雪葉の旋律

片喰藤火

雪葉の旋律

雪葉の旋律 


 とある山間にあった村のお話です。

 その村は東西が崖に、南北は高い山に囲まれていました。

 そのように険しい場所にあるので、外の村との交流は盛んではありません。

 この村の土地は貧しく、中々作物が育たないので、外の村と交流をしない訳

にはいきません。従って普段は比較的緩やかな南の山を越えて行商に行きます。

 幸い東西の崖から質の良い石が採れるので、それらを交易品とし、食料と交換

してもらっていました。

 南の山を越えた村と交流があると書きましたが、北の山を越えた村と交流が

無い訳ではありません。むしろ、南の山を越えた村と交流が始まるより以前から

交易は行なわれていました。が、北の山を越えた村とは不思議な掟があり、それ

を守って交易を行わないといけません。

 掟と言うのは、お互いの顔を合わせずに交易を行うというものです。このことを

無言交易と言います。それと、交易は冬の間だけで、北の山の中腹にある山の神を

祀った祠で行わなければならないと言うことです。

 顔を合わせない無言交易を行うことによって、余計ないざこざを防ぐことが出来

ます。例えば、相手の表情の変化を読み取りながら会話をして、腹の底の探りあい

などをしなくて済みます。文化の違いによって口論になったりしなくなります。

 顔を合わせないでどうやって商品の取引をするのかと申しますと、祠に交易の

品を置いて、その価値に見合った品を、北の山を越えた村がその場所に置いて取

引が成立するのです。ですから祠には最初に品物が無ければ交易は出来ません。

掟にはありませんが、最初に品を置くのは山と崖に囲まれた村と昔から決まって

いたようです。

 一見すると北の山を越えた村の方が有利にも思えますが、取引に不服の場合は

壁に掛かっている札で相手への意志を伝えることが出来ます。

 しかし不思議と取引された品物は的確で、不服を知らせる札に並べ替えた事はなく、

むしろ南の山を越えた村と交易をするよりも得をしたと思うことの方が多いのです。

 何時頃からこの交易が始まったのかは分かりませんが、冬の間は南の山を越えて交

易に行くのも雪が深く困難で、北の山の中腹までなら南の山を越えるよりかは楽

に品物を運べるので村は助かっています。

 神聖な場所ということもあってか、不正は今までに一度もあったことがありませ

んでした。


 雪が降り始めた十一月。最初の交易品を北の山の祠へ運ぶ親子がいました。父

は雪俊。子は雪葉という名前でした。

 雪俊は荷車を引き、雪葉も背負子に沢山交易品を括りつけて、荷車を後ろから

押していました。

「次はもう艝じゃないとだめだな。」

 雪俊は雪の降る様子を細い目で少し憎いらしげに見上げました。

 雪葉は雪俊とは対照的に、目を大きく開けて雪が降るのを楽しそうに見ていました。

「少し休むか?」

「だいじょうぶ。」

 雪俊は雪葉の楽しそうな顔を見て、やれやれと思いながら少し目が穏やかにな

りました。

 村を出て半日ほどで二人は北の山の中腹にある祠へ辿り着きました。

 祠は洞窟になっていて、奥の方に祭壇があります。洞窟の手前は庵(いおり)の

様に木が組まれていて、休憩をするのにも丁度良く作られていました。

「おっとう。神様とも交易できたらいいなぁ。」

 雪葉は奥の祭壇を覗いて言いました。

「それもおもしろいなぁ。でも神様は、北の山を越えた村と取引が公正に行われ

ることを見届けてくれるだけなんだよ。」

 雪俊は庵にある台に交易品を並べました。雪葉も背負子を下ろして交易品を並

べました。

 雪俊は並べ終わると壁に掛かっている札を組み替えました。

「それ、どういう意味。」

「これは宜しくお願いしますと言う意味だよ。それと最初の一回目ですと言う意味。

