夏の終わりのアバンチュール
頭野 融
第1話
まさか高校生にもなって肝試しをするとは思わなかったけど、夏休みで暇だったので参加することにした。いまは日付の変わるころ。幼馴染ばかりなので集合場所は家の近くの山のふもと。一人ずつ山の頂上にある神社の賽銭箱の近くに置いてあるお札をとって戻ってくるという流れは定番とも言える。明るいうちにお札を置いてきてくれたというから、もしかしたらその間にお化け役の下見も行われていたのかもしれない。
まあ、そんな無粋なことを考えるのはやめよう。ちらほらと集まって来た人の中にはなつかしい顔ぶれも多い。特に遠くの高校に行った人とは結構疎遠になってしまっていたし。主催者が到着するまで、街灯の下で他愛もない話をしていた。一通り近況報告も終わったという頃、その主催者が階段を下りてきた。やっぱりお化け役と打ち合わせでもしていたのだろうか。
もう一回、流れをみんなで確認したあと女子から提案があった。一人は心細いから二人ペアをつくってもいいか、という。怖さが半減するという声もあったが、時間も遅いし二人の方が安全なのは確実なので、ペアになりたい人はどうぞ、ということになった。まあ、僕はみんなに
段々と待っている人数も減ってきたというころ自分の番が回って来た。さて階段を上るとしようか。怖いとかお化けとか以前にもしや階段が一番キツいんじゃないだろうか。と、またしても情緒のないことを思いながら歩いていく。ときどき道の脇から出てくるお化けに目をやりながらひたすらに階段を上る。やっぱりしんどい。でも確か、そろそろ頂上のはずだ。最後に参拝に来たのが随分と前だからあんまり覚えてないけれど。月に照らされてても、暗くてあまり見えない上の方を眺めつつ上り続ける。
ふう、疲れた。一旦休憩しよう、そう思って立ち止まり何気なく横を見ると人影らしきものがある。というか人だろう。輪郭が割とはっきりしているから。お化け役、にしては怖くない格好だ。真っ白なワンピースだから暗闇でもよく見える。こんな夜に他の人が参拝に来ているとも思えないから、おそらく肝試しの参加者だろう。人数が多いほど楽しいからということで友達も誘っていいことになっていたから、誰かの友達だろう。そう思って声を掛けてみる。
「こんばんは。一人?」
「え、あ、はい」色白の顔が俯きがちにこちらを窺ってきた。長い黒髪が揺れている。
「じゃあ一緒に上まで行こう。別にルール違反でもないし」
「え、ルール?」
「ああ二人とも一人だからペアになっても構わないってこと。そういえばお名前は」
「名前は、、、——いよ」
「ああ、いよさん。僕は智也。じゃあ頂上までよろしく」
「うん」お互いに名乗ったからなのか、いよさんの声が少し明るくなった気がして僕はうれしくなった。
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