第1・2話 大柄な男ハリスの悩み〈ウィーネ視点〉

私が所属する騎士団の本部は円形状の壁に囲われた建物で3つの団の練習場と本部の建物から構成されている。アビリティーを主に扱い、隠密いわゆるスパイ活動を担当している第一騎士団。魔道具を扱う事を得意とする器用な奴が多い第二騎士団、そして主に剣を扱う第3騎士団の3つだ。それぞれ一定間隔をあけて各団の練習場所が設けられており、その円の中央に位置するのが騎士団の仕事や報酬などの管理を行う本部と食事をするための食堂である。


その食堂に新米の頃から通う理由は一つ。安価なのにおいしいからである。いつも楽しそうに騎士が頼む、えげつない量の料理を手際よく作りながら、個々人に合わせてアレンジも加えてくれている料理人がいた。食堂のキッチンに入る料理人は交代制らしく、週に3回しか彼に会う事は出来なかったが、彼がキッチンに入っているときはいつもがら空きの食堂もにぎやかになっていた。


騎士になって半年、女騎士が少ない環境下で剣で勝てる事が少なくなっていき、自身もなくなってしまいには女だからと心配されたり手加減されるようになり、どうしようもない苛立ちと悲しみに襲われていた時期があった。そんな時の夜、量を抜け出しひそかに食堂で泣いていた私にキッチンにいた彼はお肉が盛りだくさんになった食事を目の前においた。


「え?あの、」料理を頼んでいませんと言おうとしたその時に彼は私の口の前に人差し指を立て、「いいから食べな」と優しい声で言ってくれた。


それからがぶがぶと料理を人目を気にしないで一心不乱に食べ、涙も流しながらというはしたない姿を彼にさらした。なのに彼は優しく微笑んだまま「すっきりしましたか?」と声をかけ、私がうなずくと、うれしそうに笑った。たったそれだけで、私はなんだか自分の考えてることがばからしくなった。


あれから新米の頃の様に一心不乱に努力をし続け、彼の料理を食べ続けた。


数か月後にあった騎士団内での練習試合では私は相手ののど元に剣をつき建てる事が出来た。それからそのことを彼に報告すると目を丸くしてから「やりましたね」と意地の悪い笑みを浮かべたので思わず私も「やってやりましたよ!」と乗った。彼が自分を認めてくれることがこれまでにない位うれしかったのを覚えている。


それからというもの、時間が出来るたびに彼に話しかけに行って、うれしい事や楽しい事を共有したり、彼の話も聞くようになった。このころに私は彼をいつも探している自分に気が付き、おそい初恋に気が付くのだった。


それから年月が過ぎ、私もとっくに結婚適齢期を逃し25歳になった今日、弟と両親のデートコースを見定めていたところをどう勘違いしたのか、彼は焦ったように私に向かって走ってきて「俺じゃダメだったかな?」ときいてきた。


弟はすぐに察したように私の腕をつつき小声でボソッと「やるじゃん」といった。一方の私は赤面で柄にもなく顔を手で隠しながら「駄目じゃないです」と震える声で告げた。


弟と別れ、彼とともにかわいらしいハンカチを購入してから彼がよく話していた食堂へと二人で足を運んだ。


そこはどこか不思議な空気の食堂であった。皆が自分の料理だけに目線を注ぎながらもどこか安心するようなあったかい空間。


いらっしゃいませ!とかわいらしい声が聞こえてくると同時に小さな子供が私たちの方へ歩み寄り「ハリスさん、今日は素敵なお姉さんと一緒なのね!」と大きな声で言った。結果、その場にいた曲が全員立ち上がり、質問をしはじめ、私たちは一瞬にして囲まれた。


奥では女将さんらしき人が困ったように微笑み、そばで手伝いをしているまだ10くらいの少年と少女は困ったように微笑んでいた。ふと横に立っている彼を見上げると彼も困ったように眉を下げながらもどこか嬉しそうな雰囲気が出ていた。


それを見て私もなんだかうれしくなって、彼の手を取りぎゅっと握りしめた。彼はびくっと震えてから真っ赤な顔で私を見つめてきた。私がもう一度ぎゅーっと手を握ると今度は困ったようなでも嬉しそうな笑みで私の手を握り返してくれた。


「はじめまして。私、ウィーネ・ユートリアは今日から彼とお付き合いさせていただくことになったので、よろしくお願いします!」


ぺこりと頭を下げると、周りからは拍手とようこそと声をかけられた。ここは暖かい。誰かに似ているような面影の少年少女が私たちに近づき、他の人たちを退散させてくれた。その手際の良さ感心していると、おもむろにハリスが「メリアちゃん、レイア君これは君たちにお礼」と言って例のハンカチをポケットから取り出した。


ハリスから選ぶのに付き合ってほしいと言われ、二人で悩んだ末に購入したものであったので渡すときに少し緊張したが、メリアと呼ばれた少女とレイアと呼ばれた少年はそろって目を輝かせた。その表情にホッと胸をなでおろすと、隣でハリスもほっと息をついていたので2人して笑ってしまった。


「ねぇねぇお姉さん、」


ふとメリアがクイクイとウィーネの服を引っ張ったのでウェーネはしゃがんでメリアに目線を合わせた。


「なーに、メリアちゃん」


「お姉さんは料理人と騎士だったらどっちが魅力的だなって思う?」


突然の問いかけにウィーネは首をかしげたが、彼女は幸せそうに微笑んでからこう告げた。


「もちろん、料理人」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

不思議な食堂ブーケ @ac51073zero

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