ヘビーポッパー
ナナノマエ・ミツル
静かな渋谷、闇夜の摩天楼
●SU●AYAにレンタルDVD返しに行った帰りだった。
あぁ焼肉食いてぇ。
私の体は今、人間の血より焼肉を欲している。
でもお金ない。
ゲーム機だって本当は買いたい。
もうDVD借りるのやめてお金コツコツ貯めようかな。
貧乏吸血鬼の悲しい
とりあえず朝焼けまでにスーパーで買い物するため何も買わないことを誓おう。
この世の中、いつ何時に備えて、節約しておかないと命はない。
思い起こせば5年前。
●ヴァンゲリ●ンに乗れそうな年頃だった。
朝気が付いたら頭の上に天使の輪っかみたいなのが浮かんでいた。
そして思った。
何コレと。
輪っかの色はライトグリーン。
私が何の前触れもなく、人間でなくなった瞬間だった。
悲しいことに。
そしてニュースは告げた。
頭部に輪っかが浮かんでる皆様、太陽の光浴び続けると死にます・・・と。
Oh,No! Oh my God!・・・と思った。
なんでなん?・・・とも思った。
私何も悪いことしてないよ。
いやあれか、昨日夜中にコッソリアイス食べたからか。
不健康児に夜中食べられるアイスの気持ちになれと、そうおっしゃるのですか神様。
いや確かに不健康なことはしたわさ。
でも罰きつ過ぎるでしょ明らかに。
アイスの気持ちは分かったよ。
でも神様にアイスにされた人間の気持ちにもなって神様。
そして貴様もアイスなれや。
今思い出せば、あの頃めちゃめちゃイライラしてた。
過去最高イライラしてた。
それから5年。
まぁ吸血鬼生活にも慣れてきた。
そして今年から一人暮らし吸血鬼生活を始め、今では一人のフリーター吸血鬼。
あぁ、焼肉食いてぇ。
バイトの先輩に今度連れてってもらうか、焼肉。
日本刀ぶら下げながら面接受けてOKしてくれた優しいバイト先だ。
多分連れってくれる。
・・・・・多分。
・・・・・。
それにしても静かだ。
今日どうしたのだろうか。
いつもこの時間帯元気でポップな渋谷がいつもの景観残して人っ子一人いない。
渋谷はカラフルな街だ。
いつもは賑わいで溢れてるのに。
吸血鬼も、残った人間も。
しばらく歩いて、スクランブル交差点にたどり着く。
ビルのスクリーンに映し出されていたのは、オレンジ色と紫色の波が作り出す幻想的な光景。
人っ子一人いない空っぽなスクランブル交差点で、ただ一人芸術作品を見せられている自分。
色は決して混ざり合うことはなく、融合を果たすかと思いきや、色同士はお互いを突き放し、オフホワイトの余白が見える。
全く・・・いつからスクランブル交差点はCG芸術博覧会と化したのやら。
ずっと見続ければ絶対に飽きてくるだろう。
こんなにがらんとした・・・悲しい光景はない。
皆何処へ行ったのか。
・・・・・混ざらない。
色と色は・・・・・混ざらない。
・・・・・ふと、後ろから微かに音が聞こえる。
足音。
空っぽの渋谷に、私以外の足音。
スクリーンから目を離し、ゆっくりと後ろを振り返る。
足音の方向には、異様な姿をした女の人が歩いていた。
全身ゴスロリファッション。
そんなのはこの街じゃ普通だ。
だが、両手に握ってるものが異様過ぎた。
馬鹿でかい銃。
この国であんな物騒なものを見ることになるとは・・・。
あれはどう見ても偽物じゃぁない。
あの異様っぷりはきっといつもの渋谷でも一際目立つだろう。
まぁ、四六時中腰に日本刀引っ提げてる私も見ようによっては異様の部類に入るか。
それでもこのまま帰宅する訳にはいかない気がした。
とりあえずコンタクトをとることにした。
「失礼・・・あの、その銃イカしてるけど何処の通販サイトで買ったの?
型番教えてくれない?家で飾りたいからさ。」
なんだろう、ハリウッド映画みたいなノリで話しかけちゃった。
なんだろう、私ナンパみたい?
「・・・・・・。」
女の人は笑みを残しながらため息をつく。
なんだコンニャロウ。
女の人は口を開く。
「失礼、大変愉快な方だと思いまして。」
「私からしてみればアンタの方が愉快な格好してる気がしてますがね。何ですか?B級映画の撮影でもしてるんですか?」
「生憎、映画を撮るだけのお金など持ち合わせていませんよ。渋谷を貸し切りに出来るようなお金はね?」
「じゃあ何ですか。渋谷区民は私達以外宇宙人にでも誘拐されたんですか?」
「そんな映画も面白そうですね。でも残念ながら、私は渋谷区民ではありません。」
「だと思った。そんな格好拝めんのは、精々コミケぐらいだよな。
で、結局どうなんだ?一体何が起きたら渋谷がこんなにガランとしちまうんだ。
静かすぎて落ち着かねーよ。」
「うーん・・・そうですね。」
どう説明したらいいか・・・てな感じで言葉を探し始めたこの人。
そしてようやく見つかったのか口に出し始めた。
「映画というよりかは・・・サバイバルアクションゲーム・・・ですね。」
「はい?」
途端、後方から爆発音が響いた。
不自然な爆発。
作り物の爆発。
そこに確かに炎は燃えているはずなのに、ただ定位置に配置されただけ・・・と言わんばかりに、周りの風景に何一つ影響を及ぼすことなく、ただそこで燃えていた。
何が起こったんだ?
