪気があるわけではないのじゃ。許してやってくれ。お主もじゃ」

「はぁ。王様がそう言うなら......」

兵士は剣を鞘に収める。


「して、お主がワシの城に来たという事は、やはり魔王が復活したというのは本当のようじゃな」




......はっ?




魔王が復活?

何の話だ?

勇者は困惑しながらも顔は真面目フェイスで王様の話を聞く。


「先月ほど前に、ワシの兵士が魔王軍を見たと言う情報があったのじゃ。無論真実はまだわからぬ為国民には伏せているが......。兵士の半分程はその調査の為いま国を留守にしている」


「なるほどね。そんじゃ家の近くで死んでた兵士はその魔王軍にやられたって事か」

「な、何じゃと!?それは誠か!?勇者!」

勇者の台詞に王様は目をひん剥かせる。

「ああ。魔法が貫通して至る所に穴が空いてたな。ちゃんと全員土に埋めといたぜ」

「そ、そうか......。では、リビングデッドになる事はないと言う事じゃな......」

この世界では死体は土で埋めて浄化をしないとリビングデッドとなり、モンスターとして活動してしまうのである。


「あのぅ、王様。ほんの少し気になったのですが、なぜこの男を勇者と呼ぶのですか?」

っと、勇者を捉えた兵士が首を傾げ王様に問う。

ほんの少しじゃなくもっと興味を持って欲しいものだ。


「おお、すまん。お主には説明しておらなんだな。この者は15年前、魔王の侵略を阻止してくれた勇者なのだ」

「へぇ〜」

なんだその反応は。

もっと「わぁ凄い!サイン下さい!」くらいあってもいいだろう。

勇者は兵士の態度に不貞腐れる。

「まぁいいや。話を戻すぜ。そんじゃ魔王が復活したって事は、また誰かが倒さないといけないって事だよな?」

その誰かってのは勿論勇者だが。

勇者の問いに王様は「うむむ」と答えを濁す。


(......?なんだ?)

なにやら王様の反応がおかしい。

ああ、もしかして......

「俺のことなら心配要らないぜ。確かにあれから15年も経っているが、まだ腕は落ちちゃいねぇ。昔の仲間を集めて、この俺が......」

と、そこまで言ったところで王様は手で勇者の言葉を遮った。


「いや分かっている......。お主が魔王を討伐して15年......。それほどの時間が経っていれば、お主も戦えぬであろう」

ん?王様俺の話聞いてた?

「やはり新たに勇者を集める他ないか......。兵士よ!直ちに国民を集めよ!魔王軍が復活した事を国民に話す!そしてその国民の中から、新たな勇者を見つけるのじゃ!」

「はっ!了解しました!」

もしも〜し。

兵士は一目散に扉を開け、地下牢から去っていく。

「何心配は要らん。お主がおらずとも、ワシらは立派に戦える。人間の力を見せてやろうぞ!」

「は、はぁ......」

「ではワシは行く。お主も危機が来る前にこの城から離れた方がいいかも知れんのぅ」

そう言って王様は踵を返していった。

(......いや、家の近くで兵士がやられたんだから、戻ったら余計まずいでしょ......ていうか......)

「......えっ?ちょっと待って?王様!?ここ開けて!?おーい!!!」

勇者の声は、地下牢にて大きく響き渡っていった......。

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