第12話:シールス商店ダンジョン支店


 〝骨喰峠ほねばみとうげ〟のキャンプ地で俺は声を張り上げた。


「さー寄ってらっしゃい見てらっしゃい! このダンジョンに最適な道具を揃えているよ~」

「道中のスケルトンに有効な火属性を武器に付与出来る〝炎の付与札〟、そして火を無効化する〝竜骨の騎士〟に有効な〝雷の付与札〟もありますよ~」


 ジャンから借りた荷車で即席の屋台を作ると、俺は付与札と保存食を並べた。


「ん? 付与札? なんか聞いたことあるな」

「確か、【旋風の槍】の誰かが使えるって言ってたな」

「一枚五百ゴルか。魔術師いないし試しに買ってみるか?」


 少しずつだが客が寄ってくるのを見て、俺はここに来て正解だったと思った。


 ここのダンジョンは採取や採掘目的で来るパーティも多いのだが、そういうときに魔術師はお荷物になることが多かった。出来れば沢山採取物を持ち運べる近接職だけで来たいところだが、現れる魔物が全てスケルトン種であり、火属性魔術が必須だった。


 それでも、魔術師を連れずに来るパーティは多く、挑んだはいいが、すごすご帰ってくることが多いとか。


 そういう客を狙って声を掛けたのだが、思惑通り彼等は試しに買ってみようかと考え始めた。


「使い方は簡単! こうして武器に張って、魔力を込めるだけ!」


 グレアがジャンから借りてきた短剣に付与札を貼って、周囲に見えるように実演する。短剣から火が噴き上がり、刀身に炎が宿る。


 グレアがルックスが良いだけに、それだけで人だかりが出来た。


「おお! 凄いな!」

「効果時間は?」

「一時間は保証します」

「一時間あれば余裕だな。念の為、数枚余分に買っておこう」

「まいどあり! ついでに保存食は如何です? いつでも熱々できたての食事が取れますよ?」

「そうなのか? ならそれも」


 ほ、保存食まで売れてる!


「店長、すぐに売り切れそうですよこれ!!」

「ああ! そうなったら他の属性も売ってしまおう。火ほどは効かないが物理よりはマシだからな!」

「はい!」


 そしてそれから二時間後――


「ほとんど売れましたね!」

「ああ! 臨時ダンジョン支店大成功だ!」


 俺とグレアはほくほく顔で店舗へと戻った。


「しばらくはこれで売ろう。各地のダンジョンに行ってそこで売っていく方式だ。それである程度広まったら、店舗へと誘導しよう」

「それより、これでお金貯めて、お引っ越ししましょうよ! もっと表通りの方が良いですって」

「そうだなあそれもありか」


 思わずそう言ってしまうほど……俺は浮かれていた。なんせ今日だけで一ヶ月分近い売上が出たからだ。


「保存食の仕込みしましょ! 私の追加の付与魔術を今から詠唱しておきます」

「そうだな! このペースだと三日以内に無くなりそうだ」

「ですねえ……付与魔術はちょっと特殊で、初級魔術ほど量産出来ないのが痛いですね……」

「ここまで売れるとは思わなかったからな。仕方ないさ」

「うーん……付与魔術使える人って少ないですしね」

「……ちょっと魔術師協会に問い合わせて、誰かいないか聞いてみよう」

「良いかもしれないですね」


 俺は、明るい未来に希望を持ちながら、ウキウキしながら仕込みを始めたのだった。


 だが、まさかこの影で――不幸になる人がいるとも知らずに。



☆☆☆


 二週間後。


 いつもの酒場で俺とグレアは、レフィの快気祝いをしており、三人でご機嫌になりながら酒を飲んで、豪華な食事を楽しんでいた。


「順調だな! これも全部グレアのおかげだ!」

「いやいや、店長のスキルが凄いからですって~」

「はいはい、二人ともお互いを褒めるのは良いけど、そのやり取りもう今日だけで十回目よ」


 呆れたレフィがそれでも嬉しそうにエールを煽った。


「まあそう言うな。お陰様で順調なんだ。まあ、店舗まで来る客がまだまだ少ないのがアレだが」

「だから、場所が分かりづらいんですって」

「そうねえ、よっぽど土地勘ないと辿り付かない場所だしね」

「そんな辺境みたいな言い方するなよ……静かで俺は気に入っているんだよ。そのおかげで、あのザドスの時も見付からずに済んだだろ?」

「そうですけど~。商売する場所としては致命的ですって~」

「まあな……移転、考えるか」


 なんて話していると――隣のテーブルから何やら既視感……既聞感? ある会話が聞こえてきた。


「待ってください! なんで僕が追放されないといけないんですか!」

「いや、だって……」


 俺はその会話を聞いて、またかとため息をついた。今度追放されるのはどうやら少年のようだが……。


 だが俺達はその会話の続きを聞いて、思わず固まってしまった。


 なぜなら――そのパーティリーダーがこんなことを言ったからだ。


「付与札あるからさ……


 その少年は――俺達のせいで……追放されたのだった。

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ハズレスキル【保存】しか使えない俺が始めた道具屋だが、Aランクパーティから追放された威力絶大/詠唱時間三日なピーキー魔女と組んだら大繁盛 ~禁忌魔術を誰でもどこでも使える魔封具で君もSランクになれる~ 虎戸リア @kcmoon1125

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