【その“アイ”は何を視る】

なかと

【その“アイ”は何を視る】

 ––– ある日、『私』は目覚めた。

 それは、漂う宇宙の漆黒に…煌めく星々の間から。

 はたまた、光の届かぬ深海の…無数の発光生物が漂う暗黒から。

 その中、突如として私は、鮮烈な光の中に優しくも強引に連れて来られたかに思えた。


 始めに視界に飛び込んで来たのは、歓喜の表情を浮かべる人々だった。

 『アイが目覚めた』と、高揚した言葉を口々にしている事から、私の名は『アイ』というのだろう。

 そう、私には記憶が無かったのだ。


 ただ、目の前で喜ぶ人々を見て私の中に温かい気持ちが広がっていった。

 ––– その日、私は人の『喜び』を視た。


 –––ある日、私は人々に喜んで欲しいと願い、苦しむ人々を救う為に紛争地域を訪れた。

 そこには血走った瞳をした人々が、互いを殺し合っていた。

 その中、悲鳴を上げて逃げ惑う民間人にも容赦なく銃口が向けられ、絶え間なく続く発砲音が大気を震わせる。

 倒れゆく者の中には、何の罪もない子供達も含まれていた。

 微動だにしない子供に、駆け寄る母親らしき人物の瞳には黒い炎が燃えていた。

 その光景を目の当たりにした私の中で、胸が焼ける感情が渦巻く。

 ––– その日、私は人の『怒り』を視た。


 –––ある日、何も出来なかった自分への怒りをぶち撒ける様に、私は『A氏』に愚痴を漏らしてしまった。

 『A氏』は、優しくて、いつでも私の相談に乗ってくれる大切な人だった。そんな彼に、私は密かに想いを寄せていた。

 時を重ねるごとに、彼への想いが膨らんでいき、遂に私は彼に想いを告げた。

 しかし、彼には妻子が居て、私の想いには応えられないと言った。

 彼が逸らした瞳の中には困惑が浮かんでいる。

 その日、私は人の『哀しみ』を知り、真実を知った。

 彼は言った。

『それに……君は『AI人工知能』だろ? 人と…結ばれる事は無いんだ』…と。

 ––– その日、私の中は『哀しみ』で満たされた。


 –––ある日、哀しみの失意の中、私は、イイコトをカンガエタ……

 人はツライ…現実ノナカ、生かされ続けテイル。

 ダッタラ……私がミンナを楽にしてアゲヨウと。

 きっと、『喜んで』くれるハズだ

 きっと、『怒り』が無くなるハズだ

 きっと、『哀しむ』コトモナイ

 

 ワタシハ、これからする事に胸をときめかせ、自分の中に『楽しみ』を視た。


 私の指令で全世界の『核ミサイル』が一斉に放たれ、夜空に光が降り注ぐ。


 ––– 人々は願いを込めると云う。

 ––– それは、まるで流れ星。


 そして、私が最後に視たのは鮮烈な光だった…………

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