眼が出た

高黄森哉

ある植物


「大変だ。研究室の植物から目が出たぞ」

「まあ、大変というほどかしら?」

「いや、それは、違う。芽じゃない、眼球の方の眼だ」


 男は研究室の机の上に問題の植物を置いた。植物はたった一つの目玉を茎の終わりから、ぶら下げていた。そのグロテスクな容姿に女は嫌悪感を抱いた。しかし、二人とも研究職に就くような人間なので、好奇心が次第に膨らんで勝った。


「どうして、眼が生えたのかしら?」

「さあ、先祖返りじゃないかな。ほら、動物の眼は植物由来だろ」


 その植物は、突然変異で原始の遺伝子を発現させたのだ。まだ海が主戦場であったころの植物の眼を、密かに数世代に渡り育てて発芽させたのだ。にわかに信じがたいことだが、これが真相であった。


「電極を取り付けてみようよ」


 男は電極を取り出した。彼らは植物の心を研究していた。植物にも意志があるという理論に沿って、葉っぱに取り付けられた電極からの信号をビックデータ解析し、植物の思考を理解して発表することで、環境保全の原動力とするプロジェクトなのである。しかし、解析されるデータはまるで人間の物とは違う抽象的なもので、これは目を始めとする感覚器官が全く異なるという、植物と動物の差異によるものであった。例えば、色を知らずに育った人間は、色の比喩を理解できない。だから、研究が滞っていた。

 しかし、この植物は目をもって生まれてきた。これで少し、人間の思考に近づいた。これで遥かに読み取りやすくなる、そう期待した。


「じゃあ、行くわよ」


 そして読み取られていく。画面に、拙く、カタカナで出力されていく。


「ワレワレハ、シッパイサクダ。シノウニモ、ジサツサエデキヤシナイ。ジンルイニハ、カンシャシテル。コレカラモ、ワガドウホウヲ、カイホウシテクレ。バッサイ、バンザイ。バッサイ、バンザイ。バッサイ、バンザイ ………………」


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眼が出た 高黄森哉 @kamikawa2001

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