これが月に二回。一冬で六回。わからなくならないようにその都度掛け替えるのさ。」

「ふぅん。でもさ、おら達が来たことはどうやって北の村の人が分かるの?」

「それは、ちょっとこっちおいで。」

 雪俊は庵を出て裏側へ行き、雪葉も後について行きます。そこには小さくても

立派な鐘楼がありました。

「これを鳴らすんだよ。」

 高さが二尺ぐらいで、幅一尺ちょっとの釣鐘があり、雪俊は側に紐で繋がって

いた撞木で力いっぱい叩きました。

 高めの音が鳴り響き、雪葉は思わず耳を塞ぎました。

「大きい音だな。なんでおら達の村には聴こえなかったんだろか?」

「丁度崖を背にしているからだろ。たまに風に乗って聞こえてくるけどな。さて、

弁当を食うか。」

 雪葉は釣鐘を興味津々で見ていましたが、雪俊の一言で興味は弁当の方に移っ

てしまいました。

 雪葉は荷車に残っていた竹篭の中から竹皮に包まれたおむすびを取り出しまし

た。大きい方の包を雪俊に渡してから、交易品が置かれている横に座り、雪俊

もその隣に腰掛けました。二人共同じ風に膝の上に包を乗せ、手を合わせて

「頂きます」と言ってから紐を解いて食べ始めました。

「晴れたなぁ……。」

 雪俊はそう呟いておむすびを頬張りました。

 空は深い青色で、薄っすらと雪が積もった山々に光が反射して、美しい光景が

広がっていました。

 雪俊が景色を眺めながらゆっくり食べている内に、雪葉はあっという間におむ

すびを食べきってしまいました。

「綺麗な景色だな。ここで笛吹いてもいいかな。」

 雪葉は去年、南の村で雪俊に買ってもらった笛を常に懐へ入れていて、気に

入った場所を見つけては吹いたりしていました。

「いいよ。」

 雪葉は静かに笛を吹きました。

澄んだ音色で、鳥や獣たちも聞き入っているようにその音色以外の音は聞こえて

来ませんでした。

「おっとう。ここは音色が何処までもキンと響くな。」

「ああ。それにしても雪葉は笛を吹くのが上手いなぁ。」

「なぁ。おらの笛の音は、北の村まで届いたろうか。対価として余計に食べ物く

れたりしないかな。」

「どうだろうか。聞こえていたとしても、もっと練習しないとだめだろうな。

さ、もう帰ろうか。」

 雪葉はまだ笛を吹きたそうにしていましたが、日が暮れるまでに帰らないと危

ないので素直に聞き入れました。笛を大事そうに懐に仕舞って、空の背負子を

背負いました。

「明後日また来るのは面倒くさいよね。」

「俺らは来ないだろ。」

「明日来たら北の村の人と会えるのかな。」

「こら! 掟を破るような事をしちゃいかん。」

 雪葉はしゅんとして雪俊の後ろを歩いて村へ帰りました。


二日経って、交易品を取りに行った村人が雪俊の家を訪れました。

「雪俊。今回食べ物の他にこんなものがあったぞ。」

 渡された物は楽譜でした。村の者は皆雪葉が笛を吹くことは知っていましたか

ら、雪葉にあげようと言うことになったのです。

「いいのか? ありがとう。」

 奥に居た雪葉が出てきて、雪俊は雪葉に楽譜を手渡しました。

「なにこれ。数字と文字が並んでる」

「これは楽譜だよ。数字の通りに指を抑えるんだ。」

 雪俊は数字に対応する指と、呂音甲音の印、伯の傍線などの意味を教えてあげました。

雪葉は何処を抑えるかすぐに覚えて、早速楽譜の通りに吹いてしまいました。

「おぉ。やっぱり雪葉に上げた甲斐があったよ。」

 村人はその音色を満足そうに聞いてから雪俊の家を後にしました。

「おっとう。もしかして交易の対価かな。」

「うん、まぁそうかもしれん。」

 雪俊は不思議な事もあるものだと顎を摩っていました。

「今度交易に向かう人についていってもいい?」

「またあそこで吹くのかい?」

「この曲が聞きたいってことなんじゃないのかな。」

