第1話 大柄な男ハリスの悩み

いつも元気でハキハキと話す、大柄な男ハリスは今日はしょんぼりとした空気をまとって食堂へと足を運んだ。


…というのもハリスは今絶望のさなかだったからである。


この食堂に来る途中、今自身が心惹かれる相手、第3団団長の女騎士ウィーネが男の人と二人で笑いながら歩く姿を目撃してしまったのである。しかもその男は騎士団の食堂でよく見かける中々に女騎士に人気の騎士の一人で、細身で若くて顔もかなりの美形であった。


一方のハリスはこの国の騎士団に食事を作るいわゆる料理人であった。騎士団にはガタイの良い男がたくさんおり、それにあこがれて若いころに鍛錬をし続けた結果、背も伸び筋肉も付き、料理人には到底見えないような体になってしまった。鍛錬を怠っているのにもかかわらず筋肉は落ちない。どうして彼がここまでに体系に悩んでいるのかというと彼の片思いの相手は騎士団でもかなり目立つほどには小柄な女性だからである。


小柄でかわいい彼女と俺が並んだらまるで美女と野獣!あんな風には見えないだろうな。…というかあの二人、楽しそうだったな…


「どうしたのですか?今日はなんだか元気がないように見えます。」


ブーケに入るなり、席についてうーんうーんとうなっていたハリスを心配してメリアはアンに頼み、心が落ち着くような温かいスープをハリスの座るテーブルに置いた。


「あぁ、すまない。考え事をしていてね。…メリアちゃん、つかないことを聞いてもよいだろうか」


ハリスが珍しく落ち込んだようにこう口にするので、アンに確認を目配せでしてからメリアは向かい側の席に座った。


ところでメリアは今年で10歳。対するハリスは今年で25になるので、はたから見ると相席している親子の様に見える二人である。


「その、年頃の女性というのはやはり騎士などにあこがれるものなのであろうか。ガタイが良いと、料理人というのはやはり似合わないだろうか…」


言葉にするうちに徐々に自信を無くすハリスとは対照的にメリアは控えめにくすくすと笑っていた。それを肯定と受け取ったハリスは「そうか…」と言ってさらに落ち込み始めたので、メリアは急いで訂正する。


「いえ!肯定したわけではありません!ハリスさん、我が食堂の食事の味はいかがでしょうか」


「へ?…非常においしいと思う。シンプルな味付けなのに素材のうまみが最大限に引き出されていて、又食べたいと思わせてくれるようなそんな素敵な味がする。」


口元を緩めてハリスはスープを一口飲んだ。


「ではそんな料理を作っているアンさんは魅力的にみえませんか?」


メリアの問いかけに彼女が何を言おうとしているのかつかんだハリスは「そうか…」と次は何やら納得したような口調で告げた。そしてバッと目線を上げて、メリアの手をつかみ、「ありがとう!」と告げてから、あわただしく食堂を後にした。メリアはもちろん、この食堂で食事をしていたほかの常連客やレイア、奥で料理をしているアンでさえもぽかんとした顔をしていた。


何が起こったのか分からないが、とりあえずハリスがうれしそうな顔をして出ていったのでよしとする。メリアはくるりと食堂全体を見渡して頭を下げ「お騒がせいたしました。」というと、「まぁ、なんか急用でもできたんでしょ」と客はみな自分の料理へと目線を戻した。唯一レイアだけ「平気?」ときいてきたけど、笑ってうなずくと、「そう」というだけで何も聞いてこなかった。


後日、ハリスさんが小柄でかわいい女の人を連れてきて、常連客から質問攻めにあい、それを助けたメリアとレイアにおそろいのハンカチを渡したのはまた別の話。

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