第6話 〔ビーム〕

 ♪歩く時は私の半歩はんぽ前を歩きなさい♪




「……あ。いちごちゃんの声が聞こえる」



 きらりの母・夕顔ゆうがは、町の広場の方から聞こえる歌声に耳をかたむけた。



「ホントじゃ! いちごちゃんの声じゃ!!」

可愛かわいい歌声ですね。おじいさん」

「普通の会話より、歌声のほうがなめらかだな」




 ♪私はその方が手をつなぎやすいのよ〜♪




 〔いちごちゃん〕を追いかけていたきらりも、その声に気付いた。

 きらりは、家と【ベヒモス】の中間地点の作物さくもつかげから、空にのびていくいくつもの光を見て、目をかがかせた。




 ♪ケーキの苺はすべて私によこしなさい♪



 

『オオキナ イチゴ!!』



 町は【ベヒモス】のせいで、作物さくもつだらけ。

 照明しょうめいで魔法陣がけないから、作物さくもつの上に“大きな食べ物”をうつし出すことにした。ちょうど歌詞に〔苺〕が出てきたので、それに合わせて〔大きな苺〕を。


 作物さくもつの上に光をあてるので、ボコボコしていて、それがまた照明で映した〔大きな苺〕を本物らしく見せた。



 ドスン! ドスン! ドスン!



 【ベヒモス】が〔大きな苺〕に近付くと、〔大きな苺〕は少し離れた所に移動した。



 ドスン! ドスン!



【ベヒモス】が移動すると、また〔大きな苺〕は移動する。



『オオキナ イチゴ! オオキナ イチゴ!!』




 ♪本当は苺が苦手なの知ってるわ〜♪




 照明でうつされた〔大きな苺〕を追いかけているうちに、【ベヒモス】は特設ステージの下まで来た。



(問題ハ、ココカラ)



 ステージの上にどうやって引っり上げるか。

 これが問題だった。

【ベヒモス】はとても重そうだった。



「すご〜い! いちごちゃん!!

 うたいながら おどれるのね!

 がんばって そいつを おいかえして〜!!」


「!?

 マスター! 危険デス!! 逃ゲテクダサイ!!」



 〔いちごちゃん〕は、突然とつぜんあらわれたきらりが心配になった。



『!! コレハ、罠!!』



 【ベヒモス】はきらりの声を聞いて、〔いちごちゃん〕の仕掛しかけたわなに気付いてしまった。

 【ベヒモス】は、声が聞こえた方に体を動かそうとした。



(マスターガ、危ナイ!!)



 【ベヒモス】が自分の方を向くので、きらりの表情が恐怖に変わっていった。




 ――――お前は人を笑顔にするために……



 博士の言葉が、〔いちごちゃん〕の脳裏のうりよぎる。



(イケナイ! マスターノ笑顔ガ、消エテシマウ)



 その時、〔いちごちゃん〕の目がうっすらと光った――。

 それを見たきらりは、みるみる目を輝かせていった。



「もしかして、もしかして! いちごちゃん!!」




 ♪ダダダダダダダダダダダダダ〜♪




(マスター。

 私ニハ、目カラ〔ビーム〕ハ出セマセン。デモ!)



 〔いちごちゃん〕は高く高く飛び上がった。

 同時にステージ前の噴水ふんすいの水も、高く高く上がった。




 ♪あなたへと

 ♪Love Love Love Beam!♪




 “Beam”の歌詞の所で、目をうっすらと光らせたまま、〔いちごちゃん〕は左回りに体を回転させた。

 それとほぼ同時に、細い光の線が2本「ビ――!」っと【ベヒモス】に飛んでいった。



『痛ッ!!』 



 【ベヒモス】が悲鳴を上げる。




 ♪私をもっと好きになれば良いのに♪




 〔いちごちゃん〕は左回りに回転しながら、ステージ下に着地ちゃくち

 すかさず【ベヒモス】の両手をにぎり、少しだけステージの方にクルッと移動させた。




 ♪苺くれたら、かわりに唐揚からあげあげるから♪




 ザァァァァァァァァァァァ!!!!!




 左右の噴水の水が、すべて【ベヒモス】にぶつけられた。

 さらに目にはレーザーライトをあてられ【ベヒモス】は〔視力〕をうしなった。



『目ガ! 見エナイ!!』



 よろめく【ベヒモス】を〔いちごちゃん〕は、そっと後ろに引っった。

 尻餅しりもちを着いたとたん、地面から紫の光があふれ出す。


 

『魔法陣ハ、コノ台ノ上ダッタノニ……』

『私ハ、歌ッテ踊ッテイル間二、魔法陣ガ書イテアル床ヲ、足デガシマシタ。

 ソレヲ、アナタノ オシリニ ヒイタ』



 こうして【ベヒモス】は、もといた世界へと帰っていった。









 次の日。



「いちごちゃん!

 めからビームがでて、すごかった!」



 きらりはとても嬉しそうに家族に語った。



「でもね。

 めからビームは、だしちゃダメよ?」

「!?」

「なにかこわしちゃったら

 ママにおこられるでしょ?」

「…………ワカリマシタ」



 あんなに「目からビームを!」といっていたのに、「目からビームはダメ」といわれ、〔いちごちゃん〕は少し混乱こんらんした。

 すると、きらりの祖父が言った。



「はっはっは! いちごちゃん。

 本当に〔目からビーム〕を出さなくてもいいんじゃ。 『ビーム!』って言うだけでえぇのよ」

「そうですね。おじいさん。

 こどもは〔ごっこ遊び〕が好きですからね」






 後片付あとかたづけは大変だったものの、10万人コンサートはなんとか無事に終わった。

 でも、問題が一つ。



「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁあ!」

「すみません。リアルタイムでの照明の制御と、空を飛んだり、ステージの床を壊すのにエネルギーを使いました」




 電気代が40万円かかった。







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〔ボーカル・アンドロイド〕デスガ、頑張ッテ目カラ〔ビーム〕ヲ出シタイデス 葉桜 笛 @hazakura-fue

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