第Ⅱ話 繁栄と代償の鐘

 「すみさせん、ご老人。願いを叶える鐘の情報はございませんか?」

 「ん?願いを叶える鐘?おお、あれのことか、しかしやめておきなされ、お主が何を願うか、なぞわしにゃどうでもいいが、鐘についても、そんな者々の末路も、知っている以上、わしはまだ若いお主を行かすわけにゃいかん」

 「しかし、…それでも、どうしても叶えなければならない願いがあるのです」

 「ふむ、お主も譲れんか、

ではこんな錆だらけの老人の話を少しばかり聴いてはくれんかの?聴いてもなお行きたいと言うならわしも止めはせんよ」

 「わかりました」

 「では、しつれいして」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 いいかい

 とあるところに1人の盗賊がおった。

 その盗賊は、ボスからの直々の命によりとある噂を確かめに行ったのさ。

 その噂は

 『ある開拓村の近くの森の中心にはありとあらゆる願いを叶える鐘がある』

という噂じゃった。

 盗賊は、その噂に基づいてその開拓村のある場所へと向かった。

 じゃがな、

 噂通りの場所へ向かっても開拓村などありゃしない。いや、正しくはあったのは廃村じゃった、家は腐り、地はひび割れ、そこらには人のものざる骨が転がっていて、井戸からは腐った水が出てきた、鳥が突くような腐肉すらもなく、一言で言うなら犬も食わない村ってところじゃった。まぁ犬の骨もあったところを見るに逆に食われたようじゃがな。

 その森とやらも葉はたなごころの形をしていて、木の幹一つ一つがまるで苦悶の表情を浮かべているような模様が見られ、その上全体的に赤いのだ。しかもひび割れた地にも関わらずなんともないように生きている、それがまた不気味で仕方ない。

 盗賊は不思議に思ったが、

時期悪く秋で紅葉が始まっていることや

信頼するボスからの命に背きたくないと言う思いが、盗賊の脚を押し出したのじゃよ。

 じゃがな、森に入ったべきじゃなかった。

 『一寸先は闇』という言葉を前々勇者様は残してくださったがそのとうり、

 森に一歩入っただけだったがそこが何処なのかわからなくなった、

どっちから来てどっちへ向かうのか

東は、西は、南は、北は、どっちなのか

方位磁石もぐるぐると回り

太陽は四方向にあるように見えた、まぁ眩しくはなかったようじゃが。

 全ての方向を見つける為の方法は握りつぶされたのじゃ、

 しかし盗賊は迷わなかった、直感というやつかな、どう動けばいいのか手に取るようにわかったのじゃ、もう何年もボスのために尽くしてきたからか、それを盗賊は経験によるものだと片付けた。

 進んでいくと無数の視線を感じるようになった、ふと周りを見回すと苦悶の表情を浮かべていた木々が自分を眺めて、憐れむような視線を向けてきた。

 まるで

 「お前はもう帰れない」と

 「お前はもう助からない」と

 「お前の行動にはなんの意味も価値もない」とでも言うような視線じゃった。

 怖くなった盗賊は遂には走り出した、

 走って走って走って、

 するといつの間にか噂の元となったと見える黄金の鐘が、血のように真っ赤で皮膚から見える血管のように真っ青な葉をつけた木にぶら下がっていた。

 盗賊は鐘を見つけると回数制限があると困ると思いきた道を戻ろうと決めた、じゃが、

何度出ようとしても何度離れようとしようとも鐘に引き寄せるように戻ってきてしまう。

 最初の直感を自分の物だと信じていた盗賊はその直感に従うがまま鐘に触れたすると、

 若い女の声が頭へ響いてきた。

 「汝、願いを持つものよ、何を願う?」

 盗賊は考えず、即座に願った。

  お願いいたします。どうかこの森からわたくしめを出してはいただけませんでしょうか。

 鐘は鈴を転がすような声音で、

 「貴方はなかなか謙虚なようですね、

いいでしょう。この前、大き過ぎる代償を使って願いを叶えた者がいましたし、特別に代償少なめで願いを叶えましょう」

 「代償、ですか?」

 「ええ、代償です。代償もなしに願いを叶えることはできません。この世の全ては代償を引き換えにするしかないのです。代償を受け入れたくないのならば、己の時間を代償に出口を探し続けるが良いでしょう」

 「代償…まさか、周りの木は!『人』…なのですか?」

 「ええ、欲望に呑み込まれ、自らの身体さえも、私に代償として捧げた、愚かな人々ですよ。」

 「…少し待ってください」

 「はい、わかりました。では三度この場へ戻ってきた時にまたお聞きします。」

 










 「また戻ってきてしまった。」

 盗賊は目を皿のようにし微かな木の違いから道を割り出そうとしたがいつも戻ってきてしまった。

 二度三度と繰り返し、何度かは鐘の提案を断ったが、何度繰り返しても一切終わりが見えず、しまいには心が折れてしもうた。

 「お願いいたします、もう耐えられない、何度見ても違いのない木、どの方角を見ても視界に映る眩しくない太陽、怨念や羨望の込められた視線を何度も叩きつけられ、地面は今にも割れて私を呑み込んでしまいそうで、何より貴方が怖い!、この森が怖い!、何度出ようと試みても!、全く違う道を選んでも!、ずっと真っ直ぐに歩いても!、直角に曲がっただけでも!、何をしても帰ってくる!、貴方に会わされる!、空腹感も訪れない!、喉も乾かない!、まるで、…まるで、時間が止まってるような、そんな感じ、さえも、する。私には、私にはもう、耐えられない」

 「…わかりました、あなたの願い、この森からの脱出を叶えます。右腕をいただきますが、よろしいですか?」

 「ああ、出れるなら、ここへ戻らなくていいなら、腕の一本やニ本、惜しくありません」

 そして、右腕がドロリと落ちて朽ちる、

その音を聴きながら、盗賊は眠ってしまった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「それでもなお、お主はいくか?わしのこの一部かけて錆びてしまった金属製の義腕を見ても、お主はいくか?」

 「ええ、この命を捨ててでも、叶えなければならない、譲れない、そんな願いが、私には、私どもにはあるのです」

 「…わかった、お主に教えよう、あの[繁栄と代償の鐘]について」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

呪われているし記憶喪失だし兵器ですが辺境で過ごしてます 泳げないペンギン 木槌 @Hagusan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