ドロドロと重すぎず、爽やかな男女の恋愛を書かれるのが得意な(※人食い調べ)佐倉島さんの作品です。なんというか、結ばれるべくして結ばれる二人というか、温かい気持ちで見守りたくなる男女が描かれるんですよね。
化け猫といえば七代祟る、だが六代目の主人公が末代になりそうなので、化け猫のおタマさまが主人公の恋愛を後押しする……とコンセプトが最高の作品。
ちょっと妖怪などに詳しければ広く知られているだろう化け猫伝説を、このようにコミカルにアレンジするのは座布団一枚!
そして、「本来なら憎々しい関係のはずの祟るものと祟られるものが、なんだかんだ仲良くなる」過程についても、本作はなあなあでは済ませず、「おタマさまはなぜ化け猫になったのか」を踏まえて解き明かしており、丁寧で隙がありません。私は猫大好きなので泣けてきました。
「化け猫なので普通の猫が食べちゃダメなもの(チョコレートなど)もOK」という細やかな設定もニヤリとします。普通の猫ちゃんに西京焼きは塩分過多だろうし。
発想の良さと、それに甘えず丁寧に構成されたストーリー、そして見事な大団円。欲を言えば魚屋の彼をもっと掘り下げたり、他の妖怪も登場してにぎやかな一年を過ごすロングバージョンが読みたくなりました。
ファンタジー作品。といっても現代の日本が舞台で、かなり地に足がついた現実寄りの世界観なのですが、主人公の女性の一族に代々祟りをなす猫神がいて、それがある日忽然と彼女の前に姿を現して……という感じの導入になっています。
先に一言で総括すると、人間の心の機微の深いところに手を触れるような、とても優しい物語でした。猫神様のキャラクター性がとてもよかったです。わずか二万字の物語でここまで二者の関係性や心の絆といったようなものを描き切るのはなまなかのことではありません。
いや、ほんといいですよね。結婚詐欺とか出ては来るけど、暴力とかも出ては来るんだけど、それでもなんていうかこの、優しい世界と優しいキャラクターたちが織り成して作り上げる世界の、本当になんと温かいことか。
掌編には掌編の、二万字スケールの作品には二万字スケールの作品の難しさがありまた面白さというものがあるとわたしは考えるのですが、この作品のすごいところはきっちり二万字スケールで着地する規模感でしっかり物語がまとまっているところだと思います。
主人公伊織の家系は何と、先祖の悪行のおかげで猫に七代末まで祟られるという曰く付き。いきなり婚約者に結婚資金を持ち逃げされた彼女の前に突然現れたのは、その祟り神の猫、おタマ様……⁉︎
毎度毎度騙されてしまう男を見る目のない伊織は、それでもやたらと素直でおタマ様のいうこともホイホイ聞いてしまう何とも憎めないキャラクター。そこにぽんぽん言いたいことを言いながらも、何だかんだ世話焼きなおタマ様との会話に頬が緩みっぱなしです。
ところが、おタマ様が「七代祟る」ことになった本当の理由を知った時、思わず涙が……。
一筋縄ではいかない祟り神さまと祟られる子孫の、笑って泣ける、ほのぼのもののけ話。とってもおすすめです!