CRoSs☤MiND ~ 終焉の怨舞曲 ~ 第 五 部 完結編

DAN

前   章 閉ざされた聖櫃、開く時

第一話 打ち消してやりたい事実

 俺、八神慎治は二〇一一年の十一月のステーツからの帰国後、貴斗達の一連の死がある物事に深く関係しているのだと知った。その解決の糸口を模索する為に、今、一番信頼している神無月先輩に協力を仰いでいた。先輩は俺のお願いを最優先事項で行動してくれるとありがたい言葉を呉れるけど、時間もかかるし、簡単に済みそうにないって言っていたな。その間に俺に出来る事もあるだろうと思って色々と思案していた。

 そして、そんな思いにふけている時に一つ気がかりに思える事があったんだ。それは藤宮の事。俺の親友が愛してやまなかった彼女が本当に彼女の親友である涼崎の命を奪ったのだろうか?俺はとてもそうには思えなかった。

 もういない親友の貴斗の彼女へ、藤宮へ俺が出来る事を考えた。

 それは疑いの晴れぬまま死を迎えた彼女のそれを拭い、彼女のそれまで歩んできた名誉を守ってやる事。

 俺が人である以上、過去に戻る事が出来ないから当時の彼女の行動を追う事は出来ない。でも、その後からのうのうと生きてきた奴に事実を問い質すのは出来る。だから、今一度、彼奴に三津ノ杜諒に会う事にした。


二〇一一年十一月十二日、土曜日

 俺は前回の事を踏まえて、そいつが働いている場所で会う事を避け、そいつの帰宅途中を狙っていた。東京住まいの三津ノ杜は電車での通勤でその間の路上で幾らでも待ち伏せ出来た。先ずはそいつが働く警察病院の前で待ち伏せ、後を追い、人通りが少なくなったところで接触した。

「ひさしぶりですね、三津ノ杜先輩、って言っても先月ぶりだけどな」

 俺の姿を見たその先輩は怯える様に身を竦めさせていた。

「まっ、また君か、こっ、今度はいったいなななな何なんだ」

「そう怯えなさんなってぇの、先輩。ただ、本当の事を知りたいだけさ。チャンと答えを教えてくれたら何もしないって。まあ、言葉の裏を返せば、嘘は許されないって事になりますがね」

 俺はそう言って、前回のこの男にあった時に聞いた不正使用した薬品類が本当にその薬品だったかどうかを問い詰めていた。怯えながら答えを呉れるその先輩はあっさりと事の真相を告げてくれる。

「僕の言う事を信じるのか?」

「あんたが、今俺に嘘を吐く理由はどこにもないだろう。嘘を吐く方が三津ノ杜先輩にはデメリットが多すぎるだろう?まっ、後でこの話が本当に嘘だったら先輩は身の破滅を招くだけさ・・・」

 そいつは俺の言葉を聞いて震えを大きくさせ、顔を青くさせた。

「聞く事聞いたし、俺はもう行くぜ。もう二度と会う事もないだろうけど、三津ノ杜さんの今後の人生にグッド・ラック」と言った後、演技で俺は嘲笑するように笑って見せた。

 三津ノ杜諒から俺の求めていた答えを聞き出す事が出来た。予想通り、その先輩は藤宮に渡した物品類が本当はどんなものなのか知らなかったようだ。先輩の裏に居る誰かの命令に従って行動しただけだってな。後は、愁先生に会って、俺の結論の補完をする。

 しかし、数日後、俺の嫌いなその先輩は俺が去り際に告げた言葉とは裏腹に交通事故でこの世を去ったのを知る事はない。

 今日の愁先生は仕事休みの日だった。休暇の日、魚釣りに出る事が多くて自宅に居ることの少ない先生だから、電話を入れて今どこに居るのか確認を取ってから会いに行く。で、今日は家に居るみたいだったので、東京から三戸へ急いで帰省した。

 先生の家に招き入れられた俺へ、

「慎治君、今日はどういった要件で、私の処へ?」

「愁先生っ!確認してもらいたい事が」

「慎治君、いったでしょう?私と貴方はこれから、義兄弟になるのです。先生と呼ばれるのは嬉しくありませんね。フぅッ、私の事を信頼して下さるのなら敬語である必要はありませんが兄さんとか呼んでもらいたいものなのですが・・・」

「なら、前の様に愁義兄貴、でいいよな?なんだかんだで、母さんみたいな事言って」

 俺が愁先生を兄貴と呼ぶと少しはにかむように嬉しそうな顔をした。そんなに嬉しいんかね、兄貴って呼ばれるの?まあ、先生が喜んでくれるなら、いっかな。

「当然、皇女お義母様は私の尊敬すべき方ですからね・・・、で」

「義兄貴に是非、調べてもらいたい事があるんだけど」

 俺の言葉に愁先生の顔が曇り、

「慎治君に危害が及ぶ事でないのでしょうね?」

「それはないってきっぱり言える。それに今からお願いする事は愁せぇえ、義兄貴しか、調べられない事なんだ」

「・・・、私の事を淀みなく兄さんと呼んでいただけるにはまだ時間がかかりそうですね・・・。私でしか調べられない事ですか・・・」

 懐疑的な表情を崩し、俺の話しを聞いてくれる態勢になった先生へ、藤宮の行動と、涼崎が本当に死んでしまった時間が一致するのか調べてもらいたいと話す。

 俺の考えでは藤宮が涼崎へ使った物は人を殺すためのものではなく、仮死状態みたいな感じにする道具だったと推測し、涼崎が病院に運ばれた時、本当は息が在って、先生が調べている間、何者かによって本当に亡き者にされたんじゃないか、って思った事を語った。

