憐憫姫
宮野恵梨香
珠音
しばらくして、我に帰りまた何か失った様なあの感覚にり、しばらく意識が飛んだ様な感じになるあの時に何を考えていたのか思い出そうとしたが、授業が進んでいるのを見て、慌ててシャープペンシルを握り黒板の文字を写した。ひと段落ついて時計を見ると授業が終わるまであと二分だった。
残りを急いで書き終えると、遠子は教室を見渡し、小学校の頃とほとんど変わらないメンバーの顔を覗き込んだ。
遠子が育ったのは北、西、南が山に囲まれた小さな町だ。どちらかといえば田舎でほとんどがこども園、小学校、中学校と一緒に登って来た。私たちの学年は2クラスで、両方合わせて40人に満たない。そんな環境だから皆んな仲がいい様に思うかもしれないが、やっぱり仲の良い、悪いはどうしても出てきてしまう。そして遠子は一人の女生徒を見つめた。彼女は
美人で明るくて、成績は学年一位。そして皆んなから好かれている。遠子はそんな珠音のことが嫌いだった。遠子は珠音とそんなに話をしたこともなければ、同じクラスにも一度しかなったことがなかった。その頃は彼女に憧れていたが、中学に上がり同じクラスになった今、遠子は彼女のことが憎くてしょうがなかった。普段は普通に接しているが、極力距離を置いている。それだけならば遠子は珠音を憎まなかっただろう、しかし珠音はとても優しかった。彼女は不幸は境遇の人間から、小さな虫までも憐れむ。遠子は彼女のそんなところが一番嫌いだった。遠子はそんな珠音を心の中で「
そしてあっという間に授業は終わった。
今日は五限授業の掃除無しの日。五限目が終わると皆んなせっせと帰り支度をする。荷物を詰めたリュックを机の脇に置き、明日の予定を写すために筆箱と連絡帳だけ机の上に残しておいた。すると珠音が遠子に声を掛けてきた。
「ねぇ、永井さん」
遠子はその声を聞いて思わずビクッとした。
「どうしたの?…細川さん。」
彼女は手を合わせてこう言った。
「永井さん、美術部だったよね?今度の吹奏楽部のコンサートのポスターを描いてくれないかな?」
ポスターをを描いたりするのは二年が多かったから、遠子は驚いた。そんな遠子の心情を読み取ったのか珠音は気を遣って明るい声でこう言った。
「べつに無理にとは言わないから。でも永井さんに引き受けて貰えたら嬉しいな。」
あまり彼女に関わりたくは無かったが、遠子は人から絵を描くことを頼まれた喜びに負けて思わず「もちろん!」と答えてしまった。すると珠音は嬉しそうな顔で笑った。
「よかった!永井さんに引き受けてもらって!私たちの活動を見たほうが描きやすいだろうから今日私たちの練習を見てって。もちろん、予定が空いてたらだけど。」
「うん、今日は空いてるから…」
遠子は珠音とあまりかがまりたく無かったはずなのに嬉しさのあまりこう言ってしまった。「もちろん、見学させて!」
遠子はこの後の帰りの会の間、後悔で押しつぶされそうだった。改めて自分の考えの甘さが嫌で嫌で堪らなかった。あの嬉しそうな珠音の笑顔を思い出して心の中で叫んだ。
これが珠音じゃなかったらどんなに嬉しかったことだろう!遠子が頭を抱えているうちに帰りの会はあっけなく終わった。
憐憫姫 宮野恵梨香 @esika
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