03 end & prologue.

 きれいな女だと思った。

 ダンスバー。タキシードを着た女が、バンドの演奏に合わせて踊っている。素手。振りは大きくない。ステップもほぼ一歩四方のブロック内。とても小さく、控えめな踊り。それでも、心を打つような、何かがあった。

 踊っている女から目を離し、スツールに腰をかけ直す。グラスをテーブルに起き、懐から煙草擬きを出す。


「禁煙です」


 煙草擬きを奪われる。その挙措きょそが、記憶の奥底の何かを刺激した。知っている。

 目の前の女。さっき踊っていた女か。


「そうか。禁煙か。失礼した」


 煙草ではなく煙草擬きだと説明するのも面倒だった。喉に良い、ミント味。火をつけずに吸うタイプ。声が資本なので、いつも携帯している。

 女が、奪った煙草擬きに火をつける。彼女のことを思い出そうと、記憶の奥底の棚をひっかきまわしたが、何も出てこない。


「わっ」


 煙草擬きが派手に燃えた。火をつけると、派手に燃えてなくなる。煙草ではないので、火をつけるとこうなる仕組み。


「禁煙では?」


 女。禁煙だと言って奪った煙草に火をつける。じゃじゃ馬なのかもしれない。笑っているその笑顔も、綺麗だった。




その笑顔を見て。




なぜか分からないけど、安心している自分がいる。

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