エピローグ
「どうしておらなんだ」
ずっとずっと聞きたかった言葉だ。俺を呼びだした人物とは違うかもしれない。だが不思議と確信があった。初めて会うのにおかしな感じだ。
俺より強い人物など山ほどいる。容姿は下から数えた方が早く、何の取り柄もない。
そんな人物にはすぎた能力で、宝の持ち腐れだ。
もちろん感謝はしている。本来ならなにもできないまま終わっていた一回目。
結果的には失敗に終わったけど、昔のように仲間ができて頼られるようになって、本当はみんなを元の世界に戻したかったけど、俺的にはもう満足だ。
「諦めるの、あなたがいないと誰も幸せにはなれない」
思った以上に幼さが残る声。俺の質問には答えず、俺の心の声に反応した。
「おらにはなにも出来ないだ」
「私が見せる。あなたがいなくなった未来を」
そして運命神が俺の頭に手をかざす。
それは地獄のような光景だった。
俺がいなかったらサヤは次の日死んでいた。
俺がいなかったら、あずさは森の中でいきたえていた。
俺がいなかったら、史香はブラッディベアに殺されていた。
俺がいなかったら、永遠は強い魔物に殺されていた。
俺がいなかったら、真理や野子達は最終決戦で翼に破れ、蹂躙されていた。
そして俺がいなくなった未来。
二回目、俺がいなくなった後、史香は英雄ギルドの手で処刑され、それを知った真理と永遠は、魔王と協力し悪の道に手を染める。国の首都にある英雄ギルド本部を強襲し、やがて、国王を殺害して、暗黒時代に入る。
三回目、村は跡形もなくなくなり、その後ブラッディベアはツヴァイの町を襲撃し、その時に史香
は敵とばかりに奮戦し致命傷を負わせるも絶命する。
後は多少変わるだけで魔王側の勝利に終わる。
四回目、コルナは捕まり処刑され、後は五回目のサヤが言ったとおりの内容だった。
五回目、サヤの存在が喰われ、あっという間に世界そのものが喰われた。
六回目七回目は見れなく、そして八回目。思わず絶句するような内容だ。
言葉にするのもはばかられる内容、尊厳という尊厳が踏みにじられ、地獄のような光景。
「俺にどうしろって言うんだ」
俺の中は能面のように無表情だと思う。
「やっと素の自分を見せてくれた」
俺は自分にかした枷を解いた。東京生まれの東京育ち、訛なんてあるはずがない。しかし俺は訛という仮面をつけた。
誰も俺に期待をしないように。
「どうして自分を偽るの。どうして頭が悪いふりをするの、高校時代まではあんなに」
「お前に何が分かる。ああそうさ、高校まで従姉に慕われ、痩せていて、そこそこもて運動神経も悪くなかった。絶対記憶能力を持ち、学力は常にトップ。親からも期待され、俺も輝かしい未来を夢みてたさ。一流企業で活躍し、綺麗なお嫁さんをもらって、子供も産まれ、人生勝ち組、そんな夢を。だけどそんな夢は幻想だった。あの出来事で全てを失ったんだ」
「後悔してるの」
「いや、何回やり直しても同じ選択をしている。只俺は」
俺は拳を強く握る。
「全ての世界を救ってくれたら、高校時代に戻れると言ったらしてくれますか」
「先ほども言ったが無理だ。仮に翼に勝ったとしても、全部の世界を救うのは無理がある。特に五回目は一体どうやったら倒せるって言うんだ。無理げーだ無理げー」
五年もあって本気になれば翼『ぐらい』には勝てる。しかし、全部の世界を救うとなると
「むっ、仕方ない。本当はやりたくなかったけど、少しだけ未来を見せてあげる」
それはあるかもしれない未来。
森の中で老婆と話し合っている。
「もうここには来るでない。旅立つときじゃ」
場面は変わる。俺は倒れている。皆が俺を囲んでいる。
「死んじゃだめ、生きて」
「死ぬことは許さないよ」
場面は変わる。どこかの王城
「私の騎士になってくれませんか」
場面は変わる。それはとある一室。
「たとえ世界の全てが敵になっても、昔のように味方でいてくれる」
場面が変わる。場面は変わる。場面が・・・・・・。
「どう、未来も捨てたもんじゃないでしょ。ちなみにむふふな展開もあるよ」
「そうだな。もう少しだけ頑張ってみるか」
現金なものだが、ほんの少しだけ、もうちょっとだけ頑張ろうと思った。決してむふふな展開に期待した訳じゃないぞ。
最後まで締まらないのは俺らしいなと苦笑する。
目の前にはコンテニューのボタン。
「ありがとう、運命神」
「運命神じゃなくてフォーチュン、フォーって呼んで」
「改めて、フォー、ありがとな。また会えるかな」
「世界を一つ救う事に会えるよ」
「そうか、じゃあまたな」
俺はボタンを押した。
残されたフォーチュンは後ろを見る。
「あんな奴でほんとにいいのか」
一人が馬鹿にするようにいう。
「私の選んだ使徒達が勝ちますから、誰でも構いません」
「全敗しているのによく言う」
いつの間にかいた二人はいがみ合っていた。
それを無視し、フォーチュンは遠くを見るような眼で思いを馳せる。
「期待してます 。そしてできれば私と」
ひきこもり勇者の英雄談 御影友矢 @konohayamayou
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