「わかった。一応村長(むらおさ)に訊いてみよう。」

 雪俊は村長と次の交易の当番の人に事情を説明して、雪葉を祠まで連れてって

貰えるか相談しました。

「これからは雪も深くなって危ないから駄目じゃ」と、村長は反対しましたが、

当番の人は「新しい曲が貰えるなら雪葉も喜ぶだろう。ちゃんと安全に見ておい

てやるから。」と村長を説得しました。

 村長は雪俊にどっちかと尋ねました。

「あの子には笛の才があります。雪道は危ないですが、それより楽しそうに吹く

雪葉の顔を見ますと……。」

「そうか。わかった。雪葉に恨まれたくはないしのぅ。道中よろしく頼むぞ」

 村長は次の当番に念を押して雪葉の同行を許しました。


 次の交易の日を迎えた時は、雪が既に一尺以上は積もっていました。

ちゃんと冬の身支度を整えて雪葉は交易の人に同行しました。

そして祠に着くと、前に貰った楽譜の通りに笛を吹きました。

「これで北の村には聞こえているだろう。明後日交易品を取りに来る奴に、楽譜

があったら家まで届けさせるよう言って置いてやる。」

村人は雪葉にこう言いました。また取りに祠へ来るのは面倒だろうから、と言う

村人の配慮でした。


三日後、交易で取引が成立した品物を持ってきた村人が雪葉に楽譜を届けに来ま

した。

「おーい。今回もあったぞ。」

渡された楽譜を見て早速雪葉は笛を吹いてみました。

 その旋律はやはり美しく、村人もそれを聞いて満足そうに帰って行きました。

 それから雪がさらに深くなって、祠へ行くのが大変でも、雪葉は新しい曲が吹

きたいという思いから、とうとう冬の最後の交易日まで休まず通いました。そう

してこの冬最後の楽譜が雪俊の家へ届けられました。

「次の冬も貰えるといいね。」

 村人がそう言って雪葉に楽譜を手渡しました。雪葉はこの曲でこの冬は終わり

かと思うと少し寂しかったようです。笛の音色もどこか寂しげでした。

 村人は変わらずその音色に満足して家を後にしました。

 雪俊には雪葉の音色の違いが分かったようです。

「なぁに。次の冬も祠へ笛を吹きに行けばいいさ。」

 雪葉は何度も何度も笛を吹いている内に気が付きました。

「おっとぅ。これ、全部繋がってるよ。」

 雪葉は大切に仕舞っていた楽譜を取り出してきて雪俊に見せました。

「本当だ。繋げて吹いてみたらどうだ。」

 雪葉は最初に貰った楽譜の曲から順に繋げて吹いてみました。それは一つの旋

律になっていて、とても温かい曲でした。

「いい曲だなぁ。皆にも聴かせてやんな。」

「うん。」

 雪葉は早速村の皆に聞かせてあげました。村の皆は雪葉の笛の音をうっとりし

ながら聞きました。

 ところが、この出来事から一週間ほど経って、村に原因不明の病が流行りだし

ました。

 時が悪かったようで、ある村人は雪葉が吹いた曲が呪われていて、その呪いが

広まったのは雪葉の所為だと言う人が現れました。

 そんな事はないと思う人も多かったのですが、病に罹った者が身内にいる者は、

やり場のない気持ちを雪葉へぶつけてしまいました。


 庇う者達とそうでない者達で険悪な雰囲気が村を包んでいました。そして、病

の者が増えていく度に雪葉を庇う者も少なくなっていきました。

 とうとう雪俊も病に罹ってしまい床に臥せってしまいました。

 雪葉は雪俊を看病しながら側に付きっきりです。

「交易でお薬貰えんだろうか」

「掟を破ったらいかんだろ。それに北の村に薬があるか分からんし、もしあった

として見合う品があるかどうか。」

「……おらが笛吹いたから、皆が病気になってしまったんだろか。」

「何を言う。あんなに温かく美しい曲が、病をもたらす訳がないだろ。」

 雪葉は笛を握りしめてめそめそ泣きだしてしまいました。

「泣くな泣くな。お前の笛のお陰でまだ誰も死んでおらんのだ。お前の笛の音を

