夏の朝、巫女の君と出会う

楓華

散歩の先で

「ま、また、来てくださいね!」


 俺はたまたま通りがかった神社にいた巫女さんが顔を少し赤くしながらそう言ってくる。


 その赤くなっているのは俺が原因なのだが……


 忘れてくれねぇかなぁ。


 ―――――――――――――


 暑苦しい夏休みの朝。俺はベッドから起き上がり制服に着替えようとしたが手が止まる。


 昨日から夏休みなんだった……


 今日はどうしよっかな~


 夏休みの宿題なんかもあった気がするけどやる気でないし。


 というか目が覚めねぇぇ。


 昨日の夜、学校が休みだってはしゃいで夜中までみんなでゲームしてたもんな~。


 ちょっと散歩してくるかぁ。


 制服をハンガーにかけなおし、動きやすいジャージに着替え、部屋から出てリビングへと向かう。机の上に書置きとお金が置いてあった。まぁ、学生は休みでも大人は普通の平日だしな。


 それは今日の昼ごはんは作る余裕がなかったからこのお金で好きなものでも食べなさいというものだった。


 今日は勉強しろって言ってくる親もいないってことだ。よっしゃ。


 俺のことを心配していってるのか自分の期待を押し付けてきているのかわからないからこそ反発してしまう。


 勉強自体は嫌じゃないんだけどさ。


 ま、今日はそんなことどうでもいいや。


 今年引っ越してきて新しい学校に来てからずっと忙しくて、この街をゆっくり見回ることもできなかった。一日時間とれるし散歩しながら体動かそっと。


 俺は書置きをゴミ箱に投げ入れた後、お金をチャックのついた胸ポケットに入れ外へと出る。


 外は日差しが結構強くて咄嗟に額に手を翳してしまう。


 まだ朝だというのに今でこれなら昼なんてどうなるんだろうか。


 ごはん食ったら家で冷房かけながらだらだらしよ。


 体動かしとかないとなまっちゃうし朝の散歩はやめられないけど。


 町の風景を見渡しながら俺はいつも行く学校とは正反対の方向へと歩き始める。


 三十分ほど歩いただろうか。その程度しか歩いていないというのに俺は来たこともないところまで来てしまった。まぁ、ほとんど道なりに来たしくるっと反転して帰れば迷うこともないだろう。


 そう考え俺は道なりに歩いていた。


 するとちょっとした小道の奥に鳥居があることに気付く。


 神社かぁ。初詣以来行ってないなぁ。一緒に遊びに行った奴らは元気にしてるんだろうか。いや、そんなことはどうでもいっか。


 俺は引き寄せられるようにその神社の中へと入りこむ。


 確か鳥居とか神社の道の真ん中は神様が通る道だから端を通るんだったか?


 ギャルゲーでそんなことを主人公が言っていたのを思い出しながら中へ中へと入る。


 神社は大きな木に囲まれていて日影が多く先ほどまでと比べ涼しく感じた。


 奥のほうには賽銭箱がある大きな建物があった。


 そしてその手前には木漏れ日の中で竹箒を持った巫女がいた。


 その木漏れ日も相まってとても神聖なものに見え思わず見とれてしまう。


 足も止めてじっと見つめてしまっていた。


「あ、あの何か御用でしょうか?」


 そう声をかけられて俺はハッと目を覚ます。ずっと見て他の気づいてたのかな。


 うわ、恥ずかし。やば顔赤くないかな。


 俺はその時、恥ずかしすぎてこんなことを言ったのも仕方ないのだろう。いや、仕方なくはないのだが。


「い、いや、めっちゃ綺麗だなって」


 俺は口に出してからやっちまったと気づく。


「あ、ちょっ。な、なかったことに……」


 俺がそういうと巫女さんは見るからに落ち込む。


「そ、そうですよね。私なんか綺麗じゃないですもんね……」


「ち、違うよ!巫女さんは綺麗だけど……」


「けど……?」


 綺麗だと訂正すると巫女さんは近付いてきて顔を赤くして俯いていた俺を下からのぞき込んできた。


「は、恥ずかしかっただけ……なので」


 俺はもう視線に耐え切れず振り向いて走りだそうとする。


「お気持ち、ありがとうございます。せっかくなので参拝していってくださいよ」


 俺は服をつかまれて走りだすことに失敗する。


 これはさっきの落ち込みもワザとでまさか金を集めるために……


 と思い振り返るとそこには耳まで真っ赤にしている巫女さんがいた。


 服をつかむといっても親指と人差し指でちょこんとつかんでいるだけのもので。


 さっきまでのは別に縁起でもないことがなんとなくわかる。


「神社の作法とかあんまり分からないので教えてもらってもいいですか?」


 俺は巫女さんとできるだけ話していたい。そう思ったので神社に関しての知識を一切なかったことにして話しかける。


 賽銭ってオーバースローで投げ込むんだっけか。それともサイドスローで切り裂くように?


「は、はい!私でよければ」


 ちょっと待っててください。そう言って巫女さんは近くの小屋に走っていく。


 数秒後すぐに手ぶらの状態で戻ってくる。竹箒を置いてきたのか。そこまでちゃんと教えてくれなくてもよかったのにとも思ったけども、付きっ切りで教えてくれるのかなともうれしく思った。


 そこから俺は巫女さんに参り方を教えてもらっていた。


「三礼三拍手一礼なんて古いものを知ってらっしゃるんですね」


 あ、いや、忘れてたつもりだったんだけどな。つい口に出しちゃった。


「実際はそうだという方も多いですし三礼三拍手一礼の方もいるのですが基本的に今の時代は二回でいいですよ。ほかの場所、三神を祀っているような場所ではしたほうがいいのかもしれませんが。今の時代、皆で合わせて参拝することが多いので二回で大丈夫ですよ」


 結構詳しいのだろうか。ギャルゲーで知った俺なんかとは違ってちゃんと知識があるのだろう。


「っと。とりあえずはこのようなものですかね。参拝の仕方は以上です」


 いつの間にか鳥居まで戻ってきていて中にお礼をして終わりだと教えてもらう。


 だが俺はお礼をせずまだ鳥居の中にいる。まだ中にいて巫女さんとしゃべりたい気分だったから。


「あ、あのまた巫女さんに会いに来てもいいですか?!」


 と言ってからまた後悔した。え?今日、何回恥ずかしい思いすればいいの?


 俺は恥ずかしすぎて巫女さんの顔が見れなくなっていたが微かな勇気を出してちらっと目線だけそちらへ向けてみる。


「わ、私もまた会いたいので来てくださいね!!夏の間は学校が休みなので平日はいつでもいますので!」


 顔を赤くしてそう言ってくれた巫女さんを見て俺はこの時、夏休み毎日通うことをここに決めた。


「ま、また来てくださいね!」


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夏の朝、巫女の君と出会う 楓華 @huukaki_

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