不死の花
宮野恵梨香
第1話 導く夢
歌が聞こえる。
その歌声は自分の記憶にくっきりと刻まれていた母の声だった。
母、
母は白い花が満開に咲いている木を見上げているが、美しい春の日に似合わず黒い喪服を着ていた。母が歌っていたのは、死者を弔う歌でもなく春の訪れを喜ぶ歌でもなかった。それは何処か不気味な感じがする歌だった。
まだ幼かった自分は母が少し恐ろしくなってその場を走って逃げた。
不老不死をもたらす花があったとさ
昔々の王様が欲しがって
その花を探しました
何年待っても見つからず 王様は自分で探しに行きました
でも王様は二度と戻りませんでしたとさ
それからずっとその歌が耳から離れない。歌には続きがあるようだが、知るのが何故か恐ろしくて耳を塞いでいた。目も閉じていたと気が付いたのは誰かにぶつかってからだった。
それが誰だか確かめるのも恐ろしくて、目を逸らしながら「ごめんなさい」と言ってから走った。そしてようやく閉じた目を開いたのは自分の部屋に入ってからだ。でも、まだ耳は塞いだままだった。
ナダルは目を覚ました。その息は乱れている。
「またあの夢だ」
と、ナダルはつぶやいた。
幼い時から時々見る夢だった。でも、去年母が亡くなってから見る回数が増えていった。
夢は見るたびに少しずつ先に進んでいくので恐ろしかった。
母は亡くなる直前に、清葉皇国の
ナダルはその事と夢のことが無関係とは思えず、行ってみることにした。がもうすぐ旅が終わる気がした。
(あと少しで蘭州だ。)
ナダルは寝台から立ち上がり、窓を開けた。
彼の表情には期待の色が浮かんでいる。
花は英雄に夢を見せる。だがそれは英雄にだけではなかった。
英雄を花の元に導くために、周りの人やいつか出会う人にも見せる。花の番人は、花の花粉を飛ばす事も役目の一つだ。それが夢を見せていた。
花は毎日花粉を出すわけではない。それでも
利生はテラスに出て、器に入った花粉を少し手に取った。そして、手を口元に近づけた。
ふー
息を吹くと、息が風になり、花粉は遠くに飛んでいった。
この時はいつも利生の髪は青い光を放ってつ。
後ろから戸を開く音がして振り返った。背の高い細身の男が自分の方へ歩いてきた。髪は腰に届くほど長くて青みがかった黒色をしていた。その顔は誰が見ても美しいと感じるだろう。彼は眉間に皺を寄せて口を開いた。
「最近多くなったな」
利生も眉間に皺を寄せたて答えた。
「貴方もそう思う?」
「まぁね。」
「ねぇ、ラシガ…貴方の考えを聞かせて」
ラシガと呼ばれた男は少しの間、口をつぐんだ。
「多分、英雄が近くにいる。今までこんな事はなかっただろう?」
利生はまた眉間に皺を寄せた。
「私もそんな気がするわ」
ラシガは利生の隣に立った。
「なにか…起こるんでしょうね。」
「覚悟しなくてはいけないだろうね。」
二人は柳翔の街を見下ろした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます