先代勇者はお節介!〜魔王が復活したのでもう一度倒そうと意気込んだが既に別の勇者が!?しかも弱ぇ!〜
@ReiMIYA
プロローグ
ーーーアルムガード大陸。
6000万人ほどが住んでいたこの大陸は、突如として現れた魔王と名乗る竜の尾を持つ亜人に侵略され、早6年が経とうとしていた。
大陸の半分程は魔王が生み出した黒い影の魔王軍に侵略され、人々は恐怖と不安に苛まれていた。
ーーーアルムガード王国。王室内にて...
「王様!城壁の外に魔王軍が!その数、5万!」
勢いよく扉を開けた衛兵は息を切らしながら玉座に座る王に報告をする。
「...遂にこの城にまで攻めてきたか...」
玉座に座る王様は溜め息を吐きながら衛兵に伝令を飛ばす。
「全軍に伝えよ!勇者達が魔王を倒すまで、何としても持ち堪えよと!」
「はっ!」
王の伝令を聞き、衛兵は王室から去っていく。
王はもう一度溜め息を吐きながら玉座に座り祈るように目を閉じる。
「...頼むぞ勇者よ...。何としても魔王を...」
王の呟きは誰にも聞かれる事なく、空に消えていった。
ーーー魔王城王室。
ーッカ!ーーッキキン!ーードンッ!
王室の中では剣のぶつかる音や爆発音が響く。
「ふん。人間にしては、なかなかやる!」
黒い肌に竜の尾を持つ青年は鎧を着た少年を弾き飛ばし後ろに跳躍する。
「うわっ!?」
弾き飛ばされた少年は尻餅をつきながらも竜の尾を持つ青年から目を外さない。
「大丈夫、勇者!?今回復を...!」
ローブを着た少女が勇者に近づき回復魔法をかけようとする。
だが少年は
「来るな魔導士!罠だ!」
そう叫び竜の尾を持つ青年に手に持った剣で斬りかかる。
「...ほう、俺の詠唱に気づいたか」
竜の尾を持つ青年は呟いていた詠唱を止め、勇者の剣を受け止める。
「大丈夫?魔導士ちゃん?」
背の高い軽装備な青年が魔導士に近づき身を案ずる。
「は、はい野伏さん」
魔導士は野伏に返事をし、勇者と竜の尾を持つ青年に目を移す。
「勇者ちゃん!急がないとアルムガード城に送られた魔人軍が王様を殺しちゃうし、足止めをしている重戦士ちゃんや神官ちゃんも保たないわよ!」
野伏は勇者に向かって大きく叫ぶ。
「わかって...る!!」
勇者は渾身の力で竜の尾を持つ青年を剣で弾く。
「っく!?」
竜の尾を持つ青年は勇者の攻撃に仰反る。
「終わりだ!魔王!」
千載一遇のチャンスに勇者は魔王の腹に剣を突き刺す。
「ぐっ!?ガァァ!!?」
剣を突き立てられた魔王は後退り玉座に手を着く。
「はぁ、はぁ、はぁ」
勇者は膝から倒れ、地面に手を着く。
「勇者!」
「勇者ちゃん!」
魔導士と野伏は勇者に駆け寄る。
「だ、大丈夫だ。それより...」
勇者は玉座に手を付いている魔王を見る。
「ぐぅぅ...!ハァ...ハァ...」
魔王は息も絶え絶えに勇者達を見る。
「ま、まさかこの俺が、こんなガキにやられるとはな...」
魔王は口を少しにやませながら勇者に言った。
そして、魔王の身体は少しずつ消えていく。
「チッ...すまねぇ父さん......約束......守れ......」
ーーッカラン。
魔王の身体に突き刺さっていた勇者の剣が地面に落ちた。
その音と同時に。
ーーバタンッ!
「勇者殿!」
「勇者さん!」
魔王の王室に入る前に足止めを任せていたドワーフの重戦士とエルフの神官が扉を勢いよく開け放った。
「重戦士(ちゃん)!神官(ちゃん)!」
魔導士と野伏は足止めを任せていた2人が無事だったことを喜び、みんなで抱き合った。
「よく無事だったわね!魔王軍の影達は?みんな倒しちゃったの?」
野伏は重戦士と神官に尋ねる。
「それが...儂にも分からんのじゃが、奴ら急に姿を消しおったのじゃ」
「恐らく、勇者さんが魔王を討ち取ったからではないかと考えたのですが...」
2人は恐る恐るそう答えた。
「ええ!そうよ!私たちはやったのよ!遂に勇者が、魔王を倒したのよーーー!!!」
魔導士は自分の手柄のように両手を上げ叫んだ。
「まぁ、アタシ達は殆ど何もできなかったけどね」
野伏は頬に手を置きやれやれと息をつく。
「わ、私はちょっとは手助けしたわよ!ほら...その...爆発で!」
魔導士の話に重戦士と神官も笑いだす。
「おーい。そろそろ魔王を倒した勇者を労ってくれないか?」
勇者は尻餅をつきながら仲間の4人に声をかける。
「あっ!忘れてた!」
「忘れてたって...」
魔導士の台詞に勇者は溜め息を吐く。
「まぁまぁ。それより、これでこの国も安心かしら?」
野伏は座っている勇者に手を貸し立ち上がらせる。
「よっと。ああ、たぶんな」
立ち上がった勇者は4人にそう告げる。
「本当に、私たちは勝てたのですね。あの魔王に」
「随分と手こずらせてくれたもんじゃわい!」
神官は感慨深く、重戦士は溜め息混じりにそう呟く。
「王様は無事かしら?」
「ねぇ勇者!早く帰って確かめましょ!」
野伏と魔導士の声に勇者は頷く。
「ああ!帰ろう!アルムガード城に!」
勇者は落ちた剣を鞘に入れ、仲間と共に魔王城を後にした。
アルムガード国に戻ると、歓声と共に勇者達は迎え入れられた。
勇者達はそのまま王室に呼び出される。
「よくぞ国を救ってくれた!勇者一行よ!」
王様は玉座から立ち上がり、勇者一行に一人一人頭を下げる。
「お、王様!顔をお上げください!」
王様の側近が慌てて王に顔を上げるように声をかける。
「何を言う!勇者達が魔王と戦っておる間、私はただ座っていただけだ!そして勇者達は無事魔王を倒して帰ってきてくれた!頭を下げずして何という!」
「そ、それはそうですが...」
王様の気迫に側近達もかける言葉が見当たらなくなる。
「まぁまぁ王様ちゃん。アタシ達は別に王様に感謝されたいわけじゃないのよ?ただ魔王軍に襲われたこの国が無事かどうか確かめに来ただけだから...」
野伏はそう言って王の頭を上げさせる。
その様子に側近達もホッと胸を撫で下ろした。
「そうか...お主達がそう言うなら...」
王様は頭を上げ玉座に座り直す。
「さて、我が城に襲いかかって来ていた魔王軍だが、突如として姿を消したのだ」
「それについてだが、勇者殿が魔王を倒したのが原因じゃな」
重戦士の言葉に王様は目を剥く。
「何と!それは一体どういうことだ!?」
「あの影達は魔王が魔力で生み出した物体。使用者が消えたことにより、能力も消え去ったということですね」
「成程...そういうことだったのか...」
神官の説明に王様は納得する。
「此度は本当に助かった。2年前、勇者であるお主を見つけられなかったと思うと、背筋が凍る」
「そんなこと言わないで下さい王様。俺もあの時、王様に助けられて今ここにいるんですから」
「そうか...そう言ってもらえると私も心安まる」
王様は勇者の言葉に胸を撫で下ろす。
「さて、お主達は国を救ってくれた英雄だ!なんでも望みを言うがいい!」
王様の声に真っ先に魔導士が手を挙げて答える。
「はい!なら私は王室図書館にある魔導書を読む権利が欲しいわね!」
「魔導書?そんな物を読むのに権利がいるのかのぅ?」
重戦士の問いに魔導士は呆れ顔で答える。
「バカねぇ?王室図書館の魔導書の中には禁書とも呼ばれる魔導書があるのよ?私は全ての魔法を覚えたい夢があるのよ!」
そんなもんかのぅと重戦士は溜め息を吐く。
「よかろう。本来ならば禁書の存在は使い方によってはとても危険なものになるのだが、お主ならば問題ない。好きにすると良い」
やった!と魔導士は喜ぶ。
「儂はもうこの歳というのもあるでのぅ。生きるのに困らぬ金額をくれればそれでよい」
「うわぁ〜現金」
「やかましいわい」
重戦士は魔導士に言い返す。
「よいよい。お主には望む限りの金をくれてやろう」
「でしたら私は教会を建てて頂きたいです。そこで神のお言葉を皆さんにも知ってもらえるように」
神官は胸の前で祈りを捧げながら王様に答える。
「成程...では早速工事に取り掛かるようにしよう。おい」
王様は側近に声をかけ、教会を建てるように促す。
「アタシは特に何も要らないわ。勇者ちゃん達と旅立てた思い出が、何よりの報酬ね」
「えー勿体ない」
「魔導士ちゃんも大きくなったら分かるわよ。思い出の大切さにね」
野伏はそう言って魔導士のおでこを突く。
魔導士は少し剥れながらおでこをさする。
「むぅ...私としては何か望みを言って欲しいが、本人が望まぬのなら仕方ない」
王様は残念そうに顔を伏せる。
「では勇者よ。お主は何が望みだ?」
「望みか...俺の望みは...」
「本当にこれでいいの?」
魔導士の言葉に勇者は振り返る。
「ああ。俺はこれで満足だ」
勇者が王様に望んだ報酬。
それは、山奥に一軒の家を建ててもらうことだった。
「もっと城の近くに建ててもらえばよかったのに。ここだとご飯なんかも大変じゃない?」
「山を探索すれば果実や山菜もあるし、獣も数多くいる。食うには困らないさ」
ふぅーんと魔導士は答える。
「そういえばさ、私も魔導書を読み終わったら、野伏みたいにまた冒険に出ようと思うけど、勇者も来る?」
魔導士は背を向いたまま、勇者に尋ねる。
魔導士の言葉を聞いた勇者は少し驚いたが、
「嬉しいけど、俺は暫くここで暮らすよ」
とそう答えた。
「......そっか。それじゃあここでお別れだね」
魔導士は振り向いて少し寂しそうな顔をした。
「別に一生別れるわけじゃない。離れ離れになっても、俺たちの心は一緒だ」
「......うん。そうだね」
勇者の言葉に魔導士は少し涙ぐみながら頷いた。
「さてと、それじゃあ勇者!バイバイ!」
魔導士はローブを被って勇者の家の前から離れていく。
「ああ、重戦士や神官にもよろしくな!」
魔導士はニッと笑いながら何やら呪文を唱え、持ってきていた箒に跨り空を飛んでいった。
「あの魔法が魔王討伐中に使えたら楽だったのにな」
勇者は去っていった魔導士を見送り、自分の家の中に入る。
「さて、今日も1日頑張りますか」
勇者はそう言って家の扉を閉めた。
そして、15年後...
「た、大変です王様!」
勢いよく扉を開けた衛兵は息を切らせながら王様に駆け寄る。
「どうした。騒々しい。一体何事だ」
王様は衛兵に顔を上げさせ何事かを尋ねる。
「ま、魔王軍です!城壁の外に、魔王軍を見たという情報が入ってきました!」
「何じゃと!」
衛兵の言葉に王様は玉座から立ち上がる。
「まだ実物を見たわけではないのですが、いかが致しましょうか!?数年前に活躍したとされる勇者様にお声をかけた方が...」
衛兵の言葉に暫く考えた後、王様は玉座に腰を落ち着ける。
「......いや、まだ確実な情報があるわけではあるまい...。それに、魔王を討伐してから既に10数年が経っておる。もうあの勇者に頼ってばかりではいられまい」
「で、では一体...!?」
「......ひとまず様子見じゃ。そして、本当に魔王軍だと分かれば...」
「分かれば...?」
衛兵はゴクリとツバを呑む。
「新たな勇者を見つけるのじゃ!」
そして、新たな物語が始まる......
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