第2話 二人の少女①
日が高く登っていた。清葉皇国の首都、蘭州は海に面していて大きな港が多い。蘭州の中でもこの
蘭州にはユリガと清葉の混血も多い。
ナダルも二国の混血だ。
「はじめて来た気がしないな」
ナダルはつぶやいた。すると腹がなった。
(まずはなにか食べよう)
ナダルは周りを見渡して食堂のある宿屋を見つけた。
(あそこにしよう)
ナダルは赤いのれんの宿屋に入った。
のれんの色でどの程度の宿屋かがわかる。黒は一流、赤は二流、白は三流だ。
ナダルはのれんをくぐると、下働きの少女に声をかけられた。
「いらっしゃい。兄ちゃん泊まりかい?食事かい?」
「食事です。」
「あいよ」
少女は元気に答えると席に案内した。
「ここだよ」
「ありがとう」
「注文は?」
「魚の定食を下さい。」
「あいよちょっと待ってな」
少女は元気にそう言って厨房に入って行った。
(二流の宿屋は良いな。一流だとこうはいかない。)
一度三流の宿屋にも泊まった事があったが、数人で雑魚寝する宿だった。同じ部屋の人と話をしたりして、あれも良い思い出になった。
(後で白春塾がどこにあるか聞こう、遠いなら今日はここに泊まろう。)
「お待ち遠様」
考えている間にさっきの少女が料理を持ってきた。
「ありがとう。」
ナダルはそう言って少女に笑いかけた。すると、少女は顔を少し近づいてきた。少女の顔をよく見ると、ユリガと清葉の混血の様だ。
「兄ちゃんどこからきたんだい?」
「ユリガの北部からだよ。」
「親戚でも訪ねるのかい?見る限り清葉との混血じゃないかい?」
「そうだよ、でも親戚を訪ねる訳じゃない。白春塾を訪ねるんだけれど場所を知ってるだろうか?」
「なんだ、兄ちゃん白春先生の知り合いかい?」
「いや、私は会った事はないよ。亡くなった父の事をよく知っているそうだから訪ねてみることにしたんだ。」
「へぇー、白春塾ならよく知ってるから案内しようかい?」
「仕事はいいの?」
「もうすぐ終わるからさ。」
「それなら、お願いする。」
「あたしはロシタ。兄ちゃんの名前は?」
「ナダルだ…よろしく。」
「こっちだよ」
案内してくれるロシタという少女は十二歳くらいだろうか?誰とでも気さくに話す。整った顔立ちをしていて、黒い髪を短く切りそろえている。ロシタの案内する通りは昔ながらの清葉式の家が並んでいる。
「ここだよ!」
その建物には白春塾という看板が出ていた。それは屋敷といっても良いほど広い敷地で、沢山の塾生が出入りしている。
「ねぇ、白春先生はいるかい?お客さんなんだけど。」
ロシタは塾生の一人に声を掛けた。
「あぁ、いるよ呼んでこようか?」
「じゃあ、頼むよ。」
ロシタは何度もきた事があるようだった。
しばらくして出てきたのは一五、六ほどの少女だった。
「はじめまして、
「ナダル・ロナと申します。」
緑飛と名乗った少女は年のわりに大人びた雰囲気がする。緑飛の容姿はどこの国の者とも違った。顔立ちはユリガの者のようでもあるが、その青い目の色はシグラ帝国の人に多い。シグラ帝国は混血を嫌うから不思議だって。髪は黒いから清葉の血も混じっているのだろうか?名前も清葉のものだ。あまり見てしまっては失礼だとは分かっていても目を引く。
「緑飛姐さん久しぶりだね!」
「ずいぶんご無沙汰ね、ロシタ。」
二人の少女は嬉しそうに微笑んでいる。
そして緑飛はまたナダルの方に顔を向けた。
「客間へご案内します。」
三人は塾の中に入った。ナダルは前を歩いている緑飛の耳の裏側に文字の様な刺青が入っていることに気がついた。それが文字だとしてもナダルには読めない文字だった。
(何て書いてあるんだろう…)
次の瞬間、ナダルの目の前に見たことのない光景が広がった。若葉が青々としげる林の中だった。そこに二人の少女が歩いてきた。二人の少女は歌を歌っている様だが声は聞こえない。
よく見れば少女はロシタと緑飛だった。二人はナダルのすぐ近くまで来ていたが、それでも声は聞こえない。ナダルはゾッとして二人を呼び止めようとしたが、その瞬間、光景が崩れたように消えた。
そこはさっきからいた塾の廊下だった。するとロシタの声が聞こえた。
「兄ちゃん、さっきからぼーっとどうしたんだい?」
どうやらあの光景を見たのはナダルだけだったようだ。
(これは俗に言う白昼夢という物だろうか?)
ナダルはまた二人を見て、さっきの夢の中で二人が見たことのない服を着ていたのに違和感が無かった事に気がついた。
(この二人が何故夢に出てきたのだろう?何故見たことの無いような服を着ていたのだろう?)
ナダルは鳥肌がたつのを感じた。
ナダルは冷静な顔をつくって案内されるままに廊下を進んでいった。
不死の花 宮野恵梨香 @esika
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