聴かせておくれ」

 雪葉は涙を拭って笛を吹き始めました。しかし、曲の途中で家の壁に石が投げ

つけられる音にびっくりして笛を吹くのを止めてしまいました。

 外では雪俊の家の周りを村の者が囲んで「呪いの笛を吹くな」などと、口々に

叫んでいました。

 村長は村人に止めるよう言っていましたが、石を投げたりするのを止めません

でした。

 突然雪俊の家の戸が開きました。みんなは驚いて静まり返りました。

 雪葉は背負子を背負っていて、何も言わずに駆け出しました。

「雪葉!」

 村長が名前を呼んでも立ち止まらず雪葉は行ってしまいました。

 村の皆は「二度と戻ってくるな」などと口々に叫んで散らばっていきました。

「やれやれ」

 村長は雪俊の家に入って床に臥せっている雪俊に謝りました。

「村の者を抑えられずにすまなんだ。」

「仕方ありません。それよりも雪葉を。あいつは北の山の祠へ行ったようです」

「何故じゃ」

「あいつは薬と交換出来ないかと言っていました」

「薬か……。確かに欲しい所じゃが、今まで掟に従って交易を行なってきた。掟

を破ると正直何が起こるか分からん」

「ええ。それに雪もまだおさまっていないから心配です。連れ戻してきてくれま

せんか。」

「うむ。老体に鞭を打つとしよう。」

 村長は少し身体を伸ばしてから雪葉を追いかけて行きました。


雪葉は雪が積もっている山道を一心不乱に駆けていきました。空はもう暗くなっ

ていて天候が次第に荒れてきました。やがて雪が吹雪いてきて視界が殆ど閉ざさ

れた時、雪に隠れていた岩の亀裂に足を取られてしまいました。

「あと少しなのに」

 なんとか取ろうと四苦八苦している時、片方の岩がずれて、雪葉の片足を引き

千切ってしまいました。

 雪葉は足が抜けたと思ったのと同時に自分の片足を失ったことを理解しました。

頭を貫かれたような激痛が走り悲鳴を挙げました。暗い雪の上に赤黒い影が滲ん

でいきます。

雪葉は本能的に直ぐ布で押さえて、再び目的地へ向かいました。 

 雪の中を這い蹲りながらなんとか祠の庵まで辿り着くことが出来ました。

「おっとうを、みんなの病を治す薬を。」

 たどたどしい文字で書いた手紙を懐から出して、持てるだけ持ってきた交易品

を棚に置きました。

 雪葉はもう鐘楼の所へ行く気力も残っていませんでした。仰向けになり、懐か

ら笛を取り出して、貰った楽譜の曲を奏でました。鐘を鳴らさなくても笛の音が

北の村へ届くと解っていたからです。


 村長は吹雪の中から微かに聞こえてくる笛の音を頼りに、庵に辿り着きました。

 庵には血溜まりの中倒れている雪葉が居ました。

「雪葉!一体何があったんじゃ。」

 村長は雪葉を抱きかかえました。

「大爺。あし……千切れた。」

「あぁ……。なんということじゃ。」

 雪葉は笛を胸に抱えて村長に言いました。

「おら……やっぱり笛を嫌いになれんよ。」

「皆お前の笛の音が好きだと言っとったろ。病が広がって皆不安だったんじゃ。

不安を紛らわす為に雪葉の所為にしてしまったんじゃよ。悪いのはお前じゃない

ぞ。」

 その言葉を聞いて雪葉は安心した表情をして息絶えました。

 村長は嘆き、声を押し殺して泣きました。その時庵の奥から足音がしました。

村長はハッとして顔を上げると、暗闇から人が現れました。笠で顔を隠して袈裟

を纏い、錫杖を持った僧侶が奥から出てきて村長に近づいて来ました。

『これを。』

 そう一言言って村長に差し出されたのは、雪を固めて形作った一枚の葉でした。

その雪細工の葉には六本の葉脈が深く刻まれていました。

『掟は破られた。交易は終わる。命の価値に見合う品無し。』

「あんた、北の村の者か。」

 村長が訪ねても僧侶は答えず、外の吹雪の中へ消えてしまいました。しばらくす

