第4話
パスタを食べ終わって店を出ると、
「ねぇ、智也くん、これからどうする?」といよさんから訊かれた。結婚を前提にお付き合い、なんてワードが思いついたけどすぐに思いなおした。
「お店は大体、回ったしね。どうしよっか」
「私、行きたいところがあるの」
「えっ、どこどこ。行けそうだったらそこに行こうよ」ついつい食い気味でこう答えてしまった。
「ありがとう、じゃあ結局、今日の集合場所に戻っちゃうけどいい?」
「うん」
どうやら話を聞いてみると、あの山の上の方にきれいに街を見下ろせる場所があるらしい。いよさんのお気に入りの場所らしく、一緒にそこで夜景が見たいといういう。電車で横に座りながらしゃべる。
「夜景って言ってもさ、そんなにあの街きれいかな。特に高層ビルとか工場があるわけでもないし」
「きれいだよ。智也くんも見たらびっくりするって」いよさんがちょっといじけながら、そう言ってるからきっとそうなんだろう。ちょっと意地悪だったかな。
「でも、よくそんな場所、発見したね」
「でしょ、お散歩してたら見つけたんだよね」
「そっか、楽しみだな」
「うん!」
帰りの電車でもいよさんはすっかり夜の装いとなった外を熱心に眺めていた。それでも一日歩き回って疲れたのか、静かになったなと思ったらいつの間にか寝てたみたいだ。僕の肩に寄りかかって来たので起こさないようにしながら、今日撮ったたくさんの写真を眺めていた。階段のところで待ち合わせのときの写真、歩いてるときの写真、パンケーキの写真とそれを食べてるいよさんの写真。ゲームセンターではじめてのUFOキャッチャーにチャレンジしてるときの写真。キャンドルを熱心に眺めてるときの写真。こんなことをしていると降りる駅のアナウンスが聞こえたので、そっといよさんを起こす。
「いよさん、そろそろ着くよ」
「んっ、智也くん。着くの?私寝てた?」
「うん、ほら着いたよ」
「はーい」まだ眠たげないよさんはぱっと椅子から立ち上がると、僕の右手をつかんでついてきながら電車を降りた。多分、無意識に手をつないでるんだろうけど、いま指摘したら離されそうだったから何も言わなかった。改札を通るときになって、いよさんは気づいたみたいで、こっちまで恥ずかしくなるくらい顔を赤くして照れていた。結局、改札を出たら手をつなぎ直したんだけど。
山のふもとくらいまで戻ってくると、次は僕がいよさんに連れていかれる番になった。まずは肝試しのときと同じく階段を地道に上がる。電車でちょっと寝たからなのか、いよさんは元気溌剌だった。そんないよさんを見て僕も明るい気持ちになった。
「昨日もこの階段、智也くんと一緒に上ったよね」
「うん」でもあの時はまだ、あまりいよさんのこと知らなかったな、そう思いながら口に出さずにいると
「今はあのときとは違うね。今日いっぱいおしゃべりして智也くんのこと色々知れたから」といよさんが言う。
「僕もちょうど、そう思ってた。いよさんのこと知れてうれしい。これから、もっと知りたいな」
「私も!あっ、この辺を左に入るんだよ」
いよさんが急に階段を逸れて山の中に入っていく。足取りに迷いがないから何回もこのルートを通ってるんだろう。
「それで、ここをちょっと左に曲がると段々開けてくるから、、、」ジグザグに山を歩くいよさんに精一杯ついて行く。
「ほらっ、見て智也くん」いよさんの綺麗な目の先には僕たちの街が広がっている。規則正しく並ぶ街灯やオレンジ色の明かりを灯した人家。
「確かにきれい」
「でしょ、それにほら上」今度はつられて上を見る。濃紺の空には小さな星々がきらめいている。
「こんなに星もきれいに見えるんだね」
「うん。智也くんに教えれてよかった」
「ありがとう、いよさん」
僕たちは二人で笑い合っていた。
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