 先生の顔が次第に厳しくなり、

「慎治君、病院へ行きましょう。確かに当時、藤原君から涼崎君の死亡鑑定を頼まれましたが、その時の検診資料が残っています。その頃、私の知らなかった知識の結果が残っているかもしれません。直ぐに着替えますから、駐車場で待っていてください」

 言われて、俺は先に先生のマンションから出て地下駐車場で待っていた。病院までは先生の車HONDA‐NSYで急行した。

「おうっ、愁じゃないか、今日非番だろう?どうしたんだ?」

「直行ですか?ちょっと私用で顔を出しただけですよ。今、佐京はどうしています?」

「志波先生の執刀助手でオペ中だ」

「そうですか」

 別院直行先生の返答を耳にした愁先生は幽かに安どした表情を浮かべ、資料室へ俺を伴って向かう。

 先生は整理された書棚とは別の鍵の掛かっていて、更に隠し扉のある本棚からファイル・バインダーを取り出して広げた。

 真剣に試料を見直している先生を何も手伝えない事を知っていたから黙って待つ。

 先生は髪を指で絡めたり、部屋を往復したりし、眉を顰め読み続け、壁際に立った時に突如、渾身の一撃で、壁を叩いていた。そして、先生は何かを見つけ出した。それはSlip-interval、涼崎が本当は何時その命の灯火を消されたのか、忘却されし時間の謎を解く鍵を探り当てた様だった。

 更に俺は今まで一度も見た事のない愁先生の激怒した顔を見てしまった。それが何に対しての怒りなのか、先生の口から洩れる。

「私とした事がっ、何と云う失態をしてしまったのだ。気付いていれば、知っていれば、みすみす、涼崎さんを死なせる事もなかったのに・・・。彼女の死が藤原君の心に与えたダメージは大きい。若しそれが原因で、彼の心臓に異常をきたしたのなら、彼の死も私のせいだったという事ですかっ!」

「何を言ってるんすか、愁義兄貴。貴斗達の死に先生は関係ないっすよ、絶対に」

「しかし、涼崎さんを死なせてしまったのは明らかに私のミスです。その事実は覆せません。慎治君が私に言ってくれたように涼崎さんは当時、藤原君によって運ばれて来た時はまだ息があったのですよ?私はそれを亡くなられたと思っていた所為で、検死をしていた時、気付いてあげられなかった。私が彼女のそばを離れなかったら・・・。科捜研へ私が行っている間に何方かが彼女へ接触し、彼女を殺害したのは間違いないようです」

 そう言ってからまた先生は顔を片手で隠しながら、拳を壁に討ち当てていた。それは己が犯したと思っている罪を悔いる風に俺には映る。しかし、先生が悪い訳じゃない。先生が貴斗を殺したんじゃない。もう過ぎ去って、変えられない事実だって判っちゃいるけど貴斗や藤宮を殺してしまったのは俺なんだ。誰かが仕掛けた事だとしても、あの時、俺が間違った行動をしなければ、二人は死なずに済んだんだ・・・。

「でも、愁兄貴、どうして、涼崎が生きていたってわかるんだ?」

 二枚目な顔を戒めで崩している先生へ、先生が話して呉れた理由の回答を求めた。それは俺の記憶喪失の覚醒や涼崎翠ちゃんや結城弥生ちゃんの昏睡からの目覚めにも関係している事だった。ここにきて、俺の記憶喪失や彼女等の長く続いた昏睡状態が人為的な物で在り、その原因がアダムと言う研究から生み出された技術の一つで、それが涼崎姉、彼女にも使用されていた形跡があった、と言う。当時、愁先生はその事を知らなかった為に見過ごしてしまっていたが、今は違う。もう過去の事でどうしようもないのに、愁先生は涼崎を助けられなかった事に、後に続いてしまったあいつ等を救えなかった事に、心を痛めている。立派に医者をしている愁先生にそんな思いをさせてしまった事、俺事に巻きこんじまって、俺自身、先生に恐縮してしまう。

「愁義兄貴、そんな顔したら男前が台無しだな。せぅん・・・、義兄貴が思う事は同じだって一緒さ。俺だって、あの時、貴斗達のそばに居たら助ける事が出来たかも知れないんだ。もっと、隼瀬の処へ駆けつけていたら・・・、でも、もうそれは変えられない。後悔しても無駄なだけ・・・、悔い改めても誰も還ってこない。だから、今、あいつ等に俺が出来る事を探さなきゃならないのさ・・・」

 俺は自身で行った言葉に自嘲してしまうが、直ぐに表情を改め、明るく笑って見せた。

「慎治君・・・、ふっ、そうですね。義弟の言うとおりですね。私も何か出来る事を考えましょう」

「愁先生がそんなことする必要ないっすよ。先生はもう医者として立派に人助けしているんだから、ここは俺の領分。それだけは侵してもらいたくない、仮令、俺の義兄貴になる先生でも」

「判りました。しかし、これだけはお願いします。危険な事はしないでください。そして、私に出来る事があるならば、遠慮しないでも頂きたい」

「判ってるよ、愁義兄貴」

 俺の返答にまた嬉しそうに愁先生は小さく笑っていた。確かに藤宮は涼崎に手を掛けた事は覆せないが、彼女が親友である彼女を本当に死へと誘う危害を加えた事実は消し去ってあげられそうだ。後はこれら一連の事件の黒幕を見つけ出し俺の考えと一致した答えを聞き出して事実の確証を得ればいい。藤宮に関してアダムとは全く関係ない処で起きてしまった可能性を否定できる材料もないけど、今は自分を信じたい・・・。

 解決できればあの世にまで持ち込んでしまったであろう藤宮の心痛を払ってやれそうだ。俺の予想が当たったら貴斗、俺に大いに感謝しろな、フッ。

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