第11話:付与札


 ガドラン――冒険者ギルド近辺の酒場にて。


 二人のこなれた冒険者が酒を飲みながら会話している。


「おい、〝付与札エンチャンター〟って聞いたことあるか?」

「あん? なんだよそれ」

「なんか最近話題になっててよ。誰でもどこでも使って道具らしいぞ」

「付与魔術……っていやあ、武器に属性を付与したりするあれか?」

「そうそう。ほら、付与魔術って使い手がほとんどいないだろ? だからあんまり使う機会はないが、あるとめちゃくちゃ便利なんだよ。しかもそれが、使い切りだが誰でもどこでも使えるのが〝付与札エンチャンター〟。しかも一枚につき、たった五百ゴルだ」

「へえ……どこに売っているんだ?」

「ああ、それは――」


 俺はしめしめ、と思いながらエールを煽った。


 新たに開発した〝付与札エンチャンター〟――それは付与魔術を【保存】したもので、【解放】すれば、武器に火属性や雷属性などを一定時間付与できる。

 

 物理攻撃が通りにくい魔物に有効な手であり、魔術師のいないパーティなら泣いて喜ぶ逸品だ。


 元々付与魔術は少々特殊な魔術であり、使い手が少ない。だがもう驚く事もないが、グレアは普通に使えるらしい。


「ま、そこに目を付けた俺が天才ということだ」


 そう付与魔術ならば、魔封弾と魔導銃の短所を全て消せるのだ。もちろん直接攻撃するものではないので、火力には繋がらないが、その分使うタイミングが戦闘前、戦闘中とどこでも可能で、間接的に火力向上に繋がっている。かつ各属性ごとに見た目も違う上に、それぞれの属性に一種類しかないので、どれがどれか混同することはない。


 さらにたびたび問題となった、グレアの魔術がスキルによって威力範囲ともに使い勝手が悪くなる点も、付与魔術の場合、付与される時間が長くなるだけなので、むしろ都合が良かった。


 そして、何より直感で使いやすいのが良い。最初に、解放のやり方を口頭で教えるだけで、仕組み自体はシンプルだ。武器に貼り付けて、解放すれば良いだけだしな。


 魔封弾や魔導銃の入門としては最適だった。


 というわけで俺は早速、グレアに協力してもらい試作品を大量に作ると、レフィや彼女のパーティメンバーに試用してもらった。結果として使い勝手は上々、すぐに実戦投入したいと言われたので、売り出すことにした。


「もうちょい説明口調をなんとかできんかね?」


 隣の冒険者の一人、――実はレフィの知り合い――に、付与札を広めようと俺とグレアが思い付いた宣伝文句を色んなところで拡散してもらっているんだが……


 とにかくうちの店は路地裏にあって分かりにくいので、まずは知名度を上げるところからだ。


「ここでも十分に広まったか。一度店に戻るか」


 付与札は間違いなく冒険者にとって必須の道具となるのは分かっていた。あとは、どうやってその存在を知らしめるかだけだ。レフィ達も色んな場所で宣伝してくれているようで、そろそろ店の方に客が来ても良いころだろう。


 俺は酒場を出ると、商人通りの路地裏へと向かう。相変わらず、人通りも少なく、入り組んでいる場所だ。


 説明されてもここに辿り付くのは難しいかもしれないな。


「売る場所を……考えないとなあ」


 いくら便利で素晴らしい商品も、見えるところに置かなければ売れない。


「あ、店長お帰りなさい。さっき二枚売れましたよ~。とはいえ、まだ今日はそれだけですが」


 店番をしていたグレアが戻った俺を見て、笑みを浮かべた。


「うーん、宣伝は順調だが、場所が問題かもしれんな」

「移転します?」

「そんな簡単に言うな……どれだけ金が掛かると思っているんだよ」


 俺がため息をついてエプロンを着けると、大量に作った付与札を見て、ため息をついた。元手ゼロで作れたので赤字にはならないが……そろそろグレアの食費分ぐらいは回収したいところだ。


「うーん。ギルドで売らせてもらうとか? もしくは近くの酒場とか」

「ふうむ。臨時店舗か……悪くないな」


 まあ問題は、素直にそれを許可してくれるかどうかだ。


 他にも問題点がある。


「うーん……酒場に来た冒険者がわざわざ良く分からない道具を買うだろうか。どうせなら、冒険者達がそれを手に取りたくなる場所が良いんだけどなあ……井戸の側で水を売っても仕方ない」

「じゃあ、

「簡単に言うなよ。そもそも付与札が必要になる場所なんて、例えば物理攻撃が通りにくい敵が多いダンジョン……それこそこないだの〝骨啄峠〟とか、新人冒険者の登竜門である、〝腐乱墓地〟とかであって、こんな街中にはな――」


 いや待て。そうじゃない。


 俺は思考をフル回転させるも、グレアはあっさり先回りしていた。


「じゃあ……? ダンジョンの入口にはキャンプをする場所があるのでしょう? そういうところで売れば、ついでに保存食も売れそうですよ」

「それだ……それだよグレア! ダンジョンであれば、売れるかもしれない!」

「ふふーん、今日のお昼ご飯は奮発してくださいね!」


 グレアが得意気にその大きな胸を張った。もはや見慣れたとはいえ、やはり男にとって目に毒だ。


「いや、早速準備して出掛けるぞ。ジャンのとこに確か使ってない荷車があったな。あれを借りてこよう」

「ええ!? 待ってください、お昼ご飯は!?」

「あとだ。保存食食わせてやるから我慢しろ」

「ええ!?」


 こうして俺とグレアは、ダンジョンへと向かったのだった。

 

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