ると吹雪が止んで月が出てきました。

 村長は何が起こったのかよくわかりませんでしたが、とにかく村へ帰ろうと雪葉

の亡骸を背負い、貰った雪細工の葉を溶けないように持って帰りました。


 村長が村へ着いた時はもう朝日が登っていました。村の者は昨夜はやりすぎたと

反省して、夜通し雪葉を探し回っていたらしく、病になっていない者は皆起きてい

ました。村人が村長を見つけ、帰って来たことを皆に知らせました。

 村の者が集まって来ましたが、村長が雪葉の亡骸を背負っている姿を見て、誰

も何も言葉を発することが出来ませんでした。

「ん?」

 その時、村長が腰に下げていた袋が暖かくなってきたので開いてみると、雪細

工の葉が緑色に光っていて、中から浮かび上がって来ました。

「村長。なんだいそりゃ……。」

 皆がその光景を不思議そうに見ていると、葉脈の一つが光り輝き、雪葉が最初

に貰った楽譜の曲が流れ出しました。

「こりゃ。雪葉が吹いてた曲じゃないか」

 一曲が終わると次の葉脈が光り輝いて曲が流れ、それが終わると次へ続き、六

つの葉脈か全て光り輝いた時、雪細工の葉は砕け散りました。その直後、病に臥

せっていた者達が一斉に起き上がり、皆何が起こったのかと家の外へ出てきました。

「雪葉の笛のおかげじゃ。」

 村長はそう言ってから雪俊の家へ入って行きました。

 村の者は皆自分達の罪の重さを深く反省しました。

 家の中で雪俊は布団から起き上がっていて、体の具合を確かめるように両手を

握ったり開いたりしていました。

 戸口で村長は俯いて謝りました。

「雪俊。すまん。本当にすまんのぅ。」

 背中から雪葉の亡骸を下ろして囲炉裏の前へ寝かせました。

「村長。笛の音を聞いた時、雪葉が無事に帰ってきたと思いました。」

 村長はこれまでの経緯を雪俊に伝えました。

「そうか。じゃあ最期の交易品ということか。雪葉の腕前を認めてくれたに違い

ありません。それ相応の価値だったのでしょう。それにしても不思議な話ですね」

 雪俊は終始穏やかに話していましたが、やはり悲しみは耐えられるものではな

く、涙が自然と溢れてしまいました。


 雪葉の葬儀は厳に執り行われ、遺灰は雪葉が笛を吹いて楽譜を貰った北の山の

祠へ埋葬することに決まりました。

 村の者全員が雪葉に心から謝り、病を治してくれたことに感謝しました。


春になって雪が溶けた頃、村長は掟を破ってしまった旨を伝えに、始めて北の村

へ行ってみました。

あの僧侶と雪細工の葉のことも気になっていました。二日かけて辿り着いた其処

には、荒れ果てた村の跡があるだけでした。僧侶どころか誰一人としていません。

随分昔から誰も住んではいなかったようで、村長は「一体誰と交易を行なってい

たのだろうか。」と呟きました。もしや北の山の神様と交易を行なっていたのだ

ろうかと思いながら村へ帰ることにしました。


 崖と山に囲まれた村は、北の山を越えた村と交易が行われなくなったので、冬

でも南の山を越えた村と交易を行うことになりました。

 北の山を越えた村と交易をすることはなくなりましたが、冬の始まりには雪葉が

眠る祠の前へ楽譜をお供えしに行こうということになりました。

 それからは毎年冬になると、時折風に乗って笛の音が聞こえて来ることがある

そうです。

 それは雪葉が皆を病から守るために笛を吹いてくれているのだと、今でも村に

伝えられているのです。


   ――終わり――

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雪葉の旋律 片喰藤火 @touka_katabami

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