娘の異変

 私は、2人目の子を産んだ。

 この子の2年前に1人目の子、春兎を産んだ。好奇心旺盛でみんなに優しく接せる男の子。

 雪は、兄によく似ている顔はとても可愛らしく、めっちゃ可愛い。とにかく、天使。お兄ちゃんの、真似ばっか。お兄ちゃんの後ろをずっと歩いて行く。そんな子。

 3歳になった頃雪は、

「おかあしゃん、どこいたいいたいの?」

 私は何も言ってない、誰にも足の小指をタンスの角にぶつけたなんて。

 最近こういうことが、増えた。

 私は、何も言ってないのに、雪は私の身に起こった事を聞いてくる。

「何がいやいや?」

「何がきらいきらい?」

 最初は、驚きどう言う反応をしたらいいのかわからなかった。でも、これは向き合わなければならない。

 薄々分かった、雪は人の心が読めるのだ。

 正確には、

「ぜーんぶ、きこえるの!」

 4歳になって、約束ができるようになった。

「雪、これは家族以外には話しちゃダメよ?」

「え?なんでぇ?」

「人に嫌われちゃうかもしれないから、雪は人に嫌われたくないでしょ?」

「うん…。、おかあさん、ごめんなさい。もう、奈々ちゃんに言っちゃったぁ…」

「じゃあ、奈々ちゃんと家族だけの秘密ね」

 奈々ちゃんに会ったときに、奈々ちゃんとも約束をした。彼女は、雪より少し大人びて?いて、誰にも言わない。誰にも言いたくない。と言っていた。

「奈々は、雪ちゃんとの秘密ができて嬉しいの!私が絶対守るんだぁー!」

 何度か聞いた奈々ちゃんの宣言。

 いつまで一緒にいてくれるのだろうと思っていたが、高校生になっても仲良く登校してくれていて嬉しい。

 彼女たちの、関係は共依存だ。でも、この依存は娘に必要だと思っている。

 奈々ちゃんの、想いに雪は気づいているのか、無視しているのか。彼女が、上手く隠しているのか分からないが、私はそういうカンケイになってもOKって感じ。

 そういえば、約束をした後にちょっと感動したことがあったな。

 突然、雪がしゃがみこんで、何かを持っている。

「雪どうしたの?」

「鍵、落ちてた」

「まじか、交番に届けないとね」

「ううん、大丈夫」

 雪は、横に首を振る。

 そして、また突然歩き出す。

「おじちゃん、何探してるの?」

あたりをキョロキョロ見渡してるお爺さんがいた。

「家の鍵じゃよ」

「これ?」

 手に持っていた、鍵を見せる。

「おー、これじゃこれじゃ。お嬢ちゃんありがとうなぁ」

「えへへ〜」

 お爺さんは、雪の頭を撫でて感謝を述べる。

 その様子を眺めていた私に、お爺さんの目が向けられる。

「あんたがこの娘の家族かい?」

「はい、そうです。鍵大丈夫ですか?」

「あぁ、妹さんのおかげで助かったわい」

「えっ…!私、母親です」

 たしかに、見た目は幼いと言われるが、娘の姉に間違われたことは片手の数しかない。

「いやぁ、すまんすまんとても似通っていて若いから勘違いしてしまった」

「いいえ、大丈夫です」

 まぁ、悪い気はしないけど少し複雑だ。嬉しいような、嬉しくないような。

「お嬢ちゃん、本当ありがとう。お母さんも、良い子を持ったなぁ。また、会うときはよろしく頼むよ」

 それじゃ、と言い。雪に小さくバイバイと手を振りながら歩いて行く。

「おじちゃんばいばーい」

 雪も手を振り返す。

 そして、私の方に振り向いて。

「お母さん、ごめんなさい。約束…私、悪い子だ…」

 雪は、約束を破ったと思っているようだ。

 それに対し、私は

「雪。大丈夫!雪は、良いことをしただけよ。鍵が落ちてて、周りを見ているお爺さんがいたから、その人のだと思った。そういうことよ?だから、大丈夫!雪は、ちゃんと約束を守れてる良い子だよ」

「よかったぁ」

 顔を上げ、ぱぁっと瞳を輝かせ抱きついてくる。そして、少し震えた声で、もう一度。

「よかったぁ…」

 私は、雪を抱き上げ。

「買い物、どうする?歩ける?自分で歩くなら、お菓子好きなの1つ買ってあげようかな〜?」

 雪は、慌てて目を擦り。少し腫れた目を、弓なりにして言う。

「雪はお姉さんだから、歩けるもん!」

 最近の口癖だ。「雪はお姉さんだから」と言って、あれこれ手伝ったりしてくれるようになった。

 本当に可愛くて、とても良い子。

 雪を降ろし、手を繋いで歩き出す。

「雪、何が欲しい?」

「お菓子じゃなくてもいい?」

「ん?何?」

「お母さんのハンバーグ食べたい!」

 ちょっとうちの娘、天使すぎる。これは、頑張らなければ。

「それじゃあ、腕によりをかけちゃうよぉー!」

「雪はお姉さんだから、一緒に作る!」

「ありがとう、雪。一緒に、とびきり美味しいのを作って、お父さんとお兄ちゃんに食べてもらおうね!」

「うん!」


「…お…ん。おか…ん。お母さん!」

 突然、耳元で呼ばれ飛び起きる。

 ゴッ、と鈍い音が鳴る。

「わぁ!いったあーい!」

 小指を、机の脚にぶつけたようだ。

「もう、そんなとこで寝ないで寝室で寝なよー」

 右足の小指を抑え悶えてる私に正論を言うのは、

「帰って…きたの…ね。お…かえり、雪」

「うん。ただいま、お母さん。小指大丈夫?」

「だいじょばない」

「冷やすもの持ってくるね」

 あー、昔のことを思ってるうちに寝てしまっていたらしい。

「母さん、何を思い出してたの?」

「んー、雪が天使だなぁって思った時のことかな」

「なにそれ」

 雪と笑いながら話す。そんなこともあったなぁ、と2人で少し話が盛り上がった。

 てか、普通に心読んできたはこの子。

「聞こえたんだもん」

 まぁ、いっか。

「まぁ、いいんだ」

 雪は、家だと普通に心の中を読んで話す。空気を読んで、答えないこともあるが。家でしかできないのだろうと家族が理解しているから、雪も普通に接する。

「誰に説明してんの?」

「いや、私自身への再確認よ」

 ふーん。と言い自分の部屋に向かう雪。

「私も、主婦活動しますか」

 まだ、やり終えてない家事をやろうと決意するが、ふと、さっきのことを思い出す。

 部屋に歩き始めた雪を呼び止め。

「お姉さんな、雪ちゃんに家事手伝って欲しいなぁー」

「懐かしいね。そんなこと、言わなくても私はお母さんを手伝うのにー」

 笑いながら返す雪。

「ちょっと待ってて、着替えてくる」

「ありがとう、雪。大好きよ」

「なに突然に、恥ずかしいな」

 ちょっと照れて、スキップをしそうな足取りで踵を返す雪を見守る。

「今も十分、天使ね」

 私の可愛い娘は、今日も家事を手伝ってくれる。

「私も、スキップしそうね」

 30半ばの私は、周りから奇異な目で見られるかもしれないから外なら、絶対しないけど。

 家で、ちょっとスキップしていたら。

 ちょうど、雪が戻ってきて。笑い転げた。

 私も一緒になって笑う。今日も良い一日になりそうね。

「十分、良い日だよ!」

 雪は、満面の笑みでそう言った。


 

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