2章

第6話

「ルーク、先生に失礼はだめだからね。先生怒ると怖いからね」

隣で靴を履きながらるチョークが教えてくれる。


「うん。わかった」

この世界では初めて靴を履く俺だが、前世でさんざん履いてきたので難なく履くことができた。

履き終えると、ドアの前で先に履き終えたチョークとフォラキオ母さんが待ってくれていた。この家の玄関は広く、ここからドアの前までは4メーター以上もあった。

あのドアの向こうにはまだ見ぬ世界が広がっていると思うと、緊張する。何があるのだろうか。昨日はこの世界にどんな物があるのか想像を膨らましていたらなかなか寝ることができなかった。今、俺には目の前にあるドアが、はるか遠くにある、何か大きな関門のように見えていた。


ドアに向かって一歩一歩踏みしめるようにあるき出す。




――あのドアの向こう側にどんな世界があろうとも、俺は努力を忘れない。


俺は前世で一度人生を終えている。本当は二度目の人生なんてありえない。おかしい。

普通じゃない。

でも、一度人生を経験しらからこそわかってくることがあった。


『自由』


俺は二度目の人生は自由に生きる。

もう集団には混ざらない。

もう間違えない。

もう誰にも縛られない。

絶対に。

これは俺の人生だから。


誰かのためじゃない、自分のために努力しよう――


そう、この一年間思い続けてきた。



前を向くと、二人は数瞬前と同じように笑顔で待ってくれていた。いや、数瞬前どころじゃない。1年前から何も変わっていなかった。母さん―もう母さんと呼ぶのにもなれてしまった―は慈愛満ちた目を、チョーク姉さんは俺と行くことが嬉しいのだろうか、それとも母さんと行くことが嬉しいのだろうか。ただただ嬉しそうな目を向けてくる。


その目が今は少し怖かった。

自分だけのために生きるなんてすごく傲慢な決意をしてしまったと思ったから。

あの目を見てもまだそんな自分のために生きようだなんて言えるのか問われているような気がした。


違う!違うんだ!

とにかく俺は自分のために生きるんだ。

一人で生きるんだ。決めたんだから!

もう自暴自棄になって、一歩一歩なんていってないで走り抜けたかった。

一人でも生きてけるだって証明してやる。


そう思って踏み出すけど、思ったより力強くなくて、それが無性に腹立たしかった。


「ルーク、どうしたの?今日は先生に挨拶もするから私も行くわよ。ほら一緒に行きましょう」


母さんが不機嫌な表情になったルークを不思議に思って心配してくれる。


「そうだよ。今日はみんなでいくの。ルークも一緒に行くんだよ」


「…うん。いっしょにいこう」


さっきまで扉の向こうに自由があると思っていた。だが、その扉は前世の自分に逆戻りするためのものになり変わっていた。そんな気がした。

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転生したので【孤高】を目指す どうやってそんなに強くなったのか? そんなの【一人でずっと頑張ってた】からに決まってるじゃないですか 真辺ケイ @kei_kei

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