第2話
いよさんとおしゃべりをしている内に頂上にたどり着いた。僕がきょろきょろしていると、いよさんが不思議そうに言った。
「何を探してるの」
「賽銭箱だよ。で、そこにお札が置いてあるって言われなかった?」
「えーっと、賽銭箱ならこの裏だよ」
「そうだったっけ。久しぶりに来たから忘れちゃった」
いよさんに導かれながら木造の建物の裏手に回ると確かに賽銭箱があった。こんなところにあって賽銭は入れてもらえるのだろうか。
「ってことは、お札が、、、あっ、あった」古びた賽銭箱の側面にお札が数枚、無造作に立てかけられていた。
「あった?」
「うん、ありがと、いよさん。僕たち失格になるところだったよ」
「よく分かんないけど、どういたしまして」いよさんがこっちを見て微笑んでいる。建物の周りには街灯がいくつかあるのでさっきよりも顔が鮮明に見えた。小さな顔と大きな目。少し誇らしげな表情がまた、かわいらしい。
「うん、いよさんのおかげだよ。じゃ、あっちの道から下りよっか」
「はいっ」
下りるときもいよさんとおしゃべりをしていると、あっという間に下まで着いた。途中、怖くて中には泣いてしまった人もいたみたいだが、和気藹々とした雰囲気に変わりはなかった。だけど、みんな僕の隣にいるいよさんを見て驚いた。そうなることは予想済みだったから、長い階段を下りながらいよさんから聞いた話を手短にみんなに伝えると、みんな話が掴めて一気に歓迎ムードになった。
まず、いよさんはたまたま、この神社に来ていたらしい。家はこの辺りで最近、引っ越して来たという。道理で、僕も含めて誰も面識がないわけだ。それで夜に散歩でもしようかと思って歩いていたところ、山に入る長い階段があったから上ってみたらしい。そして上っている途中で僕に会った。階段に通じている道はいくつかあるから、下で待ち合わせをしていた僕たちと会わなくても不思議ではない。ということで別に肝試しに参加しにきたわけじゃないから、ルールを知らなかったということみたいだ。だからルール違反とか言ってもピンと来なかったんだな、と僕はいよさんの話を聞きながら納得していた。
こんな感じでみんなで話してるうちに最後の番であった主催者が戻って来た。もしかしたら怖くて引き返した人の分のお札が残っているかもしれないから、その回収という名目でくじとは別に主催者は最後、ということになっていたのだ。多分、お化け役にも撤収を呼びかけながら一周してきたのだろう。
「智也くん、どうしたの?難しい顔して」きれいな顔が僕を上目遣いで見つめてくる。あんな無粋なことを考えているとは言えず、いや何も、というよく分からない返答をしていると、どこからともなく、じゃあお開きにするか、と声が上がった。確かに結構いい時間になったし今回はこれで終わり。楽しかったね。またグループで連絡するかも。解散!主催者がこう言ったのを合図にみんな、ばらばらと帰途に着いた。
「あっ、いよさん。連絡先とか交換しない?」
「えっ」
「あっ嫌だったらいいんだけど」
「嫌じゃないけど私、携帯持ってないの」
「そっか、、、」僕があからさまに落胆しているのを察してか、いよさんが提案してくれた。
「じゃあ、またここで集合して遊びに行こうよ。いつが暇とかある?私、明日っていうか今日も予定ないけど」
「僕も予定ないよ、じゃあそうしよう」
「お昼前に集合でいい?」
「うん!」
「じゃあね」
「あっ、送るよ。夜中だし」
「ありがとう、でもいいよ。本当にすぐ近くだから」
「そう?じゃあ、いいけど。気をつけてね。じゃあ、また」
「ばいばい」いよさんが手を振ってるのがかわいくて、僕はめずらしく手を振り返した。また、いよさんに会えることが楽しみで仕方なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます