第3話

 お昼前って言われたけどよく分かんないし11時過ぎに階段の下に行ったら、いよさんはまだ来てなかった。よかった。待たせるのは申し訳ないし。そういえば、特に何するとか決めてないな。お昼ご飯も食べたいしショッピングモールとかなら何でもあるし、そうしようか。とりあえず、いよさんの希望を聞こう。食べたいものとか、欲しいものとか、行きたいとことか。なんて思ってたら空色のスニーカーに、薄い緑色のスカートと小さめの手持ちのバッグ。あとなんて言うんだろ、なんかふわふわした服装のいよさんが現れた。とりあえずかわいい。


 「あっ、いよさん。こんにちは」

 「智也くん、こんにちは。ごめん、待った?」

 「ううん。いま来たとこ」こんなベタなやり取りも楽しい。


 結局、いよさんも何でもいいよ、ということだったので数駅先のショッピングモールに行くことにした。あそこなら色んなお店があるから、というと、いよさんは目を輝かせながらどんなお店があるの、と聞いてきた。雑貨屋さんとか洋服屋さんとか本屋さんとかゲームセンターとか。もちろんレストランとかカフェもあるよ、と言うととてもうれしそうで、別に僕がつくったわけじゃないけどすごいうれしい気持ちになった。


 「何駅まで?」

 「えっとねえ、灰谷駅」

 「オッケー」いよさんは小銭のいっぱい入った財布を出しながら物珍しそうに切符を買っている。その様子を見ながらもしや、と思っているとどうやら正解だったようだ。

 「すごーい。電車って速いんだね。景色もきれい」座りながら後ろを向いて喜ぶいよさんを見て、一緒に乗ってて恥ずかしい気もしたけど、楽しそうなのでよかった。聞いてみると、やっぱりあまり電車に乗ったことがないらしい。


 いよさんと一緒だと、何気ない移動もこんなに楽しいんだななんて思っていると駅に到着した。駅から歩きながら何を食べるか相談する。


「なんか食べたいものある?」

「甘いもの食べたいけど、智也くん甘いもの好き?」

「うん。じゃあ、ここ男子一人だったら入りづらかったんだけど、どう?」店内やパンケーキの写真を見せる。

「おいしそう!」

「じゃ、ここにしよっか」

「はい!」


 とこんな感じでこのお店で来たわけだけど正解だった。かわいいパンケーキをおいしそうに食べるいよさんは、パンケーキなんて比べものにならないくらいかわいかった。こっそり写真を撮ったら怒られたけど。消したくないと言ったら交換条件として僕も撮られるはめになった。


 お店を出たあとは適当にウィンドウショッピングをした。いよさんに応援されながら僕がUFOキャッチャーをやったり、いよさんが興味津々だったから恥ずかしいけどプリクラを撮ったりした。本屋に行って新刊をチェックしたり、ついでに文房具を見たりもした。


「ここは何屋さん?なんか色々あってかわいいけど」

「えーっと、いわゆる雑貨屋さんかな。見てみよっか」普段ならあまり入らない種類のお店だけど意外と楽しい。

「何見てるの?」

「これ」手に持ったものを見せてくれる。

「ああ、アロマキャンドルか。いいね、こういうの好き?」

「好きっていうか、なんか親近感っていうか」

「一個買ってみる?」

「でも見てるだけなので」

「じゃあ、僕、買ってみよっかな。でも、どれ買えばいいんだろ」僕たちを見かねたのか、店員さんが初心者におすすめのセットを教えてくれたので、それを買うことにした。キャンドル2つとおしゃれなライターのセットだ。いよさんとの初めてのお出かけの記念が欲しかったから、ちょうどよかった。そのセットの中にいよさんがじっと見ていたライトグリーンのキャンドルも入っていたので、プレゼントした。恐縮しながらもよろこんでくれてうれしかった。


 店員さんにお礼を言って店をあとにすると、もう6時過ぎだった。


「いよさん、門限とかある?僕は、母親が一週間、海外赴任中の父親のとこ行ってるから、問題ないけど」

「私も夜中にお散歩できるくらいゆるいよ。晩ご飯も食べちゃう?」

「うん、いよさんがいいならぜひっ」話し合いの結果、晩ご飯は安くておいしいと評判のイタリアンに決まった。

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