「なにそれ」


「ん」


 彼が煙草擬きを口から離す。


「メモ帳」


「メモ帳」


「おまえとのことが、書いてある」


「私?」


「ずっと逢ってんだろ。俺たち」


「うん」


「でも俺だけ忘れるから、メモしてんの」


「へえ」


「これのおかげで、仕事のスケジュールは忘れるけど、おまえとのことは忘れない」


「仕事のメモしなよ」


「仕事なんて」


 おまえのことにくらべれば。


「なにいってるの。私がいつでも声をかけてあげるから、安心して忘れていいよ」


 あなたに逢えるなら。


「そうか」


「そうよ」


 彼女が、彼のメモを奪う。


「おい」


「どれどれ」


 夜までの距離が、どれだけあっても。

 たぶん、また、出逢う。

 そして、また。いつものように。


「ポエティックだね?」


「歌詞だからな」

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夜までの距離 春嵐 @aiot3110

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