思い出

 しばらくして、安定して生活ができるようにまでなっていた。

 村の人たちの手伝いをしてお金をもらって物を買ったりしていた。


 俺たちは、手紙を書いた人たちを探すことにした。


 俺たちが知ってることは、その中の一人の名前だけだった。


『紫樹』


 それがその人の名前。紫音によれば、多分『しき』と読むらしい。



「そんな名前の人、一人や二人、普通にいると思う……探せるの?」

「名前変えてる可能性もあるしな……」


 俺たちは少し考え込んだ。そして最初に口を開いたのは紫音だった。


「これがなんか関係あるのかもね」


 そう言って紫音は腕に付いていた宝石を見せた。これは施設にいるときからずっと付けているものだった。なんで今でも付いているかというと、外れないからだ。


 確かにこれなら『紫樹』さんも付けている可能性が高い。でも、だからと言ってこの宝石つけてる人見たことありますか? なんて聞いて回るのは無謀なことだ。


 そして紫音は行き詰ったのか、宝石に石をぶつけた。すると、その宝石から光が放たれた。


「え……」

「……行ってみよ」


 紫音はそう言った。


 俺は紫音をおんぶしてその光が指す方へ向かった。もちろん木葉留も一緒だ。



 その光を追って、俺たちはとある町に着いた。そして光は、ある家を指した。


 俺たちはその家を見つめていた。



「あの……うちに何か用ですか?」


 誰かに急に話しかけられた。


「え……えっと……」


 その人は紫音の手首を見た。


「そっか。うち入って」


 そしてその人はそう言った。何故だかわからないが、家に入れてもらうことになった。



「紫樹、帰ってきたよ」

「おう……えっと……」

「この子たち、俺たちの見て逃げてきたって」


 俺たちは何も言ってない……紫音の宝石を見たのか……?


「そっか。俺は紫樹しき。こいつは成藍せいらん。よろしくな」

「あ……えっと……俺は、璃杏です。それで、こっちが……」

「木葉留です」

「僕は紫音です」

「そっか」


 紫樹さんはそう言った。


「僕っ娘か……珍しいね」


 成藍さんがそう言った。


「ぼくっこ?」

「一人称が僕の女の子のことだよ」

「へぇ……」


 紫音がそこまで珍しいと感じたことはなかった。


「まあ、とりあえず、上がって」


 言われるがままに家に上がり込み、椅子に座った。


「それで、君たちがここを訪ねて来た理由って?」

「紫樹さんの手紙を見て……それで、逃げてこれたっていうか……」


 紫樹さんの質問に木葉留がそう答えた。


「そっか。でも、後悔とか、してない?」

「え……?」

「俺たちは、逃げてくるときに、仲間を1人失った。それに、調べる過程で、1人失った。たまに後悔するんだ。こんなことしなければ、幸せだったのかなって。知らない方が幸せだったのかもなってさ」


 紫樹さんはそう言った。


「俺たちは、仲間を1人失いました。それで、そのときの説明に納得いかなくて、施設のことを調べ始めた。それで、あの床下の手紙にも気付いた。それで、逃げることを決めた。途中で、紫音は片足を失った。でも、後悔はしてない。俺は、そう思います」


 この世界が案外優しい世界だったこと。星が綺麗だったこと。あのままじゃ気付けなかったことが山ほどある。


「そっか。それなら、よかった」



「あのあと、あの手紙、どうした?」

「あそこにおいて来ました。また誰かの役に立つかもしれないので」

「そっか……でも、どうやって見つけたんだ? 紫樹と同じ能力があったのか?」

「俺が見つけて、璃杏が出しました。能力は、そこでなんとなくわかりました」

「そうか……でも、無事に逃げてきてくれてよかった。ありがとう」



 翠夏が生きていたら……なんて考えるけど、考えていてもしょうがない。俺たちのせいじゃない、と言い聞かせてきた。いつか逃れることもできなくなるかもしれない。でも、それも受け止めて、受け入れないといけない。


 絶対忘れちゃいけない『思い出』だ。

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誰かのために生まれて、誰かのために死ぬ。 月影澪央 @reo_neko

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