詩「むすめ」

有原野分

むすめ

飽き飽きするほどの虫の鳴き声に

私はフラッシュを焚いて思い出を灰にする



 鉄塔を見上げながら

 私の夏は更けていく

 厳重な柵の中にある

 鋼鉄の生温かい塊に

 いつかの親の背中を

 自分と重ねたりして

 秋の夕暮れは一瞬だ

 見失うという概念も

 光の速度が道を逸れ

 そびえ立つ鉄塔の影

 いつか私達は超える

 あなたの影を殺して


          」


隠れるように

悪びれるように手を振った父親の

正面にいた女を見た娘は何も言わず

父親の姿がなくなってから

そっと思い出すように泣いた


鰯雲の下だったと

ぼくは今でも思い出せるのだけど

あれからどうしても

その女性の顔だけは思い出せなくて

だからこの季節になる度に

つい鰯雲から目を逸らしてしまうのです


(飽き飽きするほどの虫の鳴き声に

 私はフラッシュを焚いて思い出を灰にする)


あれから娘の本当の父親からは連絡が絶え

ぼくは娘と今夜も一緒の布団で眠りにつく

娘はもうすぐ

大人になる

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詩「むすめ」 有原野分 @yujiarihara

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