女の人は言う。
「次のステージが始まりました。巻き込まれたくなければ、今すぐダッシュでここから逃げてください。生憎、ゲームといえど命懸けですからね。吸血鬼さんも、まだ始まったばかりの人生を、無駄にしたくはないでしょう?」
「・・・・・・。」
女の人の頭上に
吸血鬼だらけの世界に残された、少数の人間という種族。
両手が握る鉄の塊で、この人は一体何をする気なのか。
・・・・・。
嫌な音がする。
ノイズ。
スクランブル交差点の中心に向け、あらゆる方向から一定数、何か不気味なものが群を成してこちらに近づいてくる。
異形の群れ。
異形の口から漏れ出るノイズ。
残念ながら・・・汚いノイズには乗れないな・・・。
私は冗談交じりに言う。
「吸血鬼バーサス謎のバケモノ?売れる要素ゼロだねこりゃ。」
・・・と、背後から聞こえる銃声。
恐らくは、先ほどの人間が銃の連射を始めたのだろう。
死にたくなけりゃ逃げろ・・・と。
随分強気な発言じゃないの。
私は人間に命の心配されるほど落ちぶれちゃいないつもりでいる。
異形の群れは私に迫る。
皆理性のないバケモノのようだった。
仕組まれたように・・・ただ攻撃することしか能のないエネミー。
私にはただ並べられただけの物体にしか見えない。
無音。
私は鞘から刀を抜き始める。
抜刀しながら敵を刻むヤツ。
居合切りって奴だ。
ただ横一直線に・・・スピードを落とさず、エネミーの体躯に刃を叩き込む。
奴らはたちまち崩壊を始め、鮮やかに散っていった。
まるでゲームのドット。
・・・そうか、コイツはゲームなのか。
「中々の腕前で。」
背後から人間の声が聞こえる。
私は答える。
「まぁね、腰の刀は飾りじゃないよ。」
無音が漂う。
音のないゲームか・・・。
私は言う。
「なぁ、コイツぁゲームなんだろう?ただエネミー倒すだけのシンプルゲーなのに音楽がないのはつまんねぇな。無音はつれぇよ。ミュートで音ゲーやってる気分だ。
ゲームってのは五感で感じて遊ぶもんだと私は思ってる。
つまり・・・なんだ?銃の音だけでホントにノレてんのアンタ。」
「やはり変わってますね。命を賭けたゲームでもBGMを欲するなんて。」
「音楽がねぇと死ぬ。ノリは命さ。」
「フフ・・・興味深い。そういえば、アナタの名前は?」
「私か?私は
「私の名前は黒崎アリスです。ここで会えたのも何かのご縁、以後お見知りおきを。」
「もしかして不思議の国出身だったりする?」
「だとしたら相当物騒な場所になりますね。」
アリスは苦笑した。
私は聞く。
「で?このゲーム、いつ終わる?」
「朝までには終わるといいですね。」
「灰になっちゃうよ。一生中断出来ないゲームはご免だ。」
「やはり・・・ゲームは適度にするのが一番ですね。」
・・・と、アリスの皮肉。
私はポケットに手を伸ばす。
中からイヤホンを取り出し、耳に付けた。
スマホのプレイリストを開く。曲はランダム再生。
音楽を流した。
静寂はぶち壊され、セカイが始まる。
私は無我夢中でエネミーの元へ走る。
音楽をカラダ全体で感じた。
エネミーの動きが止まって見えた。
隙なんてもんじゃない。ガラ空きだ。
何体倒せばゲームクリアなんだ?
聴きたい曲が枯渇しないか心配だ。
ビルのスクリーンはまたもや波を映し出していた。
背景で十分なんだよ。
私の胸に高鳴る高揚感。
飛び散るドット。
エネミーはでたらめに散っていく。
作り物・・・虚構・・・。
・・・・なんだっていいさ。
ゴールが見えるまで斬ってノって斬りまくるだけだ。
プレイリストがそろそろ終盤に差し掛かる。
「遊音さん、そろそろ敵数も少なくなってきましたね。」
そっちも終盤って訳か。
斬ってばかりで見てなかったけど、アリスの銃が放つ弾丸は以外にも美しく見えた。
弾丸がエネミーに当たるまでの0.何秒当たりだろうか。
連続して飛んでいく。
その様はまるで音ゲーのブロックのようだった。
凄まじいコンボだった。
プレイリストはラスト一曲。
ゲームは必ず終わる。
仮に終わらなかったとしても一度は区切りがつくさ。
エネミーもラスト一体。
曲が終わるまで3秒前。
3・・・・2・・・・1ッ!!
「ッッ。」
・・・消滅した。
刀を鞘に納める。
ふと、私のライフゲージが30%程減少していたことに気づいた。
命は有限。
ゲームが終わった後の為にも、ちゃんと大事にしないといけない。
コンテニューなど存在しない。
私はアリスに聞く。
「次のゲームはいつだ?」
「さぁ、分かりません。でも今晩はもうないと思いますが。」
「そうかい、安心した。久しぶりに体動かしてちょっと疲れた。帰らせてもらう。」
「えぇ、また会いましょう遊音小波さん。」
黒崎アリスと別れを告げる。
私はアリスと反対方向の道へ向かった。
家に帰ろう。
私がビル群に背を向けた瞬間、渋谷の明かりは一瞬のうちにしてブラックアウトした。
残ったのは静寂と暗闇だけだった。
ヘビーポッパー ナナノマエ・ミツル @super-jiro777
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