第10話:試作品に関する総評


 ――冒険者の街ガドラン。


「うっし、来たなジャン」

「おう、待たせた」


 扉から入ってくるジャンの姿を見て、俺が頷いた。しかしグレアは、見えない影を探すようにキョロキョロしていた。


「レフィ姉様は!?」

「ああ、一応呼んだんだけどな。ザドスが牢屋の中で変死した件で、どうも調査を受けているらしく、しばらくは動けないってよ。まあ、まだ療養中だから丁度良いんだけどな」


 俺がすかさず説明するも、グレアが脹れっ面で睨んでくる。


「なんで教えてくれなかったんですかあ! 会えると思ったのにい」

「悪い悪い、今朝聞いたばっかりだからな」


 俺とグレアのやり取りを見ていたジャンがため息をついて、カウンターの席に座った。


「いちゃつくのは良いから、始めよう」

「……いちゃついてねえよ」「いちゃついてないです!!」

「分かった分かった。で、どうだった――魔導銃は」


 ジャンが、半ば確信めいた笑みを浮かべた。


 そりゃあそうだろう。詳しい説明はしていないが、Aランク冒険者の襲撃を、元冒険者の俺と実戦では全く使えないと言われていたグレアの二人で撃退出来たのだ。


 魔導銃のおかげだということは想像に難くない。


「結論を先に言うと、とんでもなく高性能だが……欠点もいくつかある。これが見ていた俺と、使用したグレアの総評だ」

「……だろうな。突貫で作ったもんだ、欠点がなければ嘘になる」


 俺とグレアが頷き合う。既にあれから何度も意見を交わし、ジャンに伝えるべき点はまとめてあった。


「まずは長所から挙げていこう。グレア、頼む」


 俺はそうグレアに視線を向ける、グレアが頷いた。その顔には先ほどまでの、拗ねたような雰囲気がない。


「まず……分かっていた事ですが、魔封弾さえ用意しておけば、あらゆる魔術を詠唱無しで放てるのは、実戦において極めて有効です。特に、接近戦を苦手とする魔術師にとっては切り札になり得ると思いますね」

「なるほど……確かに、懐に飛び込まれたら俺達魔術師は何も出来ないからな……」


 ジャンが納得したように頷く。


「更にこの弾倉のおかげで、六発までは連続で放てます。魔術を六回もほぼクールタイム無しで撃てたら……ぶっちゃけ強すぎます。非魔術職の人が泣くレベルです」

「馬鹿シールスのムチャな追加注文を聞いたかいがあったってもんだ」

「悪かったって」


 俺は一応謝っておく。だって、連続で撃てる方が便利そうだったんだもん。


「次点として、取り回しの良さですね。少々重いですが、私の非力さでも両手で持てば問題ありません。邪魔にならず腰のホルスターも加え、携帯性が高いです。携帯性が良く、射程もあって破壊力も適応力もある。ぶっちゃけこれ以上の武器を私は思いつけません。長所は大体こんなところでしょう」

「だな」


 ジャンが頷いている。大体は想像通りだったのだろう。


「ここからが問題だ。短所については俺が述べさせてもらおう」


 俺はそう言うと、魔導銃をカウンターの上に置いた。


「二人とも分かっていると思うが、一応説明する。この魔導銃は、引き金を引くことで握り部分から使用者の微量の魔力を自動的に吸収し、それを使って魔封弾を【解放】させる。魔術はなぜか他の物と違い、解放される瞬間に魔力を発生させる現象があるのが分かったので、これを利用して魔封弾を発射させる機構になっている」

「要するに引き金を引くだけで、勝手に魔術が発動するってことだな」

「その通り。手投げ式だとわざわざ魔力を込めて、自分の任意のタイミングで解放させないといけない。これは勿論、時間差で発動させる際には有効だが、実戦では少し手間となる」


 ……ザドスの足下で魔封弾を発動できたのはこれが理由だ。手投げ式の長所だが、同時に魔導銃の短所にもなる。


「魔導銃は、発射する際にその機構上、【解放】させないといけない。つまり、任意のタイミングで【解放】が出来ず、しかもグレアと実験した結果、魔術ごとに解放から、魔術発動までのタイムラグがあることが分かった。例えば、【ワールウィンド】の魔術は、解放してから三秒後に魔術が発動する。しかし【サンダーサーペント】は一秒も掛からない」

「……三秒か。接近戦では使えないな」

「そうなんだよ。発射された際の速度が速いせいで、近くに目標がいてもその背後で発動してしまう。これは大きな短所の一つだ。即発動させたいのに、できない。もしくは敵に届く前に発動してしまい、当たらない……などだ。勿論、各魔術毎のタイムラグを把握しておけば、問題ないのだろうが……それを素人に求めるのは酷だし、俺らも把握しきれない」

「それは……商品失格だな」

「ああ。あとは、弾倉に入れると魔封弾の見分けが付かないのも問題だ。これを見てくれ」


 俺はカウンターの上に、三種類の魔封弾を並べた。二つは中で火が揺らめいており、もう一つは雷が走っている。


「この右側のには【ファイアアロー】、真ん中のは【フレイムランス】、左は【ライトニングボルト】の魔術が保存されている」

「なるほど、属性ごとに見た目が違うのか」

「ああ。だがパッと見で分かるのは属性だけで、中身がその属性の、どの魔術なのかまでは不明だ。ダンジョンで使うことを想定すると、少なくない数の魔封弾を持ち込むことになる。その際に、どれがどれだか分からないのは問題だ。更に分かったとしても……弾倉に入れてしまえばもはや属性すら分からなくなる。もちろん、弾倉に入れた順番を覚えておけば良いのだが、それはやはり難しいだろう」

「私は覚えていましたけどね~」


 グレアが得意気にそう言うが、俺は知っている。


「嘘つけ。保存されているのが自分の魔術だから、魔力の質だかなんだかで区別ができるとか何とか言ってたじゃねえか」

「いや、それも普通の魔術師はできないぞ……?」


 ジャンが呆れたような声を出すが、俺だって分かっている。グレアは規格外すぎて、参考にならない。


「つまり、今の機能のままだと商品化は難しいというところだ。妥協案として、売る魔封弾を一種類に絞る……という方法もある。火属性なら使いやすくかつ威力もある【フレイムランス】、雷属性なら【ライトニングボルト】、といった風にな。ただ、なんせグレアの魔術は威力と範囲が馬鹿みたいにでかいせいで、普段使いには向かないんだ」

「ううう……スキルが裏目に~。ボスには有効だと思うんですけどねえ」

「ふむ……俺が毎回やるってわけにもいかないしな」


 ジャンには、いくつか魔封弾作りに協力してもらったが、量産するとなると厳しい。


「結果として、すぐに商品化は無理という結論になった。当分は、グレア専用の武器として使って少しずつ改良していく形になる」

「私は魔術バンバン撃てて嬉しいんですけど……」

「そうか……よし、俺の方でも改良案がないか考えておく」


 ジャンが力強くそう言ってくれた。正直ジャンの力がないと難しい部分が多いので助かる。


「ありがとう、ジャン。だが、今回の試作は無駄じゃなかった。おかげで俺は魔封弾の違う使い道を思い付いた。そしてこれは、さっきまで言っていた短所も無くなるんだ。とはいえ用途は全く違うので、魔封弾と呼ぶには少々語弊があるので、違う名前を付けた」


 俺はそういうとポケットから一枚のカードを取り出した。その表面には揺れる火が刻印されていた。


「これは?」

「これは――〝付与札エンチャンター〟さ」

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